3話 犬耳ミルンと角っ子幼女.2
ドラゴンとは、ワイバーン、炎竜、雷竜、氷竜といった四足歩行型の魔物と、リザードマン達二足歩行の者に使われる総称であり、人種に近しい見た目のものも居る為侮蔑の言葉として用いられる事もあるので注意が必要である。
龍とは、この世界が産まれたその時から存在している生きた伝説であり、死と言う概念は存在せず、肉体が朽ちる其の時に自然と子を成し、其れに自らの魂が定着して新たなる肉体を得ると言う理外の外に存在する何かであり、見た目が龍其の者という存在も居れば、新たなる肉体を得る際に、人、獣族や他の生物の見た目に成る者もおり、一目で見分ける事が出来ない者もいる。
但し、一体だけは別である。
魔龍と言われた存在は魔王と結託して人種と争い姿を見た者も多く、御伽話として語られる中に必ず登場する。その力は凄まじく、万の軍勢が一息で蹴散らし、初代ジアストールですら封印と言う手段をとる事しか出来なかった程。
その特徴は漆黒の双角。
冒険者が切れるオーガやゴブリンの角と違い、その角は何者にも、それこそ伝説の武器ですら切る事は敵わないと言う。
但し、弱点が全く無いと言い訳では無い。
龍みずからが力を棄てる若しくは弱体化した場合、元に戻るにはそれ相応の時が必要である。実際に一体の龍がみずから力を棄て、戻るまでの時を見て来た事で真実であると判断し、ここに記す。
著者・レブナス
指定禁書魔王見聞録より。
※
簡素なベットに胡座をかき、目をしょぼしょぼさせながら、聖女リティナ・オルカスは本のページをめくる。
「なんや龍って魔龍だけやないんやな」
ぼさぼさの頭を掻きながら近くのテーブルに置いてある茶を取ろうと手を伸ばすが届かない。
「どうぞ、リティナ様。あまり根を詰めると身体に悪いですよぉ」
ニアノールがそっとお茶を差し出すが、リティナは視線が本に向いている為その手は彷徨いお茶には届かず、お茶お茶とリティナの手だけが動き回っている。
「なんや、流にーちゃんやったら魔龍だろうと角っ子や言うて可愛がりそうやな」
まだ手がお茶を求め彷徨っている。
「流にーちゃん獣族大好き変態やし、ハーピィとかドライアド見たらどうなるんやろか?」
そんな事を思い、ようやく目線をお茶に向けた時借宿が揺れた。それはもうこの世の終わりを告げるが如く激しい揺れが起こり、ニアノールの淹れた熱々のお茶がリティナの手に降り注ぎー
「うわっちゃー熱っ!?」
ーと振る手をニアノールが握り締め、そのまま窓から身を乗り出した瞬間、借宿が大地に沈む。
「痛たた、何がおきたんやっニア、大丈夫か?」
「はい。リティナ様もお怪我は無いですかぁ?」
お互いの無事を確認し、辺りの状況を見ると潰れた家屋が多々あり、二人はすかさず怪我をした人がいないか確認をしようとした時、遠くに見える、其れこそ天にまで昇る煙を見た。
流が帰って行ったラクレル村がある方角。
「なんやアレ…まさか流にーちゃん!?」
それから数日後、流に護衛としてついて行った筈のリスタとアジュが戻って来て、ラクレル村が壊滅した話を聞いたリティナとニアノールの顔は怪我人の治療で疲れ果て、口からは呪いの言葉を垂れ流していた。
「いてこましたる、いてこましたる、ひゃっひゃっひゃ!!」
「ナイフでスパッと、スパッとナイフで、ふふふ」