6話 この木何の木? 世界樹ですが.4
この焼肉屋絶対異世界人産だろ。
焼肉屋の個室に入ると、六畳程の広さにT字のテーブルを中心に、両側面に長椅子が設置され、煙を外に出す為の筒が鉄板の上にまで伸びている。なによりテーブルの端にメニュー表なる物が立てかけられ、割箸の入った入物が置かれている異世界人産確定だな。
いかん、ミルンと黒姫がまだ入らないのという顔で見て来たよほら二人は一緒に並んで座りなさいな。俺は二人に対面して座り、メニュー表を見てみる。
文字はこっちのだな…ふむふむ。エンペラーミノさん一頭狩りの新鮮なお肉ね…エンペラーミノタウロス? まあ良い気にしたら負けだ。
上カルビ一人前銅貨二十枚に、ランプが一人前銅貨十五枚。サーロインが銅貨三十枚に、タンが銅貨二十枚。うん、高級店だここ。
いや、ここは大人の見せ処か。
二人共、気にせず好きなだけ食べて良いからな。一度は言ってみたいセリフが言えちゃったよふははは。
「いっぱいたべる」
「我もいっぱい食べるのぢゃ」
うんうん、じゃあ店員さん呼ぶか。
いや、高級店だから、まさかね?
「御決まりでしょうかお客様」
ほら、呼ばずに来たよプロ過ぎて恐いやつ。
二人共、何から食べる?
「ぜんぶくださいな」
「カルビのぢゃ!?」
ミルンの言葉に店員が固まって黒姫がミルンを凝視したぞ。俺は驚かない、ミルンは絶対全部食べるって言うと思ったからな。
「お客っ様? 大変失礼では御座いますが再度確認させていただきたく」
「ぜんぶくださいな!!」
尻尾を膨らませてムフーッて鼻息荒く声高らかに店員さんに伝えたよ。店員さんこっち見て来た頷いておくか。
「畏まりっました。順にお持ち致しますのでお待ち下さいませ」
走って注文伝えに行ったか…大変だな。ミルンもお肉が待ち遠しくて黒姫見て涎たらしてるぞ、いや逆だろ。
「我、ミルンを初めて恐いと思ったのぢゃ」
若干座る位置をミルンから離して黒姫がぼやくが、離した位置をミルンが詰めて涎を垂らしながら黒姫の頬っぺたをプニプニしている。一見可愛い仕草だが頬肉を思い浮かべているんだろうな…早く来いエンペラーミノ肉!!
※
ミルンさん? 一体その小さな体のどこにミノさんが入って行くんだい?
テーブルの上には皿、皿、皿が天井近くまで積まれており、それを成したミルンは未だ、焼いては食べ、焼いては食べ、焼いては食べを繰り返していた。エンペラーミノさん二体目の半ばだろうか。
「我うぷっ、もう喰えぬのぢゃぷっ」
黒姫、お前は良く頑張ったよ。ミルンに負けまいとミノさんの半分ぐらい食べたんだから、良くやった。普通はそうなるんだ、ミルン以外はね。
「おにくー! モゴモゴおにくー! モゴモゴ」
食べ始めてから一向に食べる速度落ちてないし、どれだけ食べれるのか気になるけどこの店、肉の在庫大丈夫かなぁ。
「ミルッンはうぷっ、おかしいのぢゃ」
うん。胃袋が本当にダークマターだよね。
黒姫大丈夫か? 胃薬的な物この世界にあるのかな、聞いてみるか。
「すみま──」
「お呼でしょうかお客様」
恐いわマジで!? いつからそこに居た!?
まあ良い、胃薬的な物ってないかな? 食べ過ぎた時に飲むやつとか。
「それでしたら当店に御座います。お持ち致しましょうか?」
良かったな黒姫、有るってさ。
それ一つ頼む、この子に飲ませるから。
「承りました、暫しお待ちを」
これで黒姫は回復できるな。
あとはミルンか…食べる速度上がった? 生でいってないか? 美味しい? うん、ちゃんと焼いて食べなさい。
「お待たせ致しました。どうぞこちらを」
全然待ってません十秒かかってないからな。
ほれ、黒姫これ飲みなさいな。
黒色の瓶に緑色の液体…大丈夫な奴か?
「うぷっ、背に腹はかえられぬのぢゃ、んぐっ」
一気に飲んだな…大丈夫か?
黒姫の顔凄く青いぞ……!?
「ぶふっ────のぢゃげろっぷっ!?」
黒姫の口の中で緑色の何かと胃液がマッチングしたその液体がゆっくりとした時の中を飛び散り、ミルンが焼き焼きしているその肉の上に、熱を帯びながらも液体の強みで火を消し止め、その代償はミルンの育てたお肉さん。
ミルンはその光景に瞬きが止まらず、黒姫はゲロっぱして夢の中。俺は黒姫が飲んだ液体が入っていた瓶を見て納得してしまった。
「おい店員、嘔吐薬って書いているんだがどう言う事だ説明しろ早くしろ胃薬って言ったよな」
店員は瓶を見て、あっ間違えたって顔しやがったぞどうしてくれようかミルンのお肉様駄目にしやがって見ろ! ミルンが泣きそうじゃ無いか責任とれるのかどうするんだこの野郎!!
「ミルンの…おにぐぅぅ」
「ヒッ申し訳ござっいませんー店長ぉおおお!!」
アイツ逃げやがったぞ。なんだよプロかと思ったのに最後にやらかしやがって。店長呼んだなら直ぐ来るだろ、それまでは。
ミルン!! ちょっと待ってろよ!!
テーブル拭いて、他の席から網を拝借、火を着けて、新しい肉を空間収納からほぃっと、さあ焼いて食べるんだ。
「おにく───!!」
一気に笑顔になりましたね。尻尾も元気に揺れてます。これは王都でミルンが買ったお肉だから、幾らでも焼いて食べて良いんだよ。
店長全然来ないんだけど。
おっ来た来た…何で?
「店長この方達です!! 御自身でお持ちになられた薬を飲んで吐いて店を汚し、此方を強請って来たのですよ! 早く追い出して下さい!!」
何か店員がほざいているが、それよりも何で居るのアンタ?
「ヤナギさんだっけ? 久しぶりじゃん」
「おぉ兄ちゃんやったんか。コイツがなんやぁ、客に困らされとる言うんでのぉ、見に来たんじゃけぇ。どう言う事かのぉ?」