17話 一難去ってまた一難.1
さて……リシュエルが何処かへと消えた事により、これで一件落着もう何も無いよね。お休みなさい──と言うわけにもいかず、屋敷が無くなったので、一先ずは冒険者ギルドの一室にて、俺、ミルン、黒姫、桃色お化け、ドゥシャさんと影さん、ルシィ、村長に、アルカディアスのレイズ国王、シャルネ御嬢様が円卓を囲んで座っている。
誰も口を開かず……ミルンは出されたクッキーをモゴモゴとしながら黒姫を見つめ、黒姫はまじまじと桃色お化けを見て、桃色お化けは欠伸をしながら椅子に背を預け、ルシィは俺を睨み付け、レイズ国王はお茶をすすり、シャルネ御嬢様は俺を見つめている。
誰が最初に声を発するか……それによっては、この円卓が血に染まる事になる……かも知れない。
「うむ。ここは儂から言おうかのぅ」
ナイスだレイズ国王! 生贄は君に決めた!
「ジアストール王よ。アレは……何だったのかね」
ルシィにパスしたぞ!ほれルシィ答えろ!
「知らぬ。儂より詳しい者がおるじゃろそこに」
どこに居るんだろぅ詳しい人……あっ成程。俺の方を向きつつ黒姫に言ってるのか。
「黒姫。ルシィが詳しく説明しろってさ」
「我かや!? むぅ……絶対魔王に聞いておるじゃろう。まぁ良いわ!説明するのじゃ」
五百年前に起きた初代ジアストールと、魔王との戦いの原因。それは、リシュエルがジアストールへと渡した、あの王の剣が関係していた。
特定の者への精神干渉による洗脳。
それにより、魔王はジアストールに斬られ、傷を負い、黒姫が怒り狂って暴れたが、御使達にフルボッコされ、その途中で封印されたとの事。
「えっ……御使ってリシュエルだけじゃ無いの」
「当たり前じゃ。あの時、リシュエルだけであれば、我が良い様にされる事は無かったのじゃ」
へ──っ。まあ力が落ちても、リシュエルと互角だったもんなぁ……黒姫って最強クラス?
「それで……何で黒姫の封印が解けたんだ」
最強クラスを封じる封印を、力が弱った黒姫が自力で解くってのも、おかしな話だしな。
「知らぬわ!……いや……あの時、神の波動を感じたのじゃ。それも下級神の様な者では無く、そこの……そうじゃ!そこの女神の波動じゃ!」
えっ……桃色お化けの波動?
というか桃色お化けは下級神では無いのか。
「どういう事だ、桃色お化け」
急に話を振られた所為か、キョトンっとした顔をしてるんじゃ無いよ話きけよ。
「私は何もしてないわよ? 全盛期の龍を封じ込めた封印が、私の波動だけで解ける訳がないじゃないの」
訳がないじゃないとの言われても、それが本当かどうか何て判断つかないんだよ。
「ふむ。そうだ流殿……あの空に現れた巨大な……そこのミルンとやらは、一体何だったのじゃ」
唐突に話変えやがったなレイズ国王。
あの魔法なぁ……口から水みたいなビーム出してた巨大ミルン。それを何かと聞かれれば────分からん。
「怒りと悲しみが混ざり合って、ミルン像の事ばかり考えて魔法撃ったら……ああなった」
「おっきなミルン強かったの!」
ミルンも見てたのか……アレだけ大きいなら何処からでも見えるわな。
「アレは素晴らしい魔法で御座います旦那様。ミルン御嬢様の御姿が毛並みの一本にいたる迄再現されており、私の未熟さを痛感致しました」
あの魔法。ドゥシャさん作のミルン像壊されて、頭にきて魔法撃ったらああなったから、それほどにミルン像が、ミルンにそっくりだったと言う事だからね。
「ドゥシャさん。悪いけど、またミルン像作ってくれよな。今度は湖にも設置しようぜ」
待てよ……各門に設置するのも有りなんじゃ無いか────それだ!!
「また魔王が、変な事を思い付いた顔をしてるのじゃ……大概にせぬとミルンに嫌われてしまうぞ」
ミルンが俺を嫌う事は無い!
と言うか黒姫はいつまで、そのナイスバディな姿でいる気だ……ミルンがずっと胸を見てるぞ。
「黒姫は元の姿に戻らないのか」
「我は本来この姿なのじゃ! あの姿は弱っておったからで、この姿の方が良いじゃろ魔王!」
ほれ!っと胸を強調してますけど、確かに立派な御胸様ですけど……ミルンがこっそり近づいてるぞ──ほれ見ろ。
「のじゃ!? 痛たたたっミルンやめるのじゃ!!」
「立派な御胸は、黒姫には似合わないの!」
全力で握り潰しにかかってますねミルンさん。そんなに黒姫の御胸様が嫌いなのかな。
「分かった!分かったのじゃミルン────! この姿で居ろと言う事なのぢゃな!!」
お──っ凄い。一瞬でいつものぷにっと黒姫に戻ったな。やっぱり黒姫はその姿が一番しっくりくるぞ。
「黒姫はずっとそのままで良いの!」
「なぜぢゃ!?」
うんうん。黒姫に抱きついて、頬っぺたをぷにぷにとするミルンが可愛いなぁ。
「いっこうに話が進まぬ……陛下、とりあえず流君達には、退席して貰ってはいかがでしょうか。このままでは、時間ばかりが過ぎてしまいますぞ!」
村長良い事言うじゃん。
俺が居ても邪魔になるだけだし、そろそろゆっくりだらだらしたい。
「それは困るぞヘラクレス殿。我が娘のシャルネが、そこの流殿との婚姻を望んでおるのじゃ。本人が退席しては、話がすすまぬ!」
「子供は十人欲しいですの、魔王様」
何か言ってるけど嫌だからね。
そんな鉄仮面に細筋を搭載した、頭のおかしい殺戮人形もとい、筋肉人形シャルネ御嬢様と結婚何てした日には……俺死ぬよね。
「口を挟み申し訳御座いませんアルカディアス王。其れに関しましては、無理かと存じます」
ドゥシャさん……助けてくれるんだね!
「そちらの魔王様は、私の婚約者となっております。他国の御嬢様と、婚約を認める事が出来ません」
んっ……?
俺の聞き間違いか……ドゥシャさんが可笑しな事を言った様な、気がするんだけど。
「ドゥシャなら良いの!」
ミルンさん何を認めたんだい?
おいルシィ……何を頷いている?
「魔王よ、気づいておらなんだか。このドゥシャは、お主に会ってからずっと、旦那様としか言っておらぬだろう」
「どう言う事だルシィ。俺、何も聞いてないし、婚約した記憶も無いんだが……」
マジでどう言う事なの!?
「魔王……気付いておらぬのぢゃ」
黒姫まで何なんだよ。
俺に分かるように説明してくれ!
「流君。君を、この国に縛る為の鎖の様なものだ。まさか、気付いていなかったとは……」
村長まで!? 何ドゥシャさん呆れた顔してっ、おい桃色お化けまで、馬鹿の子を見る様な目で見て来るなよ!
「ぽっと出の、素性も知れないしかも魔王が、この都市の代表の一人となっている事に、違和感を覚えるべきだわ」
お前にマトモな事を言われると腹が立つ!!
じゃあ何か……王都から、ミルン付きメイドとしてついて来ただけじゃ無くて、俺の婚約者としても来たって事!?
「ドゥシャさんはそれでいいのか!?」
ドゥシャさん間違い無く暗部の人間でしょ? そんな偉い人が……いざとなったら俺を処分する為なのか!?
「ミルン御嬢様の母となれるのならば、このドゥシャ、魔王様とも契りを結ぶ所存に御座います。子供は二十人欲しいところですね」
それ、俺を殺す気じゃないか?
「うむぅ……ならば側室しか無いのぅ。我が娘が側室となるのは非常に不快じゃが……」
「御父様、私は構いませんわ。魔王様と婚姻出来るだけでも、幸せですもの」
お前ら親子は少し黙ってろよ!!
そんなこんなで、何も始まらず、何も決まらずに、この話し合いは、後日に持ち越された。
ただの無駄話しだったよ。
ミルンと黒姫連れて、何処か旅にでも出ようかな────どこかに温泉でもないものか。