14話 続.幼女が怒ると美少女に?.5
ちょっとだけ、父の娘の感動の再会はどんな感じだろうかと、楽しみにしてたんだけど……物理で会話か?
ミルンと黒姫がシャルネ御嬢様を連れて部屋に入って来た瞬間『こんの馬鹿娘がぁあああ────!!』と国王の拳がシャルネの顔面に刺さり、入って来た扉を戻って壁に埋まった。凄い力だな……シャルネ生きてるのかこれ。
「ふうぅぅぅ……感謝する、流殿」
何がやねん壁壊しやがって。
「おい国王、壁の修繕費は高くつくぞ」
この親子……嫌いだから凄い金額請求しよう。金額一千枚だな、そうしよう。
「うむ。娘が迷惑をかけた分と含めて、金貨二千枚は支払おう。足りぬなら言って欲しい」
マジか……どんだけ金持ってるんだよ。
海洋国家……そうか塩だ塩! こいつら海に面しているから作り放題取り放題じゃん、儲かる訳だわ。
「お久しぶりですわ御父様。私に拳を向けるなんて、子供の時以来ですわね」
やっぱり無傷なんだよねこの御嬢様。壁抜け出してしれっと入って来やがった。
「彼奴は物理耐性が高いやもしれぬのぢゃ」
「やわらかいのにかたい?」
そうだねミルン。柔らかい見た目で、細身の筋肉マッチョなんだよあの御嬢様。
「シャルネや。お前の短慮で危うく、ジアストールと戦になるやも知れなかったのじゃ。引き渡しまで大人しくしておれ」
ほんとそれな!
出来るなら部屋の中で大人しく刺繍でもして、引き渡しまで外に出ないで欲しい。
「大丈夫ですわ御父様。私、そちらの魔王様に大人しくする様、言われておりますので、ご安心下さい」
そうそう大人しく────おぉおお前更に面倒臭くなるからそういう事を言っちゃ駄目ぇえええええええええ!?
「うむ!この流は魔王なのぢゃぷ!?」
お前も何を言ってるのかな黒姫ちゃぁあああああああん!!頬っぺたぷにぷにぷにぷにぷに……なにこれ餅みたぃ気持ち良ぃ……。
黒姫の頬っぺたを両手でぷにぷに……ぷにぷに……ミルンが時々黒姫の頬をぷにってる理由が分かったな。
「やみゅるのぢゅみゅおうのぢゃぷのぢゃぷ」
このぷにぷにはミルンの尻尾にも匹敵する心地よさと、尻尾には無い弾力が手に柔らかな振動を与え、ぷにぷにぷにぷにぷにぷに。
「おとうさんずるい!わたしもぷにるの!!」
ミルンも黒姫のぷにぷにがお気に入りのようだな。よしミルン、一緒にぷにろう!!
ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに『やめるのぢゃぷ阿呆共!!』ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに────よし、コレなら誤魔化せただろう。
「流殿、魔王とは……どう言う事なのだ」
クソっ誤魔化せないか。
何と言ったもんかなぁ……うぬぅ。
黒姫の頬っぺたも真っ赤になってるし、次はミルンの尻尾をモフモフして誤魔化せないかな。
「くろひめぷにぷに」
まだミルンぷにってるよ……どうしよう。
「御父様。そんな事よりお願いが御座いますの」
おっ、シャルネ御嬢様が話を逸らしてくれるのか? 良しイケやれイケお願いします!!
「なんじゃシャルネ」
良し話がそれた!!
「私、こちらの魔王様と婚姻を結びたいのですわ」
ん────────っ?
シャルネ御嬢様のその言葉に、俺も含めてこの部屋に居る者全てが、まるで時が止まったかの様に固まり、そのまま一分……二分……五分……と経ち、結局、ドゥシャさんが御茶菓子の追加を持ってくるまで、誰も何も話す事は無かった。
「旦那様失礼いたしま──どうされたので?」
うん。どうされたんでしょうね。
※
シャルネ御嬢様の話をとりあえずは聞かなかったかった事にして、女王が来るまで解散と言う形でその場をやり過ごし、一度その場から立ち去る事に成功した。
「あ────怖かった……急になんだよアイツ」
気分をリフレッシュする為、ミルンと黒姫を連れて一度屋敷の外へと避難。ミルンの尻尾をモフモフしながら屋敷前のミルン像を眺めている。
「アイツにお父さんはあげない!!」
ミルンはご機嫌斜めだなぁモフモフ。
なんか黒姫は遠くを見つめながら、のぢゃのぢゃ言ってるし何と交信してるんだ?
どれ、聴き耳をたててみるかな……ふむ?
「血の臭い……懐かしい……近づいて?」
何の事だ……近づいてって何か来るのか?
おっ村長じゃん。一緒に居るのは……ルシィじゃんもう来たのか。
「よおルシィ、久しぶりだな」
真紅に染まった眼を向け、長い銀髪をなびかせて、偉そうに大股で歩いてくる女王。
ムカつくからまた泣かそうかなと思わないでも無い。
「久しぶりだの魔王。良くもまあ色々としでかしてくれたものじゃ」
色々ってなんだろうね。
そういや他の護衛とかいないのか……女王だけしか見当たらないと言うか女王が首都を離れるなら、大名行列みたいに大勢で来ないか普通?
「なにを探しておるのかは察するが、今回の会談は極秘で行うからの。護衛は影がついておるからいらぬわ」
極秘だったのかこの会談。どうりでアルカディアスの一団も人数が少なかった訳だわ。
「ルシィが武器持ってるの初めて見るな」
腰から剣をぶら下げている。
以前王都で会った時は武器なんて持ってなかったもんな……王の剣ってやつか。
「────のぢゃ」
んっ? 黒姫何か言ったか?
俺の膝の上で黒姫がもぞもぞしてる?
「ふふんっ。この剣は王家に代々伝わりし秘宝なのじゃ。儂が外へと出る際には、必ず持たねばならぬ。王の証じゃからのぅ」
へ──王の証ねぇ……確かに見た目は良いな。
これぞ伝説の剣みたいな物か。
「それ格好良いな、抜いて見せてくれよ」
異世界に来てから剣は何回か見たけど、こんなに格好良い剣は初めてだから、男心をくすぐられるな。
「ふん。本来なら、貴様の様な奴に見せる物ではないのじゃがの。御付きも居らんし、今回だけじゃぞ」
そう言ってお前もノリノリじゃ無いのかルシィ……鼻歌聴こえるぞ。
女王が剣を抜こうとした時、またウザいアナウンスが頭に響いた。
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが────『逃げた方が良いですよ?』
ピンポンパンポーン(下がり調)
だからレベルは!? 上がったのかどうかぐらいちゃんと言えよリシュエル!!
何だよ急にリシュエルの奴……逃げろ?
「どうじゃこの王の剣は。かつて、初代ジアストールが魔王を斬ったとされる剣なのじゃ」
おっ……どっかで聴いた様な話だな。
なんだっけ確か……そうそうリティナから見せて持っらた本に書いて……た……あっ。
俺はそっと、膝上の黒姫を見てみると……その抜き放たれた剣を凝視して────本の内容の言葉が頭をよぎった。
『いつか必ず目覚めた時に報いを受けさせるのじゃ』
「おいくっ、黒……姫────!?」
突如として黒姫が闇に呑まれ上空へと跳ね上がり、黒姫を呑み込んだその闇が、大きく、大きくと膨らんでいく。
「何なのだアレは……」
何だろうな村長……マズそうな雰囲気だ。
「黒姫どうしちゃったの?」
俺が聞きたいよミルン。
「闇が……膨らんで、何じゃアレは」
世界樹を越える大きさと成った時、その闇からゆっくりと、怒りの咆哮を天に向け、甦ったその存在は────
「……龍じゃ無いよなアレ……ドラゴンじゃん」
────最古の龍が襲い来る。