10話 いつの間にやら城塞都市.6
なんか羽乳姉ちゃん……肌が小麦色に日焼けして、初めて会った時よりちょっと太った?
俺が徐々に近づくにつれ、羽乳姉ちゃんの顔が青ざめて行くぞ……何か逃げようとしてないか?
「おとうさんなにかした?」
いや、何もしてないんだけど? 会うのも久しぶりだしな。
「魔王だからなのぢゃ!」
それは前に鑑定眼で見られてる筈だから違うと────いや、それだ黒姫!!
初めて会った時は確か準魔王で、今の俺はマジ魔王だから違うわ!
そりゃ逃げたくなるわなぁ。
魔王が犬耳ミルンを肩車して、角っ子黒姫を抱っこしながらゆっくり歩いて来るというカオスだもんな。
魔王の威圧で角生やした姿見せたらどうなるんだ……面白そうだけど止めとくか。
あっ逃げた……走るのかよ!?
飛んだら落とされるとでも思ってるのかな。落とさないよ、叩き落とすだけだよ?
「ミルン、走ってあの羽乳姉ちゃんを捕まえるんだ! 黒姫は出来るだけ高く飛んで逃げ道を塞ぐ役割を与える! さぁ狩の時間だふははは!!」
ミルンは尻尾を振り振り走り出し、黒姫は翼をパタパタとはためかせ上空へ。
黒姫、結構高く飛べるんだな。ちょっと羨ましいぞあの翼……魔王には無いのか?
いつか生えるんだろうか……翼。
まぁ、無いモノねだりだな。
にしてもミルンが凄い勢いで羽乳姉ちゃん追いかけて……俺が狩って言ったからかな。
「ミル──ン! 生捕りだぞ──!」
これで安心だな。走ってるミルンにちゃんと聞こえていれば、羽乳姉ちゃんが死ぬ事は無いだろう。
若干話し声?が聴こえてくるな。
「やめて下さい!抵抗しませんから!」
「お父さんを誘惑する乳をもぎ取るの!!」
「角を尻にぶち込むのぢゃ!!」
うん。コレは急がにゃ不味いわ。
「今度は加減して──走るっ!!」
やっべぇ凄え加減してもこの速さかよ!?
ミルンが羽乳姉ちゃんの乳に噛みつき、黒姫が尻に狙いを定めて突っ込む瞬間────俺は黒姫が低空飛行になったところを掴みとり、そのままミルンの側へ行き尻尾をモフモフして落ち着かせた。
「二人共やり過ぎだぞ。大丈夫か羽乳姉ちゃん」
「おとうさんはやい!!」
「あと少しだったのぢゃ!!」
ヤル気満々かよ二人共……羽乳姉ちゃん震えてるじゃん。
「もうっ申し訳御座いません魔王様!!」
また土下座……絶対異世界人の奴が広めただろこの土下座。元々礼義の一つだから謝ってる感じがしないんだよなぁ……御奉行様ははぁ──!!ってな感じ。
「頭を上げてくれ。俺の称号が見えて怖がってるだけなんだろ? 別に何もしないから、話を聞きに来ただけなんだ」
ミルンと黒姫はまだ獲物を見る様な眼つきで羽乳姉ちゃんを見てるけど、俺が押さえてるから大丈夫……な筈だ。
「はぃ……こちらへどうっぞっ……」
魔王になった俺が怖いのか、ミルンや黒姫の獲物を見る眼が怖いのか……どっちも怖いか。
※
畑から出てすぐの場所にある移住者達用の素敵なログハウスに入り、ウッドチェアに腰掛け、ウッドテーブルを挟み話をする。
「ただの木製でも言い方一つだなぁ」
でも快適なのは間違いないからね。
水を贅沢に使えるシャワーと水洗トイレ付きで、家賃は何と無料ですから。
おっと羽乳姉ちゃんがずっとおどおどして待ってたな。それじゃあ畑の話でも聞こうかね。
「誰がジャガ畑管理してるの?」
単刀直入これ大事。
遠まわしにいってもまどろっこしいからね。
「わった私でっ御座います!」
なんだ羽乳姉ちゃんが管理してたのか。
まあ、その日焼けなら納得だわな。
なんであんな植え方なんだ? あれじゃあ隣の芋が腐ったら連鎖して全滅だぞ。
「申し訳ございません! 畑を育てた経験が無く、他の獣族達と相談しながらやってきました」
まぁ一からやるのでは無くゼロスタートだから仕方がないと言えばそうだが、せめて村長ぐらいには相談しないと駄目だな。
「分かった。ここまで育ててしまったのなら最後までするしか無いけど、収穫時期過ぎたらすぐ村長に相談してくれ。次に何を植えるか、どうやれば良いのかを伝える様にするからさ」
ケモ耳達に畑だけ与えて育て方を教えなかった俺達にも非はあるし、今後の課題だな。
「はい! その様に致します魔王様」
一個一個課題を潰す……苦手なんだよなぁ。
働きたく無いよマジでね。