間話 海洋国家アルカディアス
海洋国家アルカディアス。
その国は広大な海の資源を使い、他の国にでは中々手に入らない塩や乾物の流通を取り仕切り、莫大な富を得て国土を拡げている商業国家である。
そのアルカディアスの国王、レイズ・アルカディアスは頭を抱えて自室に籠っていた。
「ここ最近のジアストールは何なのだ! 光の柱が見えたと思い、調査させる為に人を向かわせようとした矢先にあの巨石っ!! 山に囲まれていようとハッキリと、ここからでも見えたアレはなんだ!」
間者を送り込もうにも家臣、冒険者共々あの光景を目にした者全てが口を揃えて国王へ進言して来た。
「「「あんな場所絶対に行きたく無いです!!」」」
商人であれば其処が戦場なれど、儲けがでるなら行くと言うのに、誰も彼もがジアストールには行きたく無いと言う。
そんな事を思い出しながら部屋に籠っていると、軽いノックの後に扉が開く。
「お父様、余り無理をなさいませぬ様、皆が心配しております」
歳若き一人娘、シャルネ・アルカディアス。
一人娘であるが故、蝶よ花よと育てて来たが商業国家故に根は商人。国王ですら腹の内が読めぬ恐い娘である。
そんな娘が心配して来た? 母親よりも腹黒く、父親よりも頭が良いこの娘が心配? 有り得ない。天地がひっくり返ろうとも有り得る訳が無いとレイズ・アルカディアスは気を引き締める。この娘が何を言って来るのか。
「それでお父様、ジアストールには私が調査に行って参りますのでその御報告にまいりましたの」
ほら来たと国王は天井を見て目を閉じ、ゆっくりとベットに横になる。
「返事はされなくても大丈夫ですわお父様。お母様の了承は頂きましたので、それではお父様行ってまいります。あまりお母様を一人にされませぬ様お願い致しますわ」
そう言って一人娘が行ってしまった。
国王なのにほぼ全ての権限を王妃に奪われ、娘にも塩対応。海洋国家だけに…笑えぬ。
「うむ、仕事しなければな」
それぐらいしないと、娘が声すらかけてくれなくなると思い、王妃の元へと向かって歩いて行った。
※
「思った通り、冒険者達も護衛したく無いと言って来ましたわね。一人でも問題は無いですが」
シャルネは一人、荷物を背負って馬を走らせていた。ジアストール、正確には光の柱や空から巨石が落ちた場所を目指しただひたすら前に進む。
「山を越えるには、流石に馬では無理でしょうか。さて、どうしましょう」
考え込んでいると遠くから何かが飛んで来て馬の頭に突き刺さり、シャルネは馬が走る勢いそのままに宙に投げ飛ばされた。
その宙に投げ飛ばされている間に、シャルネは辺りを見渡す。
「あら、盗賊さんかしら? 良い所でお会いしましたね。山超えの道案内にいいかしら?」
遥か先、弓を射った姿のままの盗賊を視界に捉え、宙に浮いたままの身体を自ら回転させ勢いを殺してゆっくりと地面に着地。
遠くで盗賊が此方を指差しながら仲間の居る方向へ声を荒げておりシャルネからは見えない場所に仲間が居るのであろう。
「案内役は一人だけで、それ以外は…要らないですわね」
背中に手を回し、荷物と言う名の得物を取り出す。
シャルネの背丈程の大剣を片手で持ち、体勢を低く、低く、地面に顎が着くか着かないかまで腰を曲げ、脚を曲げて、一息。
「だからー! 馬から落ちたのに無事なんだよあのアマ────」
瞬心一閃。
一息で百メートル程を移動し、盗賊の頭を大剣で吹き飛ばした姿のまま、目線を動かして残る盗賊五名を発見。
急に現れたシャルネを前に呆気に取られた盗賊達を見て、山を越えるのには足手纏いと判断。残る盗賊をゆっくりと嬲り殺しにして懐を漁り、金を奪ってから悠々と山へと歩いて行った。
「手応えの無い盗賊? いえ、アレは野犬でしたね。ワンちゃんですわふふふ」
それを見た人が居れば声はだしているのに笑顔が無く、其の不気味な様相に近づく事をしないであろう。
肩までで切り揃えられた金髪に海の色を映し出す瞳、人形の様な真っ白な肌に感情が表れる事が無い少女。
海洋国家アルカディアスが産んだ化物が、ゆっくりとジアストール領内へ侵入する。