6話 この木何の木? 世界樹ですが.1
今や立派な湖と化した元穴の浅瀬で、俺は目の前の光景をただ見続けるしか出来なかった。
すくすくと育つ其れは、今し方空間収納から出して、遊び心でえいやっ! と大地に刺したとある物。
「おおきくなっていくね」
そうだねミルン。大きくなっていくねぇ。
其れは枝から細木へ、細木から木へと大きく成り、大地に根を伸ばしたかと思った瞬間、目の前の光景に眼を奪われていた黒姫が水中から伸びて来た根に足を捕られた。
「我の力が吸われているのぢゃ!? 取れぬ! 取れぬのぢゃ! 魔王よ! 助けてたもう助けてたもう!? のぢゃぷのぢゃ!?」
其れに捕まり、湖に引き込まれながら黒姫がみるみる細くなっていく…いや、元の体型に戻っていくぞ。
栄養豊富なのかな黒姫? 一応龍だしね。
「我を助けるのぢゃぁああああああああ!!」
大丈夫、まだお前の身体は真ん丸だよ。
いっぱい肉食ったからちょっとは痩せなきゃ駄目だろのぢゃ子ちゃん。
「もがもが!? ぷは! 悪かったのぢゃぷっ悪かったのぢゃ! 許してたもれ!! のぢゃぽこぽこ…」
水中に持っていかれたな黒姫。
お前の事は、きっと忘れない。
「おとうさん。くろひめういてきた!」
本当だ浮いてきたな…助けに行くか。
【6話 この木何の木? 世界樹ですが】
私は悪い豚野郎を片付けて一日が経ち、豚野郎達は未だ広場に放置して、村長の捺印した書類を再度確認する為執務室を訪れていたがコレはいかん。
「街中に緑が少ない!!」
急に何を言い出すんだお前はと言う顔で、ドゥシャさんと村長がこっちを見て来たよ失礼だな。
「流君。直ぐ其処に森が有るでは無いか、急に何を言い出すのだね」
村長が執務机で溜息を吐きながら俺に当たり前の事を言って来たがそうじゃ無い、そうじゃ無いんだ筋肉村長!!
「街の完成図見てみろよ、石壁に石畳、木造家屋に地面剥き出しの広場が三つで、植林しないと風情が無いし窮屈に感じるだろ」
俺の意味が分からない内容もドゥシャさんにかかれば理解してくれるはず!!
「成程。旦那様は景観、いわゆる見た目を気にされているのですね」
惜しい! それじゃあ五十点だよドゥシャさん。ヒントをあげよう、今ドゥシャさんが抱っこして居る存在は何だ? 犬耳天使だ!!
「私とした事が気が付きませんで…そうで御座いました。ミルン御嬢様を含め獣族達は元は山の民、確かに石や家ばかりでは窮屈に感じてしまうやも知りません」
そうだろ。だから何処か少しでも街中に植林出来る場所無いかな?
「はしるのすき!!」
「我は天使なのかや?」
そうだろミルン。やっぱり気持ちよく走り回りたいよな。あと黒姫、お前は天使では無い…のぢゃ子だ!!
「のぢゃ!? 我は黒姫ぞ!!」
「しかしな流君。既に街は殆どの場所で建築が始まっているのだ。今更変更なぞ出来ぬぞ?」
マジかよ…確かにここから見える石壁が街を囲いつつあるけど早いだろ? まだ二十日も経って無いのに。
「出来ぬ物は出来ぬ。諦めたまえ流君」
ぐっ…なら空いてる場所探して見つけたら良いか? 迷惑かけない場所を見つけて、其処なら良いか村長?
「ふむ、威圧で脅し、強迫、略奪をせず、誰にも迷惑をかけぬ場所なら問題無い」
チッ…。
「今舌打ちをしたかね流君?」
舌打ちなんてしてないぞ筋肉村長。チッ…。
「してるでは無いか!?」
はいはい分かったよ。
脅し強迫略奪せずに自分の足で歩いて探すから、後から駄目だって文句言うなよ。
「それじゃ、植える場所さがしに行こうミルン、黒姫」
ドゥシャさんの抱っこから抜け出し俺の肩に登りミルンセット完了。椅子でぷらぷらしていた黒姫も登ってきて黒姫抱っこ完了…じゃない。
いや、黒姫お前背中にくっつきなさい。
抱っこが良い? 俺の腕が死ぬだろ置いて行くぞ。
「それは嫌なのぢゃ! 仕方ないのぅ」
器用に俺の身体を横移動して、黒姫セット完了しましたよっと。何笑ってるんだよ二人共。
「娘がいつの間にか二人に増えたな流君」
「大変微笑ましゅう御座います旦那様」
ミルンは娘だけど黒姫は…まあ良いか。