3話 犬耳ミルンと角っ子幼女.1
時間は昼前だろうか。時計が無いので斜め上から暖かい光が大地に降り注いでいる事で大体の時間を把握せねばならないが、いや、今はそんな事よりもだ、目の前の状況をどうにかしなければならない。
「お父さんに近づくなトカゲ!!」
ミルンが、あの甘えた声では無く、口悪く相手を威嚇している。
「魔王を父と嘯く犬っころが! その舐めた口を叩けなくしてやるのぢゃ!!」
ミルンの威嚇に角っ子が煽る。
片や犬耳幼女、片や角っ子幼女。
普段の俺ならその光景を天にも昇る勢いで喜び鼻血を出して貧血に至るはずが、この一触即発の空気に当てられてそんな場合では無い。
「どうしようかなぁ…この喧嘩」
【3話 犬耳ミルンと角っ子幼女】
「お父さん、何してるの?」
ミルンおはよ…甘えた声じゃ無い!?
どうしたミルン? 尻尾を逆立てて何か機嫌が悪そうだし俺と言うか角っ子を睨んでる。
「あっ…ああ角っ子が起きたんでな、朝ご飯を食べてもらってるんだ。ミルンも食べるか?」
お腹が空いて苛々してるのか? 直ぐ用意するからちょっと待っててー
「いらない」
ーえっ? 要らないって言った? あのミルンが!?
食べな「いらない」二回目!? しかも俺の言葉を遮って言ったよどうしたのミルン!?
ゆっくり歩いて来て、俺と角っ子を見た後に、角っ子を撫でている俺の手を尻尾でペシッて弾いたぞなぜに?
「何をするか犬っころ! 我が気持ち良く食事をしておるのにぢゃまするで無いわ!!」
角っ子が弾かれた俺の手を掴み、自分の頭の上に乗せてぐりぐりしてくるぞ撫でろって事なのか?
「早く撫でるのぢゃ!!」
凄い…ドリルみたいに頭を振り始めたな角が危ないんだって動かすなよ撫で撫でペシッ…またミルンに弾かれたぞ。
「どうしたミルン、いつもはこんな事しないだろ?」
そうだ。孤児院のケモ耳っ子達を撫でてもミルンはこんな事しなかったし、どうしたんだよミルン。
「おそった…その子は他の子をおそったって聞いたの」
マジか、誰に聞いたんだ?
「村長さん」
ですよねー村長にしか話して無いし昨日角っ子にミルンの手でお肉食べさせてたから教えて貰ったのは今さっきかな? 俺が角っ子と二人きりで心配になって走って来たと、成程な。
「ミルン、襲ってたのは間違いない。だけど俺が止めたし今は大丈夫だぞ」
見てみろこの角っ子。
肉パンをムグムグ頬張って、誰かを理由無しに襲う様な子に見えないだろ?
「お父さん気付いていないの?」
何がだミルン?
「その子、ドラゴンだよ」
はぁ…ドラゴン。 ドラゴン?
「ドラゴン!? この角っ子が!?」
俺は即座に角っ子を見る。
身長はミルンより低く、足首まである黒髪ロングに眼も黒く、ムグムグしている口には鋭い牙が生えていて二本の角が黒く光り、黒のドレス…嫌、鱗かコレ!?
「我をドラゴン等と一緒にするで無いのぢゃ! 我は古き伝説にして偉大なる龍!! トカゲ風情とは似ても似つかぬ高貴な存在なのぢゃ!!」
いや、そこじゃ無い。
今までドレスと思ってたのに鱗なのか。
じゃあお前ずっと全裸でのぢゃのぢゃ動き回ってたの? 変態ドラゴンじゃん!?
「のぢゃ!?」
「ふっぷぷっ」
おっ、ようやくミルンが笑ったな。
怒りんぼミルンより笑顔のミルンの方がお父さんは嬉しいからね。
「今笑ろうたな犬っころ風情が、我に対して不敬なのぢゃ!」
そう言って角っ子は俺の肩の上に飛び乗り、ミルンを高い所から見下ろす。しっかりと手に持った肉パンは離さずに。
「その場所はミルンの場所、降りろトカゲ!!」
あぁまたミルンが怒ったぞ降りろ角っ子、俺の肩はミルンの特等席だから駄目だって。
「嫌なのぢゃ!! 犬っころに見下ろされたく無いのぢゃ!!」
頭をヘッドロックするな痛たたたた!? 力強いなこの変態角っ子幼女! 本気で痛いから止めろ離れろ俺泣くぞ!!