③
私は、ひどく驚きましたが何故だか不気味には思いませんでした。
人形は一目で年代物だと分かるようなドレスを着ていました。人形の顔も、女の子が持っているビスクドールではなく、もっと昔に作られた別の種類のもののように感じました。
私は少しの間、じっと人形を見ていましたが、とりあえずそのままにしておくことにしました。そして帰る時間まで、廊下に出した家具や美術品の仕分けをし、帰りました。
次に屋敷にやってきたのは1週間後のことです。私はやりかけだった部屋の片づけをするために、真っ先に北側の2階にある部屋まで行きました。
廊下には、先週出しておいた荷物がそのまま置いてありました。ドアを開け、さあ今日は何から片づけようか、と思っていると奇妙なことに気がつきました。人形が見当たらないのです! 私は人形を探しました。人形は見つかりましたが、驚くことに、ドアのすぐ近くに隠れるようにして立っていました。今までどこかを歩き回っていたかのような、そのような感じを受けました。
その日は人形以外の荷物をすべて運び出し、廊下に並べました。その日の作業が終わると、私は人形の近くにあった書類を持って帰ることにしました。この屋敷を手放すことになっても、あの人形をどうするべきかが分からなかったからです。
私はしばらくの間、屋敷から持ってきた書類を眺める日々が続きました。しかし、屋敷の持ち主は何度も変わっているようで、人形のことに触れている書類はありませんでした。
私は休みのたびに屋敷へ行きました。人形は行くたびに場所を変えて立っています。屋敷にあった荷物は処分が決まり、あとは人形をどうしようかと悩みました。家具を買い取ってくれた古物商の店主によると、アンティークドールで状態の良いものは人気があり、高値で売れると教えてもらいましたがどうしても売る気になりませんし、かといって手元に置いておく気にもならないのです。
どうしようか、と思い悩んでいたある日、泣きながら誰かを探すあの人形の夢を見ました。ああ、あの人形は誰かを探して歩き回っていたのかと納得しました。しかし、人形の探している人など、もうこの世にはいないでしょう。
思い悩んでいた時、学生時代の友人のピエールに会いました。彼はこんなおかしな話をして戸惑わないかどうかと不安に思いましたが、思いのほか真剣に話を聞いてくれ、変わった探偵がいるから相談に行ったらいいと教えてくれました。 これが私が知っていることのすべてです。
「なるほど。これはまた奇妙な出来事だ。」最後までじっくりと話を聞いていたユーグは面白そうに微笑んだ。
「だが非常に興味深い。」
ルカは身体を固くして座っていたが、ユーグの言葉でほっとしたようだった。
「私は、ピエールからあなたなら解決できるのではないかと聞いてやってきました。非常に奇妙な事件ですが、何か分かることはあるでしょうか。」
「そうですねぇ。まずその屋敷に行って、人形を見せてはもらえませんか。話を聞くだけでは何もわかりませんからね。」
「ええ、かまいません。」
「それでは、出来るだけ早くに行かなくては。あなたの都合の良い日を教えてください。」
ユーグは次の一週間後に、と言うとさらさらと紙に書き付けてルカに渡した。
「それでは一週間後に。」