15話 のぢゃっ子フルスロットル!.5
危うく乙女になる所だった……ミルンが俺の股間数ミリ手前の地面にパンチをした時は……風圧で一瞬潰れたかと思ったよ。
「次ミルンを置いていったら……潰すね」
この眼はマジだ……耳と尻尾も逆立ってるし逆らうと……男が終わる。
「悪かった、もう置いていかないよミルン」
そう言うと、ミルンが俺に抱きついて来た。
身体を震わせて……心配かけちゃったなぁ。
「ミルン御免な。帰ったら埋め合わせするから、今はアレをどうするか、一緒に考えてくれ」
「黒姫と……だあれ?」
リシュエルって言う元凶です。と言って良いモノか迷うんだよなぁ……出来ればミルンにアイツと関わって欲しく無いけどっ。
「アレが、俺の頭の中で、時々変な事言ってくる元凶の、リシュエルと言う化物だ」
誤魔化しても、いつかはバレる可能性が有る以上、ここは素直に言うべきだよな。
「ふむ、初耳じゃの魔王よ。今は長話している暇がない故、端的に話すが良い」
偉そうに言いやがるなルシィめ、ざっくり言っても時間がかかるわ。
「端的にも何も、さっきも言ったがアレが元凶だ。五百年前だかにあった魔龍の伝説も、あのリシュエルが深く関わってるんだろうさ」
剣折ったらリシュエルが現れました!って説明しても分からんだろうし、俺もわからん!!
と言うか……剣折っちゃったからどうしよう……ルシィ泣くかなぁ。
「陛下、話をするにしても、この場所では危険です。一度ファンガーデンへと戻り、防備を整えられた方が宜しいかと……」
全裸の村長がマトモな事言うと、変態が変な事を言ってる様にしか見えないぞ。
「お父さん、お空光ってる!」
あぁ、あの二人の魔法だな。
どっかで見た魔法をポンポンポンポン撃ちまくって、少しでもズレたらファンガーデンどころから大陸が消し飛ぶかもね……シャレにならん。
「いっその事ここから魔法撃ってみるか……いや、当たらないだろうなぁ。リシュエルの奴めっちゃ動いてるし……御使ねぇ……御使?」
神の御使……何か忘れてないか……御使。
さっき空間収納見た時確か────あっ……居たわ……この状況どうにか出来る奴。
「ミルン、村長、ルシィ、急いでファンガーデンに戻るぞ!!」
「お父さんどうしたの?」
「何か思いついたのかね!?」
「リシュエルとやらの話を聞いておらぬぞ!」
この女王置いて行こうかな……影さん達に怒られそうだから無理か。
「話は後だ。ミルン、俺の背中にしがみついて離すなよ。村長はそこの女王様を全裸で抱っこしてやりな! 先にいくぞ────ふっ!!」
「まつのじゃ魔────!?」
ミルンを抱っこして直ぐ全力ダッシュをかまし、ルシィが何か言っていたが、既にかなりの距離を移動している為聴こえない。
「お父さん凄く速い!?」
そりゃぁ速力だけは高いからね! 成人男性の四倍の速力が出ます! 魔法は不安定だけど、ステータスは裏切りませんってか、力が上がればなぁ。
「おっ裏門見えてきた────そう言えば会談途中だったな。今は無視だ!!」
裏門で空を見上げて震えている一団、アルカディアスのレイス国王と、シャルネ御嬢様を無視して、全力で駆け抜ける────とドゥシャさんが追従して来た。
「旦那様!ご指示を!!」
流石出来るメイドさんだ。
「裏門付近の住民を反対側、正門付近へ誘導!アルカディアス国王と御嬢様も避難させろ! また、後から女王と全裸の村長も来るから保護を頼む! 俺は空でドンぱちやってる奴等をどうにかする! かかれ!!」
「御意に!!」
何も質問せず、指示を仰ぐ。緊急事態だからこそ、必要な能力だよね。
よっしゃあそこだ!!
歓楽街と繁華街の隙間に建っている店。
ニート化していたが、立場的には間違い無くあのリシュエルより上位の存在。
「桃色お化けは居るかぁあああ────!!」
勢いそのままに扉をバギィイイッとブチ壊し店内へと滑り込む。
「来たわね魔王……待っていたわ」
そこには────酒瓶片手に干し肉を齧りながら偉そうにしている女神、アルテラが居た。
※
「桃色お化け、状況は──分かってるよな。どうにかあの二人、というかリシュエルをどうにかしたい。力を貸せ」
くっちゃくっちゃっと行儀悪く干し肉齧りやがって、これが女神かよ……いや、抑えろ俺、今はコイツに頼る他にすべが無い。
「来ると思ってたわ──でも無理ね。無理無理む──り絶っ対っ無理!」
はぁ……コイツ酔ってないか?
「何でだ、お前女神なんだろ。御使の一人や二人、押さえる事が出来ないっていうのか」
マジなのか、巫山戯ているだけなのかが全く分からん。コイツ女神なんだよな?
「良く考えてみなさいよ──! 何で女神である私が、貴方みたいなポっとでの魔王にやられたのか」
あ──確かに。
この桃色お化け、一度俺に負けて、身に付けていた装備一式俺に剥がれたもんな。女神と称する存在にしてはクソ弱かったけど……まさか、力が出せなかった?
「理解した様で何よりだわ。女神たるこの私が、もし力を抑えずにこの世界に現れていたら、貴方の存在なんて息吹くだけで消せるわよ。存在を抑えに抑えて、削り取って、やっと現出出来るの。それでも十分な筈だったのに……まさか魔王ごときに、こんな姿にされるなんてね」
マジかよ……これ詰んだ?
いや、諦めるな。
「少しの時間で良い。リシュエルの動きを止める事は出来るか」
俺の言葉に桃色お化けは少し考え、頷く。
「私の衣服、装飾を返してくれるのならば、出来なくはないわ。ほんの少しだけどね」
なら、止めている間にリシュエルに魔法をぶち込めるって事だな。
「でもお断りするわ」
は?……何でだ。
「この地に住まう者がどうなろうと、私には関係ないし、私の信徒さえ護れればそれでいいもの」
こいつっ……マジでもう一度殴ろうかっ。
抑えろ俺……ふぅっ。
今は交渉している時間が無いんだ。
「この地に新たな聖堂を造り、お前そっくりの像を置く。像を作るのは、俺の屋敷に有るこの可愛いミルンをもした像を作った人に頼む。これでどうだ」
クソっ、嫌な笑顔作りやがって。
「じゃあそれで契約成立ね。リシュエル如き、押さえるのなんて楽なものよ」
絶対に、お前そっくりの像を作ってやるからな。楽しみにしておくと良い。