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ジロンド  作者: 東堂 アカリ
10/12

 わたくしは家に着くと、小さな箱に入れられた。時々声が聞こえて、わたくしをどうしたらいいとか、お母さまの書いた原稿のこととか、他にもいろいろと話し合われているようだった。   箱の中に入れられていたから分からないけれど、わたくしはそれから何度か別の場所に行ったようなの。お母さまが書いた原稿のいくつかは、お母さまを良く思わない人に取り上げられてしまったみたい。だから、出来るだけ見つからないように隠さなくちゃいけないみたいだった。


 どのくらい時間がたったのか分からないけれど、最後に連れて行かれたのはとても静かな場所だった。最初は静かにしていたけれど、誰も来ないからいいかなと思って箱から出たのよ。いろいろなものが置かれていて、掃除もされていなかった。人の話し声がするときもあった。でも、わたくしのいる部屋に入ってくることはあまりなかったわ。

 ちいさな木の馬を触ったり、大きな布を引っ張って見たり・・・最初は動かせなかった手や足が、少しずつ動くのが楽しかった。部屋に積もったほこりを見たひとはみんな顔をしかめていたけれど、わたくしが動くとふわふわ舞うほこりはきらきらしていて綺麗だと思ったわ。そして、たくさんの本が置かれたこともあったの。わたくしは本のページをめくって、なんて書かれているのか見ていたわ。字はちっともわからないけれど、いつも本を真剣に読んでいたお父さまやお母さま、お嬢さまに本を読んでいたお母さまの優しい声を思い出していたの。お父さまやお母さまは、この本を読んだことがあったのかしら、面白いと思うのかしら、そう思いながら本のページをめくっていったわ。


 ねぇ、あなた。お父さまやお母さま、お嬢さまはお元気かしら?わたくし、家族がどうなったのか知りたいわ。そして、お母さまが書いていたものはどうなったのかしら。お母さまの汚名とやらはどうなったのかしら。わたくし、ずっとずっと気になっていたの。ねぇ、教えてくださらない?




 「ーー以上が、こちらのマドモアゼルが話してくれたことだよ。」

ユーグはワインで喉を潤すと、長い脚をゆっくりとを組み替えた。

「・・・随分と、長い話だね。まるで小説みたいじゃないか。」

ピエールは感心したように言った。

「そうだね、ましてやフランス革命を間近で見ていたんだ。すごい話だよ。」

「非常に興味深い。君はそう思わないか?」

「ああ・・・言葉が出てこないよ。とても、その・・・驚いてしまって。何と言うか、あなたは本当にすごい人なんだな。」

「褒めていただけて光栄だよ。でも、この話を聞いて信じることが出来るということも、実は素晴らしいことだけれどね。」

そう言いながら、ユーグは慎重な手つきで人形をテーブルに置いた。

「話は聞き終わりましたので、お預かりしていたマドモアゼルはお返ししますよ。・・・ああ、そういえば。」

ユーグはそっと人形のスカートを持ち上げた。

「話の中で、獄中でロラン夫人が手紙を隠したと言っていましたが・・・実はそのままこちらに残っていますよ。」

ルカは驚きで目を大きく見開き、ピエールは目を輝かせた。

「やったじゃないか!この手紙はものすごい歴史的価値があるぞ!今でもロラン夫人の手紙や原稿は、革命の貴重な資料なんだから!未発見のものだから、高値で売れるんじゃないか!」

ルカは震える手で人形を手に取り、リボンの結び目を指でなぞった。

「彼女は、とてもあなたのことが気に入っているようでね。この手紙も、あなたになら渡してもいいと言っていましたよ。」

「ほう・・・モテる男は違うね。」

「ふっ・・・なんでも、あなたはロラン氏に似ているんだとか。」

「なんだ、父親のほうか。」

「ああ、それと」

ユーグは笑みを消さぬまま、しかし、真剣に言った。

「その手紙を取ったら、彼女はただの人形になりますよ。」

ルカは驚いたようにユーグを見た。

「大切にされてきたモノには、魂が宿ることが多いです。それは、昔も今も変わらないことで、今私たちが使っているモノにも魂は宿っています。ただ、持ち主がいなくなると自然に魂は抜けていくものなのです。ただ、彼女は持ち主がいなくなっても、尚、魂を宿したままだ。それは、彼女に託されている手紙があるからだと考えられます。」

「手紙・・・手紙を取ってしまったら、彼女はただの人形に戻ってしまうのか・・・。」

「ええ。」

ルカは迷うように瞳を揺らした。

「手紙をどうするか、よく考えられた方が良い。・・・でもね、ムッシュ。」

「はい。」

「私は先ほど言いましたよ。彼女はあなたのことが気に入っていて、この手紙も、あなたになら渡してもいいと言っていたと。」

「・・・」

「今すぐ決めなくてはいけないわけではないのです。彼女の所有者はあなたなのですから。私は仕事を引き受けただけで、あなたの財産に口を出す権利はありませんよ。よく考えられたら良いと思います。そしてその結果を・・・彼女も納得してくれるのではないでしょうか。」

ルカは指で人形の頬を優しくなぞった。

 その日、彼はけして安くはない報酬を支払って、人形を持って帰っていった。



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