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わたくしがじっとお母さまを見つめていると、お母さまが私に気がついてお店のオーナーを呼んでくれたの。わたくしを近くで見たお母さまが「まあ、素敵」と言うと、オーナーは「それでは、こちらは差し上げますよ。お嬢様がお生まれになったお祝いでございます」と言ったわ。お母さまは嬉しそうにお礼を言っていたけれど、わたくしは飛び上がって踊りだしたいくらい嬉しかったわ。こんな素敵なひとと一緒に過ごせるなんて、なんて素敵なんでしょう!きっと毎日が楽しくてたまらないはずだわ!
しばらくしてから、わたくしは注文したドレスと一緒にお母さまのお屋敷に行ったわ。お母さまはわたくしを、居間にある素敵な家具の上に置いてくれたの。お屋敷は思っていたより小さかったけれども、優しいお父さまと可愛らしい赤ちゃん、そして誰よりも輝いているお母さまとの生活は本当に幸せだったわ。
お父さまはお母さまのことが大好きで、いつもお母さまの話を嬉しそうに聞いていたの。そんなお父さまのことをお母さまは大切にしていて、いつも優しく気遣っていたわ。赤ちゃんのお世話も頑張っていて、疲れた顔なんて見たことがなかった。誰もがお母さまのことを「聖母のようだ」と言っていたわ。いつも明るくて、優しくて、みんなお母さまのことが大好きだったのよ。
え?お父さまとお母さまの出会いですって?ええと、街でも評判の美少女だったお母さまは縁談も降るようにあったそうだけれど、どれも気が進まなかったんですって。だってお母さまは本当に頭の良い方なのよ。誰と何を話していても退屈だったと言っていたわ。でも、ある時お父さまと出会ってしまった。お父さまはお母さまの美しさだけではなく、頭の良さも含めて夢中になってしまったの。そしてお母さまも、今まで出会ったなかで一番物知りで紳士的なお父さまと一緒にいたいと思ったから、反対する人もいたけれど結婚したそうよ。とっても素敵でしょう!
しばらくすると、私たちは引っ越しをすることになったわ。わたくしは家族で過ごす居間ではなく、1階にある応接間で過ごすことになったの。 引っ越してからは、わたくしが家族で過ごすことはなくなってしまったわ。そのかわり、お母さまが応接間に毎日のようにお客さまを呼んで、これから国を良くするためにどうしたらいいかとか、今の王さまでは良い政治は出来ないだとか、いろいろな話を聞いていたの。お母さまは編み物や読書をして聞いていない振りをしていたけれど、誰よりも真剣に意見を聞いていたのが分かったわ。お客さまが言い合いになることもしょっちゅうだったけれど、いつもお母さまが上手に纏めていて、そんなお母さまを誰もが信頼していたのよ。
お母さまが、ある時わたくしに教えてくれたわ。「この国は女性が活躍する機会が少なすぎる!周りの男より賢くとも、それを上手に隠していかなければあっという間に引きずり降ろされてしまう・・・あぁ、わたくしが男だったなら!男も女も関係なく、能力のあるひとが正しくこの国を導いていかなければ!」
お客さまが帰った後の応接間で、お母さまは思いつめたように言ったの。ああ、お母さまはずっと悔しかったんだわ。自分より賢くもないのに、男だからという理由で国を変えることのできるチャンスが得られることも、たくさんの選択肢があることも。お母さまは女だからという理由でいろいろなことを諦めなくてはならない時もあったのでしょうけれど、わたくしはお母さまの願いが叶ってほしい、国が変わってほしい、そう思ったの。
それからもお母さまは、よく応接間にお客さまを招いて熱心に話を聞いていたわ。それはお父さまの功績が認められて大臣になってからも変わらなかった。お母さまはどんな時でも輝いていて、とても素敵だったことも。