8話 色々ありすぎる日々.2
「これで部屋が広くなった」
影さん達が黒姫を抱えて一斉に移動したから圧迫感が無くなったな、これでゆっくり話が出来る。
「それじゃー改めて、いつ迄居る気だシャルネ御嬢様。もう話せる事は何も無いぞ。なあ村長」
あんたも追い出すの手伝えやという視線を全力で向けるけど全然こっちを見やがらねえな村長め。何とかしろよその筋肉で。
「うむ、シャルネ嬢。貴女は他国の要人では有るが、文も出さずに不法に入国し、この国の者を傷付けた犯罪者、捉えようによっては侵略者と言える立場にあると言う事を理解しているのかね」
やっとその気になったか筋肉村長。そのままその危ない筋肉人形さんにお帰りになって貰うんだ。じゃないと俺のやっちゃった事が知られちゃうかも知れないからね。
「それに関しては申し訳ございませんわ。でも、そちらの殿方が逃げようとなさるから悪いのです。私は悪く無いですのよ?」
村長がまた頭抱えたよ。
うん、話が全く通じて無いなこの御嬢様……論点がズレてるんだよ。不法入国に傷害かまして立場理解してるのお前? って言ってるのに聞きやしない。
仕方ない俺が詰めるか。俺の責任でもあるし、ちょっとムカつくからね。威圧さん解放!!
「なあシャルネ御嬢様、あんた今の状況理解してるのか。想像しろ──家に盗賊が入り、父、母、使用人が斬りつけられ、盗賊が堂々と椅子に座り寛いでいる。衛兵が駆けつけ盗賊を捕まえて尋問したら、その盗賊は『こいつ等が逃げようとしたから斬ったんだ』と言って無罪を主張した。お前、これ許せるか?」
無表情で首を傾げるなミルンが怖がってるだろ。
ミルン、お願いだからちょっとだけドゥシャさんの所へ行ってお手伝いして来て欲しいな。
「おてつだいしてくる!」
余程あの筋肉人形御嬢様が怖いんだな、尻尾丸めて走っていたっよ……ウチの可愛いミルン怖がらせやがって。
それで、今の話許せるの? 許せないの?
「それは許せませんわ。我が国では間違い無く重罪、鞭打ち五十回と言ったところかしら。ですがなぜ今、その様な話をなさるのですか? 私に殺意を向けてまで」
威圧に堪えてる? いや、額に少し汗が滲んでるぞ御嬢様?
「お前がやった事を分かりやすく言っただけだ。お前は盗賊側で重罪人、犯罪者。村長がさっき言ってたろ? 俺は相談役だ。そこの騎士ヘラクレスより上位の権限を持っている」
白い肌がより白くなって来たな御嬢様。
俺の立場知らずに斬りかかって来たからね、他国の貴族に手を出せばどうなるか理解している様で何よりだ。
「それがどうかしましたの? 私に敵うと思ってらっしゃるのかしら?」
物理では無理だわな。俺のステータス、未だ力は子供並みって何だよ少しは上がれ。
でもね、時間はいっぱいあったから準備は出来てるんだよね。いつでも発動出来ますよ魔法。
「お前こそ今の俺に敵うと思っているのか。縄で縛られて動き辛いだろうし、今の俺に向かって来たら一瞬でその綺麗な顔が焼け崩れるからな。忠告はしたぞ」
だってはっきりイメージできる魔法が豪炎ですからね──城の門兵有難う見せてくれて! でもカップ麺の恨みは忘れてないからな!!
「成程、先程の子供が言った言葉──魔王──あながち間違いでは無いという事ですのね」
理解してくれた? じゃあとどめの一発。
「理解した様で何より。それじゃあこの街を治める代表の一人として命ず。鞭打ち五十回か、今すぐ自国へ帰るか、この場で────っ!?」
おい縄千切りやがった!?
村長が椅子から飛び跳ね取り押さえようとするけどシャルネ嬢が俺に向かって来る方が速いしマジで洒落にならない殺気だぞ!!
「焼き尽くせ──豪炎!!」
言葉通りに顔面目掛けて魔法を撃ち込む!! シャルネ嬢の眼前に炎の塊が現れた瞬間────轟音と共に爆発が起き、目の前まで迫っていたシャルネ嬢ごと俺を吹き飛ばした。
壁に叩きつけられ意識が飛ぶ間際、シャルネ嬢が壁を突き抜け外へ投げ出されて行く姿がはっきりと見えた。
※
部屋一面に広がる煙に咳き込みながらヘラクレスは状況を確認する。
「げっふ! おいっ流君大丈夫かね!!」
爆発の瞬間危険を察知してすかさずスキルを使い防御したが身体のあちこちに火傷を負い、自身のスキルを突破してのこの威力にヘラクレスは寒気を覚える。
「うむ……スキルが間に合わなければ火傷どころでは済まなかったな。まさかあの縄を千切るとは……シャルネ嬢はどこにっ流君!?」
炭化した机や瓦礫を押し除け走り寄り、すぐさま容態を確認──頭から血は出ているが傷は浅く、意識を失っているだけだと分かりゆっくりと横たわらせる。
「旦那様!」
「お父さん!」
ドゥシャとミルンが走って来たのを見て一安心するヘラクレスだが、直ぐ気を引き締めて二人に伝える。
「二人共、流君を頼む。私はシャルネ嬢を探してくるのでな、あの威力の魔法をまともに受けて無事だとは思わぬが、用心に越した事はない」
二人に流君を託し、執務室の壁にぽっかりと開いた穴から外を見てみると、庭に影達と獣族の子供達が避難している姿が見えた。
「影殿!! シャルネ嬢が逃げた!! 急ぎ周辺の捜索を!!」
声を上げ庭に居る影達にそれを伝えて直ぐに影達が手を上げ、合図をして各方面に散らばって行った。
「のぢゃ? 解放されたのぢゃ──!!」
約一名歓喜の叫びを上げているが今はそれに気を取られている場合では無いと壁の穴から身を乗り出し外へ──自らも捜索に加わるが結局、夜通し探しても足取りすら掴むことが出来なかった。
「殺戮人形か……今後の街の防備を考えねばな」