10話 いつの間にやら城塞都市.3
そう言えば前の商会長の…ネガリ? の後釜が誰になったのか知らないな。見に行ってみるか? 抜き打ち監査ですはい悪い豚野郎なら早めに処理しておかないと腐るからね。
「ほんっとに立派な建物だよまったく」
冒険者ギルドと商会が合体した建物だからマジで無駄にデカい。
いっそここを拠点にした方が良いんじゃね。
「ぼうけんしゃいっぱい!」
「人が多いのぢゃ」
二人の言う通りだ。
門は時間指定で解放して身体検査や荷物検査さえクリアすれば出入り自由にしたし、近くには魔物豊富な山々が連なっているから仕事には事欠かない。
だからこそもっと冒険者を増やす。
「兵士が足りないから仕方無いよなぁ」
そんな事を思いながらも来たぜ入り口前。
ミルン、黒姫、分かっているよな?
「だいじょうぶ!!」
「どっちぢゃ! 今度はどっちなのぢゃ!?」
良しっ入るぞ! せーのっ!!
「……」
「……」
「おぢゃまする……のぢゃ!? なぜ何も言わぬのぢゃ我だけ恥ずかしいのぢゃ!!」
いや、ここはただの出入口だから挨拶する必要は無いぞ? おかしな黒姫だな。
「くろひめじょうしきない?」
「非常識な二人に言われると腹が立つのぢゃ! その可哀想な子を見るような眼を止めるのぢゃぁあああ!!」
こらこら抱っこしてるんだから暴れないでくれよ黒姫さんや。
「くろひめしずかに!」
ほら、ミルンに怒られただろ。こういう場所では大人しくしてような。
「また我が悪者にされたのぢゃ!?」
黒姫がまたのぢゃのぢゃしてるよっと、受付は──あそこだな間違い無く。
良いチョイスの衣装だな、誰が考えたのだろうね。
「ねりあにすがうさぎぞく?」
そうだよミルン、あれは兎族さんだ。
冒険者受付の中で一番忙しそうにしているな。まあ、あんな姿じゃ仕方ないけどね。冒険者は比較的男性が多いから自然と明かりに群がる虫の如く、生者に群がるゾンビの様にあの姿に惹かれるのだろうさ。
「────のぢゃ?」
どうした黒姫? 急に大人しくなって。
「あの時の気配なのぢゃ?」
あの時の気配? なんのこっちゃ。
辺りをキョロキョロ見てるけど普通に可愛いんだよな撫で撫でしちゃうぞ撫で撫で。
「気のせいのぢゃぁのぢゃぁ」
やっぱり撫でに弱いのか黒姫。
うぷっ? ミルンさん……顔の前に尻尾を垂らすと前が見えないんだけども。
「くろひめばっかりズルい!」
おぉーヤキモチかごめんよミルン。ミルンの尻尾もモフモフするから許してねモフモフ。
「流さん……出入口で立ち止まられては迷惑です」
ネリアニスさんがいつの間にか目の前に来てたよやっぱり足音無いよねこの人。
「ネリアニスさん久しぶり。凄い似合ってるよ、その兎耳っぷふっくくくっ」
つい笑いがっヤバいっくくくっエロ面白い。
「流さんが決めた衣装とお聴きしましたが?」
あれー俺そんな衣装頼んだかなーっぷぷ。
そんなに睨んでも仕方ないでしょ? ちゃんとあの時の罰を償って貰わないとね。そのバニーちゃんで。
「ミルンさんに接近してはいけないと言う罰も頂きましたが、大丈夫なのですかお連れして」
それは大丈夫。ネリアニスさんから接近したら駄目だけどミルンから近づくなら問題にしない。同じモフり仲間だしね。
「流さん……有難う御座いますううぅっ」
そんな泣くほど!? いや、俺もミルンに接近禁止って言われたら泣くか。
丁度良いからここ最近の状況聞いて良い?
「それでしたらこちらにどうぞ、お茶をご用意致しますわ」
※
あれっ? 五階に行かないのかな、階段はあっちですよネリアニスさん。
「前商会長が使っていた部屋は今は簡易の宿泊所として冒険者の皆さんに利用して貰っていますの」
幾らで? 無料って訳が無いよね。
「一日素泊まりで三千ストールでございますわ」
三千ストールなら銅貨三十枚か、結構良心的だな。ネリアニスさんならもっと搾り取りそうな感じがするんだけど。
なんでネリアニスさん苦笑いしてるんだ、俺何か変なこと言ったか?
「流さん、新人冒険者の稼ぎが幾らかご存知ですか?」
日当一万五千ストールぐらいか? いや、一万ストールかな。
「どちらもハズレですね。新人冒険者ですと大体の相場は五千ストール前後といったところですわ」
五千っ!? 低いなおい、それでどうやってここに泊まれと……。
「そこはギルドとして貸付をしております。しっかり働いてランクを上げ、早く自立しないと大変な事になりますね」
取立だな怖いよギルド。
「こちらの部屋でお待ちください。すぐお茶を持って来ますわ」
そんなに急がなくてもミルンは逃げないぞ。そんなにミルンの尻尾触りたいのかネリアニスさん。
「ねりあにすならさわってもいい」
ミルンは本当にネリアニスさんに懐いているよね。何か感じるモノでもあるのか?
「いやな"め"じゃない」
なるほどね、確かに優しい眼だな。