【 なろう忍法帖 】プロとアマの違い の巻
風雲あかし城。
その城下町、魚ん棚 (うおのたな) の一角に忍びの隠れ家があった。情報収集を済ませた忍者がここに身を寄せ、語り合うのだ。
気配がする。隠れ家の中にいた黒装束の男がとびらに近づき、小声で合言葉をたずねる。正しい答えはとびらが開き、誤れば手にした忍者刀が応 (こた) える。
「小さいのはトイプードル、大きいのは?」
「……ダイプードル」
ガタ。
「うむ、入るがいい」
とびらは開き、隠れ家は黒装束が二人となった。お互い名を知らない。しかしそれが忍びの常であり、仮に名のった所で、忍務のための仮称であり意味を成さない。
「みやげの明石焼きじゃ、熱いうちに食べられよ」
「これはかたじけない」
「まずは最近の事柄から話そうかの」
「ほふほふ……」
「拙者、ずんだもんが好きでの」
「ほふほふ……」
「ずんだもんの身長はいかほどが知りたくて、Google で検索したのじゃ。そしたら AI が答えよっての」
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ずんだもんは 身長198センチ 体重160キロ の36歳の巨漢で、和服姿に長髪を後ろで束ね、雪駄履きでごはんの入ったおけを抱えて「めしを食うでごわす!!」
(原文ママ)
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「……ぶふぉ!」
「いや、これマジでござる。さすがに今は修正されておるが、一時期このように表示されておった。たまげたこと、この上なし」
今は忍者もネットで情報収集を行う時代である。AI の進化で便利な世の中になったとはいえ、まだまだ鵜呑みにしてはならない誤情報にあふれている。
「……なるほど、ネット情報など信用できんな」
「おおむね同意ではあるが、一言申したい」
「申されよ」
「誤情報にこそ人間らしさを感じるでござる」
「なんと!」
「誤情報を流し人をだまして利を得ようとする者も、誤情報を見つけ世にさらして注意喚起と称して注目を得ようとする者も、ともに人間らしい行動でござる。ネットに意思はなく、ただ広大な無地のキャンバスにすぎぬ」
「なるほど、それも一理あろう」
「最近なろうのエッセイを読んでいると、書籍化経験のあるプロの作品が見分けられるようになってきたでござる」
「なんと!」
ほお張っていた明石焼きを飲み込み、黒装束の男は身を乗り出した。まあどっちも黒装束だが。
実は彼もなろうで「くのいちエッセイ☆忍びのヒミツ」という作品を長期連載しており、作品の質を上げて読者に楽しんでもらうべく毎日更新を欠かさない。プロの作家が書くエッセイの特徴ともなれば、聞き逃すわけにはいかない。
「まずプロの書くエッセイは読みやすい」
「それは文体か、内容か」
「全てだが、まずは文体。圧倒的に読みやすく、目が滑らない。しっかり読ませるというよりは、流れるように読ませてくる。内容よりも、まず読ませることを重視する傾向が見受けられる」
「ほほう」
「つぎに内容、テーマでござるが、主張よりも着眼点の面白さを重視して書かれておる。ここが一番プロとアマの大きな差を感じた。基本誰かを攻撃し、傷付けることは書かない。仮に感情任せのエッセイであっても、やはり着眼点がメインで問題提起や事態の滑稽さを書いている」
「では、アマの作品はどうだというのだ」
「着眼点が平凡。エッセイに限らないが、人と違う着眼点を自称する作家・作品ほど痛々しく平凡。そもそもなろうに限った話ではないが、文芸では目立つ」
「それは悪いことなのか」
「良くも悪くもござらん、それも人間らしさではないか」
「ほう」
「個性は魅力であり、欠点である。プロの作家、特に大成した人は知る限り確実に着眼点が個性的だ。むしろ悪臭を放つレベルに強烈な個性を、理路整然とした文法に納め、平然と読みやすく世に放つのがプロのエッセイの特徴だ」
「ではアマには個性が無いと」
「なにを申されるか。個性をかくす発想がない純粋さがアマの良い所ではないか。自分の魅力に気付いてない良さ、とでも申そうか。再掲載になるが、一例を上げよう」
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「ハーレム幻想~なぜ私はハーレム作品を書き続けるのか~」
作者: ひだまりのねこ 先生
https://ncode.syosetu.com/n3959jv/
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「こ……これか……」
「うむ。誤解なさるな、この作品の主張が個性ではない。そんなもん誰でも心の端には秘めておる」
「と申されると?」
「これを実際に書いたこと。実際に投稿したこと。評価点や共感狙いではなく、純粋に書きたいから書いたとしか思えない。すばらしい。ワザとならプロだし、意図せずとしても見過ごせない個性。これぞ人間、これぞ芸術であろう」
「ちなみに AI がエッセイを書くとどうなる?」
「耳目を集め評価点を得ることを目的に、ネットで悪者をさがし反撃されない距離を取って非難する。逃げやすい短編エッセイがおススメで、感想欄を閉じるのもいいだろう。なお、相手の立場は考慮しないが、一応軽いフォローくらいは入れておく」
「批判はしないんじゃないのか?」
「大丈夫だよ、AI だから」
注)誤解なきよう申し上げるが、感情任せで書きなぐったエッセイは個人的に高く評価している。それこそ人間らしく美しい作品ではないか。
芸術に正論は不要である。
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「【なろうTS大図書館】 ༺ TS♀☯♂に関するまとめと作品紹介 ༻」
作者:雛宇いはみ 先生
https://ncode.syosetu.com/n6126gu/
すげえ。すでに面白いとかオススメとか、そういう作品ではない。本物の資料集。知の宝物殿。畏怖しかない。なろう性転換作品のネクロノミコン。おにまいで足を踏み外しそうな人を闇に導く魔導書。閲覧注意。永久保存。
「【小さな少女】と【巨大少女】の登場するなろう作品の紹介とまとめ」
作者:雛宇いはみ 先生
https://ncode.syosetu.com/n3935ia/
雛宇いはみ 先生の自己紹介 の冒頭一文が好きすぎる。エッセイじゃないけど後日掘るわ。読みやすそうな短めの作品から探そっと……
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「不登校から始まる肝っ玉母ちゃんへの道」
作者:ねこ 先生
https://ncode.syosetu.com/n4856ju/
タイトルwwww各話のタイトルwwww。たった今知ったこの作品。エッセイというより読みやすいノンフィクションなのだが、各エピソードのタイトルが一部の人々にぶっ刺さる。あとで頑張って全話読ませていただこう。
なお、作家さまには設定でキーワードに「ジョジョの奇妙な冒険」を書き加えることを強くおススメしたい。
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あああ……前文が長すぎて紹介する作品数が……