17話 一難去ってまた一難.2
建築屋の親方に、屋敷を新しく建てて貰っている間、立派な二階建ての家を借りたと言うか、村長に渡された。
「六畳の部屋五つに、トイレ、風呂付きで無料かぁ……ある意味代表特権だよな」
無駄に台所が広いんだよ。台所が何で部屋より広いんだ……八畳って、何人で料理作る気だよ。まぁ無料だし、ケチは付けないけどね。
唯一の不満と言うか、何でついて来てるのかな……この四人。
「ミルンと黒姫だけなら……十分な広さなのに」
「そう言うで無いわ。泊まる予定であったあの屋敷が、あの有様では無理じゃからの」
「婚姻を認めて頂くまで、離れるつもりはありませんの。御父様も了承されましたわ」
「旦那様の貞操を御守りするのも、婚約者である私の務めに御座いますので」
「私の像を作る約束でしょ!逃がさないわよ魔王!」
ルシィ、シャルネ御嬢様、ドゥシャさんに桃色お化けって、ついて来ないでくれ。
「魔王にモテ期なのぢゃ!?」
「お父さんはミルンのモノ!!」
黒姫……これはモテてるんじゃ無い。ただ、おかしい奴等が、おかしい事を言っているだけなんだよ。それとミルンさんや、お父さんはモノじゃ無いぞ、生物だからな。
とりあえず、早いヤツから片付けるか。
「ドゥシャさん。お願いしたいのだけど、そこの桃色お化けの像を作って欲しい」
ドゥシャさんが桃色お化けを一瞥して、チッ……って舌打ちしたぞ!?あのドゥシャさんが舌打ちって珍しいな。
「……どの様に作りましょう旦那様」
さすがドゥシャさん理解が早いな。
そうだなぁ……桃色お化けの要望通り、顔のシワから服装まで、完璧にしたいな。
「ドゥシャさんちょっとお耳を拝借……ゴニョゴニョ『んっ……くすぐったいです』……耳弱いのかよ、凄い声でたな」
心臓がバクバクしてます何、さっきの声……ちょっとだけ可愛く思えてしまった。
「じゃっ、じゃあそんな感じで宜しく。桃色お化けも、明日には出来るから、今日はもう帰れよ。ルトリアさんが待ってるんだろ」
疑いの眼差しを向けて来るなよ。
「大丈夫だって。ちゃんとお前の姿をそのままに、完璧な像を仕上げて貰うからさ」
「ふむ……なら良いわ。出来上がったたら、店へ持って来てちょうだい。魔王のスキルなら容易いモノでしょう」
それじゃあね──と店へ帰ったな……この都市に居着く気か、あの桃色お化け。
ふぅ、あとは……この三人か。
「ドゥシャはここに泊まるの?」
くっ、ミルンに先手を取られたか。
「左様で御座います、ミルン御嬢様。よもやこの寒空の下、女性を野宿させるなど、旦那様が良しとしませんでしょうから」
「お父さん。ドゥシャ泊まる?」
二人してコッチを見るなよっ……完璧にミルンを味方につけたなドゥシャさん。
「大変な魔王なのぢゃ……のぢゃ?」
「お主が魔龍か……先祖が失礼したの。儂が、ルルシアヌ、ジィル、ジアストールじゃ。今代で女王をしておる」
のぢゃとのじゃがのぢゃのじゃと話し始めたぞ……ルシィは黒姫を味方につけようってか。と言う事は必然的に……こいつが一人ぼっちになると。
「私は……泊めて頂けないので……しょうか」
その一言で、女性全員の視線が俺を向く。
その視線はどっちなの? 泊めて良いのか悪いのか、どっちの視線なの!? なんかシャルネ御嬢様が、今迄に見た事の無い顔になってるぞ……これは……若干寂しそう?
「俺の寝床に入って、既成事実みたいな事をしないのなら良い……そんな顔するな」
だって、この顔見た事あるんだ。
一人ぼっちで飯を食い、一人ぼっちでテレビを見て、一人ぼっちで風呂に入り、ふと、鏡に映る俺の顔が────そんな顔だったからな。
「皆んなも良いよな」
どうやら正解を当てたらしい。
皆んなが頷き、ミルンが珍しい事に、尻尾をシャルネの脚にスリスリと擦り付けていた。
「有難う御座います。それとミルンさん……私を母と呼んではくれま『嫌!!』せんか……」
「お主も、諦めの悪いヤツなのぢゃ」
「ミルン御嬢様、私ならばいかが『嫌!!』で……差し出がましいことを申しました。御容赦下さい……」
おぉ……シャルネだけじゃ無くて、ドゥシャさんも撃沈したなぁ……ドゥシャさん、コッチをチラチラ見て来ないでね。
「なんじゃ……ドゥシャがここまで元気なのは、初めてみるわ」
「これ、元気って言って良いのかルシィ……」
ミルンに気に入られたいシャルネ御嬢様が、ミルンの尻尾を撫でて、母と呼ばれたいドゥシャさんが、ミルンの頭を撫でている。
そんな中、黒姫がとことこと歩いて来て、両手を広げて俺に抱っこを要求してきた。
「この姿の特権なのぢゃ!」
「はいはい、分かりましたよっと……なんか重くなってないか」
姿は以前のままなのに、妙に重たいな。
この短時間で……太ったの?
「変わっとらぬわ!失礼なのぢゃ!!」
そうなの?……重たいけどなぁ。
まあ、良いか。
この重みが、大切な者を抱くと言う事だろうからな。ミルンと黒姫、二人の重みぐらい、俺の貧弱な力でも持てる様に努力するさ。
「黒姫だけずるいの!」
ミルンが、ドゥシャさんとシャルネを振りほどき、俺の肩に登って踏ん反り返る。
うっ……うん。
二人の重みを感じるぜ。