虹の彼方に
社会人の草野球選手たちに
「プロになる夢がすてられないの?」
などと失礼極まりない質問すれば、野球の道具の使用目的が変更されても致し方あるまい。
木刀以上に危険なバットはもちろん飛び道具としてのボール、しかしグローブで窒息を狙うには隙間が多すぎる。私は無礼な質問者にトドメを刺すべく、こう叫ぶだろう。
「アウト―ッ!」
……失礼した。
野球の道具を暴力に使うなどあってはならない。それこそ失礼極まりない私の冗談はともかく、文芸の世界では年齢によるピークはない。老若男女とわず、書きたい欲求がある限り常に全盛期だ。
なろうユーザーとなって半年ほどたったが、自作の書籍化やプロの作家を夢見る人が多いことを知った。素晴らしい。そして案外夢じゃない。ロマンチストを食い物にする音楽業界とは違い、毒リンゴを持った悪い魔女も見当たらない。
夢見る少女よ。物語を紡ぐアナタはすでに美しく愛らしい。仮に足元で、孫がまとわりついて執筆の邪魔をしていても、アナタは空想を文字にして平面の水晶玉に映し出す魔法使いであり、永遠の文学少女なのだ。
あるいは、元夫をざまあする貴族夫人なのだ。
未来の文豪よ。膨大な評価数を武器に、出版社へプレゼンする構想を練る軍師よ。敵を作るな味方を増やせ。敗北など存在しない、何度でもノーリスクで立ち上がれるのだ。貴国を攻める者もなし、存分に奇策を持って討ちいられよ。文学界に火を放て!
でも卑劣な手段は残酷な結末を迎えるよ、確実に。
……達観したお兄さん、お姉さん、趣味人の方々も、私と考えは同じだと信じたい。ロマンチストを惜しげなく応援したい気持ちはあっても、足を引っ張るつもりはない。知らんけど。
それを証明するかのように、xoo 先生が作品を自薦されたのでご紹介します。
「商業作家希望なら、座してオファーを待つより Kindle Direct Publishing で実績を示した方が良いのでは?」
作者: xoo 先生
https://ncode.syosetu.com/n6233ja/
選択肢を増やせば勝率は上がる。グーとパーを知らずジャンケン大会に勝ち残ることは難しい。筆者はまごまごする文学少女を愛で、的外れに突っ走る未来の文豪を観察する悪趣味な傍観者だが、本気で商業作家を目指すなら検討に値する内容だと思う。
特になろう運営と Amazon の連携を提案している所は斬新でうならされた。
本作は自薦を拒まない。むしろ推奨し、可能な限り積極的に批判なくレビューする。ただし読むのに数時間が掛かりそうな名状し難い長文や、政治社会の主張はカンベンして頂きたい。
私は内容など批評しない、作品としての面白さにしか興味がないのだ。
◇◇◇
前文が長すぎた。それではスコップさせていただく。
「職場に迷惑電話が来た時の、従業員の対処法」
作者: 狭山 涼 先生
https://ncode.syosetu.com/n7089jv/
この作者はいずれバズるのでは? アイデアの瞬発力はもちろん、奇を狙うことに特化せず、まとまりのある作品に仕上げている。面白いというより読みやすい。他にどんな作品を書いておられるのかと覗き見れば……見るんじゃなかった……。
このような危険人物は常に監視下に置かねばなるまい……と思って、さらに深く掘ってみればプロやんか! そりゃ凄いはずだわ。
◇◇◇
「田舎暮らし」
作者:fox1001 先生
https://ncode.syosetu.com/n1260ir/
気付けば全部読んでしまった。今は続編の「田舎暮らし②」を読んでいる。素朴、ひたすら素朴なエッセイ。こういうのが読みたかった。感想を書いた人がおられたが返信をしてない、おそらく気付いていないか、あるいは返信という機能をしらないのではと推測している。それほどに素朴なのだ。
それを裏付けるのが活動報告。「母の誕生日」や「明日は、妹の誕生日。」というタイトルを見たとき
「先生、そこはリアル生活の活動報告ではございません」
とご忠告申し上げたくもなるが、それは無粋の極み。そっと見守り、そっと愛でる。そして満点の評価を送り無言で応援するのみである。
◇◇◇
「リアル♪ こどものおしゃべり」
作者: こまの柚里 先生
https://ncode.syosetu.com/n9651gc/
あまり本を読んでこなかった私でも、向田邦子のエッセイくらいは一通り読んだはずである。とはいえ子どもの頃なので、詳細には覚えていない。
本エッセイを読んだ時、静かな陽気さ、ただよう幸福に、なぜか向田邦子を読んだ記憶が帰ってきた。時代も作風も違う。しかし輝くような情景と、私とは数段レベルが違う品の良さに圧倒されてしまった。
現時点でなろう最高傑作のエッセイを決めろと迫られたら、私は本作を推薦する。
これを読んで何も感じない人は心が疲れている。少し休暇を取るべきだ。
◇◇◇
「今日は何を飲もうかな」
作者:ぶらし 先生
https://ncode.syosetu.com/n3975jm/
何も。何も言うことはない。感想欄も地元の小洒落たダイニングバーのようだ。適度に賑やか、そして穏やか。こういうエッセイを読めることが幸福というんだろう。永遠に続いて欲しいし、作者に報いる方法があって欲しいし、そういう世の中であってほしい。
◇◇◇
エッセイを掘るようになって驚きの連続、おもしろい作品ばかりだ……と、書いて締めればきれいに終わるのだが……
キレイごとで終わらせるみたいで自分に対し許せないなにかがある。かといって下品な叫びでもあげようものなら、ここに上げた素晴らしいエッセイの品格を下げてしまう。
何か言え……何か言え……当たり障りのない狂気を叫べ……
ぐぬぬ……
いあ!
いあ!
ぽんぽこりーーーーーーーん!
……つまんないうえに媚びと遠慮しかうかがえない、イラっとくる最悪のラストでしてよ、トーホホホ!