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08 商隊について行った

帝国の野営地も王国のものと変わらない。設置と管理をギルドの商人組合が行っているからだ。野営地の中央に3台の馬車を三角形を作るように置き、依頼主の商人とその使用人は三角形の内部で食事や睡眠をとる。冒険者たちは野営地内部の周辺でたき火をしてごろ寝である。王国よりも温暖なので、寝袋が無くても、毛布とシートだけで問題ない。


王国では、この規模の商隊ならば、護衛たちの食事も依頼主が用意するが、こちらでは食材の提供だけのようである。パーティーごとに自炊をしている。


しかし、今回は別だ。アマンダが調理を一手に引き受けている。女っ気の少ない冒険者には大人気だ。給仕の最中に尻を触ろうとする不届き者がいるが、絶妙のタイミングで避けられ、誰も触ることが出来ない。誰かが失敗する度に、周囲から笑い声が上がっている。


王女と皇女も野営地の一角で火をおこして座っているが、リーダーのダグラスがよほど睨みを利かせたのか、ちょっかいを仕掛けてくる者はいなかった。


アマンダが給仕を終えてもどって来るのと同時に、依頼主である商人がやって来た。

「皆様方、こんばんは。わたくしは、今向かっている町で商いを営んでいるネイサンと申します」

「ご丁寧にどうも。私はクレア、こちらがエイダ、そしてアマンダです」

「アマンダさんには食事の用意の手伝いをしていただき、感謝にたえません」

ここでネイサンは小声になった。

「失礼ですが、あなたさまはもしや帝国の第二皇女様ではありませんか。いや、違っていたらお詫びいたしますが」

「なぜそのように思うのですか」

「かなり以前に皇帝様に呼ばれてお城に伺ったことがございます。そのとき、城の入り口で冒険者姿のあなた様とすれ違って居ります。そのときに番兵が、クレア様がどうのと話しておりました。その後、商人組合で、皇女のクレア様が冒険者として活躍なされているという話も耳にしました」

「そうでしたか、申し訳ないが、すれ違ったことは憶えていません」

「一介の商人でしたから当然でしょう。ご安心願います。他言はいたしませんから」

「感謝いたします」

「それにしても、先般の戦騒ぎは大事でしたが、王国との大きな戦にならず助かりました。クレア様もご無事で何よりと存じます。今では一国のお妃様でございますな」

「今でもただの冒険者です」

「なるほで、ではそういうことにいたします」

「私を知っているのは、あなただけですか」

「他の者は知らないでしょう。護衛たちはもちろん、わたくしの使用人たちも」


「ところでクレア様ご一行は、わたしどもと町まで同行されると聞きましたが…」

「その通りです」

「実は、今運んでいる荷物は一日を争う急な荷物でして…」

「というと…」

「この先、もう一度山越えの道を通ることになります」

「つまり、また山賊に襲われると?」

「さようです。可能性はかなりあるかと。クレア様に万一があっては…」

ここで王女が話しに加わった。

「大丈夫さ、ボクたちがいれば山賊なんてどうとでもなるからね」

「お目にかかったことはないのですが、もしやあなた様は王国の第三王女様でございましょうか」

「その通りだよ、あ、でも、これも内密に願いたいね」

「もちろんでございます。クレア様と同じ方に嫁いだとか、クレア様同様に一国のお妃様ですな。王女様に皇女様、本来ならば言葉さえ交すことかなわない方とご一緒させていただき光栄に存じます」

「かしこまらなくてもいいよ、ボクもクレア同様に今は冒険者だからね」

「さすれば、もしやアマンダ様もやんごとなきお方では…」

「わたくしはエイダ様のメイドでございます」

「そうでしたか、それを聞いて安堵しております。なにしろ給仕までさせてしまいましたから…」


ネイサンと名乗った商人は、挨拶のみで馬車の方に帰って行った。


冒険者たちは食事をすませると、見張りと火の当番を残して、横になって休み始めている。

王女たちは見張り要員ではなさそうだ。王女と皇女は、依頼を受けた護衛じゃないからだと思ったが、実のところ、護衛たちのリーダーからは信用されていないだけだった。



翌朝、朝日が登る前に護衛たちは全員出発の用意をすませ、朝食をとっていた。王女たちもなんとか皆に会わせて目を覚ましている。朝食は各自が勝手に自分の持つ干し肉などを囓っている。アマンダが王女と皇女の朝食を用意しようとしたが、クレアが時間がないからと止め、他の冒険者と同じように干し肉と水で済ませた。


出発前に、護衛のリーダーのダグラスがやって来た。

「俺たちは今日も街道ではなく山越えの道を行く。それでも同行するか?」

「そのことはネイサン氏から伺いました。同行しますのでよろしく願います」

「そうか、回復魔法があると俺たちも助かる。いざというときは頼むぞ。あんたたちはネイサン氏と一緒に馬車に並んで歩いてくれ。警戒も戦いも、基本は俺たちでやるから安心してくれ」

そういって、商隊の先頭に立って、出発の号令を掛けた。


「山賊は襲ってくるかな、どう思う、クレア」

「ダグラスの話では、先に襲ってきた山賊にそれほど被害を与えられなかったようですから、また襲ってくるかもしれないですね」

「そしたら、ボクたちも戦おうじゃないか、どうだい、クレア」

「エイダは何もしないでくださいね。商隊ごと消滅したら大変ですから…」

「えー、大丈夫だよー、今度は、たぶん…」

「駄目ですからね、いいですか、いいですね」


念を押しながらも、山賊よりも王女に不安を感じるクレアであった。

寒中お見舞い申しあげます。


★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は

https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

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