11話 争いを好まぬ王
【11話 争いを好まぬ王】
「うむぅ……まだシャルネからの連絡は無いのか?冒険者の動向はどうなっておる」
海洋国家アルカディアス国王、レイズ・アルカディアスは焦っていた。可愛くも恐ろしい一人娘のシャルネから一向に連絡が来ない事に。
「恐れながら申し上げます。未だシャルネ御嬢様からの手紙や言伝等は届いておりません。冒険者に関しましては、この首都だけで無く、各村村からジアストールへの流出が始まっており、非常に不味い状況になりつつあります!」
「であるか……どうしたものかのぅ」
王妃にこの案件を任せてしまえば間違い無く戦となる。しかしこのまま手をこまねいては国力の低下に繋がる。そして何より、情報が全く足りない。
「陛下、あと二つ程、御報告が御座います」
こやつが儂の許しも無く喋るのは初めてだな……それ程に重要か事か。
「良い、申せ」
「はっ! コレは行商の者達から聞いた話では御座いますが、我ら海洋国家アルカディアスと、ジアストールを隔てる山が少なくなったと言っており、又、山を越えた先にあるジアストール領内に巨大な都市が出来ており、それを囲む様に城壁が聳え立っているとの事。直ぐに斥候を向かわせ確認させましたが、間違いございませんでした」
うむ。行商の話を鵜呑みにせず、即座に斥候を向かわせて確認してから儂に報告をするとは、良い兵士じゃ。しかし、そうなると非常に不味い。山が消えた? 巨大な都市が城壁に囲まれて存在する? 元々あそこには小さな村しか無かった筈なのにか。
「ジアストールめ、戦の準備でもしておるのか」
国力で言えば間違いなく我等が有利どころか国の規模が違う。しかし、あの光の柱や空高くまで昇る煙……神か魔王か、迂闊に手を出せば国が滅ぶやもしれぬ。
「じゃが……シャルネが大人しくしている訳も無し……か」
行かせるべきで無かった。最悪一人娘を見捨てなければならない。しかしそれを王妃が許すとは思えぬ。これは最早一刻の猶予も無しか!!
「至急、ジアストール王へ書簡を届けよ!!」
頼むから娘よ……大人しく帰って来てくれ。
※
ジアストール城の執務室にて、女王は海洋国家アルカディアスから届いた書筒を開け、中身を確認する。
「奴め、相当焦っておるようじゃな」
そこに書かれている内容は主に四つ。
一つ、海洋国家アルカディアスは、ジアストールと争う気はない事。
二つ、光の柱、天にまで昇る煙の詳細を分かる範囲で明らかにする事。
三つ、すでにジアストール領内へ入っているアルカディアスの要人を保護し、引き渡す事。
四つ、アルカディアス領国境線付近に造られた城塞都市の説明。
「さて、どれも奴からしたら重要な内容ではあるが……ぷっくははは!!城塞都市と言わしめるとは!! 魔王め、影から報告を受けてはおるが、やはり儂みずからの眼で確認せねばならぬの」
幸い復興もそこそこに済んでおるし、直属の文官もラナを中心に六名増やし、あの糞まみれ大臣の代わりも用意出来た。
「久々に、持つとしようかの」
女王はそのまま執務室を出て謁見の間へと進み、その壁に取り付けられている剣を手に取る。
「外へ出るには、何かと物騒じゃからな」
かつて、初代ジアストールと魔王が戦った際に使われたとされる剣。未だ錆びず、朽ちず、その剣心を輝かせ、見る者全てに力を与えるその王の剣を持ち、女王は身支度をするのであった。