⑤
「霊能力・・・探偵?」
「そう。聞いたことがないだろう?」
「・・・初耳だ。」
「彼のもとには、迷宮入りしたと思われる事件が毎日のように舞い込んでくる。実は、彼のアパルトマンからこっそりと刑事が出て来るところを2度ほど見ているんだ。」
「・・・でも、彼ではなく同じアパルトマンの住人に用があったのかもしれないだろう?」
「ちっ!君はつれないなぁ。まぁユーグに聞いても、何も言おうとはしないけれどね。・・・何にしても、僕たちが思っているより不思議な事件なんて頻繁に起こっていることを知っておいた方がいい。彼のような能力をもっている探偵なんて、いないからね。探偵を始めたときは仕事で忙しくしていた彼も、今では興味のある事件しか引き受けないと言っていたな。何でも、忙しすぎて紅茶を味わう時間が無くなるのが許せないんだとか。・・・変わった奴だよな。」
ピエールは窓の外を見ると、慌てて御者に声を掛けた。
「送ってくれてありがとう、君の事件が解決するよう祈っているよ!」
そう言って友人は急ぎ足で去っていった。
ルカが友人のピエールと共に呼ばれたのは、それから3日後のことだった。仕事の帰りで遅くなったのにも関わらず、ノッカーを鳴らすとメイドではなくユーグがにこやかに出迎えてくれた。
「申し訳ない、すっかり遅くなってしまって・・・。」
「いや、気にしないでください。こちらこそお疲れのところ申し訳ないかと思ったのですが、一刻も早い方が良いかと思いましてね。」
ユーグは話しながら、手際よくテーブルにオードブルやパンを並べ、ワインを開けた。ソファには既にピエールがくつろいでいて、ルカを見ると明るく挨拶した。
「早速、本題に入りましょうか。」
ワインやオードブルを楽しみ、寛いでいると、ユーグがワインの銘柄を言うように話し始めた。ルカは、口に含んでいたワインをごくりと飲み込む。
「誰に会いたがっていたのか、教えてくれましたよ。」
「誰が・・・?」
「もちろん、本人がですよ。」
そう言ってユーグは、傍にあるテーブルにかかっていた布を優しく取り払った。そこにはルカの屋敷にあった、あの人形があった。
「・・・人形が?しゃべったのか・・・」
「ええ。どうやらあなたにも話しかけていたのに、ちっとも気付いてくれなかったと拗ねていましたよ。」
「そんな・・・。」
ルカは言葉を失った。
「・・・それで、人形は誰に会いたがっていたんだ?」
ピエールは興味津々と言った表情でユーグに尋ねた。
「ジャンヌ・ロラン。ロラン夫人と言った方が分かりやすいかな。彼女はロラン夫人が最後まで手元に置いた人形だったんだ。」
わたくしのことを知りたいの?いいわ、教えてあげる。
わたくしは、お母さまがよく買い物に来ていたドレスのお店にいたのよ。街一番の人気のお店で、そこでドレスを注文するのは憧れなんですって!いろいろな女の人が私の着ているドレスを見て、自分のドレスを注文するの。今は色が変わってしまったけれど、ペチコートには綺麗な桃色や黄色で、可愛い花の刺繍がしてあるのよ。たくさんの女の人が私のドレスを見て自分のドレスを注文してくれたわ。そんな毎日はとても楽しかった。
お母さまと会った日のことは、よく覚えているわ。私が今まで会ってきた女の人のなかで、一番きれいで輝いていたから。顔もすごく綺麗だけれど、わたくしはお母さまがお話しているのを見るのがすごく好きだったの。お母さまの話はとても面白くて、皆が夢中になって聞いていたわ。頭が良かったし、勉強もたくさんしていたけれど、それを自慢していることはなかったわ。私はお母さまが大好きよ!