9話 桃色お化けの糞女神.1
この十日間は地獄だった。
朝太陽が昇ると同時にミルンと黒姫に叩き起こされ、朝食後モフる間も無く村長に役場へ連行され仕事を開始。
普通の人や普通のケモ耳ならスムーズに面談出来て楽なんだけどね、時折普通じゃ無い奴等が来るから時間を取られてイライラするんだ。
「ここに住めば獣族を好きに出来るらしいじゃねえか。おら、早く許可だせよおっさん」
こんな馬鹿も来るんだよマジで。
こう言う奴には基本村長が対応する。
だって俺が対応したら問答無用で消炭にしそうだからってドゥシャさんや影さんや村長が言うんだもの……消炭にするけどね。
「誰に何を聞いたか知らぬが、貴様をこの町に住まわせる事は無い。どうしてもと言うのならば! ぬぅん!!」
大体の奴は村長のマッスルを見て逃げるか腰を抜かすんだけど、たまに剣を抜いて向かって来るんだよね……村長に半殺し? にされて町の外に放置され、そのまま待機している移住希望者達に身包み剥がされるんだけど。
「世知辛い世の中だなぁ……また来たよ」
普通じゃない人。
巨乳神官さんもその一人だからね。
ピンポポパンポンポーンポフッ(上がり調)
「どうか私にここに住まう許可を!『私が言ってるのになぜ聞かないのです! その子を住まわせ、私の像を作り崇めなさい!!』神がそれを望まれているのです!」
ピンポポパンポンポーンポフッ(下がり調)
だからお前の顔知らんのにどうやって像を作れと言うんだ馬鹿女神が!! 毎日毎日毎日毎日毎日頭の中で騒ぎやがってノイローゼにるわ!?
「何回来ても変わりませんお帰り下さい。それと糞女神いい加減頭の中で騒ぐな!! 像作って欲しいなら顔ぐらい見せやがれ!!」
みたいな感じで対応して追い出します。
像くらい他の場所で作れば良いじゃないか。わざわざ教会を粉微塵にした張本人に像作れって馬鹿なの? 馬鹿なのか。
それじゃあ次は──次も普通じゃない人か。
犯罪者予備軍や巨乳神官さんみたいな人より厄介なのが来たよ対応したくない。
巨乳神官さんは"うざい"だけで断ればすんなり引き下がり、騒ぎたてることはしないし、犯罪者予備軍は"簡単"に村長が取り押さえ叩き出すから問題にもならない。
「ほれそこの下賎の者よ、さっさとこの地を我に献上せぬか。貴様の様な成り上がりには勿体無い場所であろう」
そう……馬鹿貴族の対応は"面倒"なんだ。
「えーっと、貴方様はどちら様ですか?」
本当に知らん。こちとらなんちゃって貴族ですからね。権限だけ貴族並みで実際は平民ですから。
「はっはっはっ、所詮は田舎者の成り上がりか。良かろう、我はアイカル・ナバス・ルゾリッヒ子爵家当主が息子、クサリドリ・ルゾリッヒである」
腐鳥? 糞鳥? 気持ち悪い名前だな。
息子って事は貴族じゃ無い……だったかな。ぶっちゃけ俺、貴族の知識なんて何にもないぞ。
「そのルゾリッヒ子爵の御子息であらせられるクソドリル様がこの様な所へ何用でしょうか」
移民希望者に紛れて来てる時点でもうアウトだね。何かやらかしてか廃嫡されたか地雷案件になる事間違いございません。
「クソ……聞き間違いか? 先に申したであろうこの地を我に献上せよ。これは命令だ!!」
何でたかが息子如きに命令されにゃならんのか……親の教育不足だな死に腐れ。
こんな"面倒"な奴の相手をしていたら日が暮れてしまうのでお助け要員を呼びましょう。
「影さーん、こいつ宜しく」
そう俺が言うと糞鳥の背後に影さん達が現れ、糞鳥の手足を拘束して運び出す。糞鳥が連れて行かれる場所がどこかは知らないが、死ぬ事は無いだろう。
「影さん達、本当に"面倒"かけて申し訳ございませんってな」
最終的には影さんに"面倒"を押し付けて俺は"楽"をします!! 変な奴の対応は"うざい"までが限界ですからね。
「明日で終わりかぁ……疲れた」
【9話 桃色お化けの糞女神】
これで最後、ようやく終わるよあと二人!! って喜んでいる所に巨乳神官さんが来るんだよねー帰って下さい。
村長先に帰ったし、個室で巨乳神官さんと二人きりは何か色々不味いんです。
「なぜ神の言葉に従わないのですか。あなた方にも祝福が与えられるのですよ」
なんかここ十日でやつれたな……何で?
「なあ、なんでそこまで必死なんだ? べつにここじゃ無くても他の場所に像作れば良いだろ」
本当に毎日毎日毎日毎日ご苦労な事で。
「それは神のご意志を────」
「俺はあんたがどう思ってるのかを聞いている」
神の意志なんて知らん。
リシュエルも煩いけどあのアルテラっていう女神の方が何倍も煩いしうざい。
確かに、信心深い人に神の声が聴こえたら喜び、崇めて何にでも従うだろう。
でも……髪はくすんで顔はやつれ、疲れ切った眼をしているアンタは、違う気がする。
「私は……私は……!? 違いますアルテラ様! 私は貴女様の信徒でございます!!」
急にどうした、おい大丈夫か!!
「感謝しておりますとも! だからこうして貴女様の御力になるべくここへ────」
話をしている? アルテラと!?
そりゃあ疲れるはずだ。常時あの糞女神の話を聞いていたら……俺なら頭おかしくなって魔法でこの国滅ぼしちゃうぞ。
「お願いしますアルテラ様! お願いします! どうかあの子の場所を! どうか────」
あの子の場所? 交換条件って事か。
こんなに必死になって探して欲しいって願ってるのに、アルテラが叶えてくれないと。
「なあアンタ、確かルトリアって言ったか。いったい誰を探してるんだ」
「お願いしますアルテラ様! お願いしますどうか、どうか私に御慈悲を────」
全然聞いていないな。
アルテラアルテラあーむかつく。
ルトリアがアルテラを信奉している事は間違いない。でなければあんな姿になってまで従う事は無いだろうし、頭の中から聴こえる声なんぞに従う事は無いだろう。
さてそれじゃあちょっとプチ切れしますかね。
深く息を吸ってぇえええ────っ!!
「ちょっと黙れやアルテラぁああああああ!!」
威圧全開してどこに居るかも分からないアルテラに向けてやってみましたよ。
ようやくこっちに顔向けたな巨乳神官さん。
「なあルトリア、ルトリアはいったい誰を探しているんだ? ちょーっと教えてくれないか」