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04 剣で戦った

商人組合ではクレアが皇女であることはすぐに知られてしまい、昼も近いこともあって歓待の席を設けられてしまった。アマンダは昼食代が浮いて上機嫌だったが、クレアはあまり居心地は良くなさそうだった。結局、スラムのことを色々と聞くことが出来たのは夕方になってからで、商人組合の本部を出てスラム街に向かうことが出来たのは、日が落ちてからだった。


「もうすっかり夜になってしまいました。明日、明るくなってから出直した方がよいのではありませんか」

アマンダが心配そうに言った。

「夜道ならクレアの魔法で照らせるから問題ない。それに夜の方が忍び込むのに都合がよいじゃないか。何が心配なのかな、アマンダは」


皇女と王女そしてメイドは、帝都の一角にあるスラム街に向かって歩いていた。そして目の前に煌々と灯りが輝くスラム街の入り口が見えてきた。

「闇に紛れて忍び込むわけにはいきませんね…」

クレアがつぶやいた。

「そうだね。不夜城ってところだね。歓楽街でもあるのかな」

王女の質問に、

「帝都の夜の歓楽街は別にあります。こんな物騒なところに遊びに来る客はいません」

クレアが答えた。

「忍び込めないとすると、どうするのですか」とアマンダ。

「強行突破かな」と王女。


そんなことを話していたら、入り口から三人の男が出てきて、王女たちの方に向かって歩き出した。すぐに王女たちに気づき、立ち止まった。


男たちの一人は、昨日、ギルドで王女たちに絡み、アマンダに箒で鳩尾を痛打され下呂を吐いたチンピラだった。治安維持部隊の詰め所の牢から助け出され、ボスの厳命で王女たちに仕返しをすべく、用心棒二人をつけて貰って、王女たちが泊まる宿に行こうと出てきたところだった。


男は立ち止まって王女たちを睨んでいたが、はっとした様子で王女たちを指さしながら、他の男たちに何やら話をしている。昨夜、下呂を吐かされ、治安維持部隊の詰め所にしょっ引かれる原因となった女たちだと気がついたのだ。だいたい、箒を背負ったメイド服の女がそうそういるはずもない。気がついて当然だ。


その男が王女たちに叫んだ。

「てめぇら、いいとこで出会った。宿までいく手間が省けたってもんだぜ」

アマンダが素知らぬ顔で答えた。

「そういうあなた様はどなたなのでしょうか。何か私たちに御用がおありのようですが」

「な、なにぃ、俺様を憶えてねぇってのか!」

「メイドに下呂を吐かされるような方は、いちいち覚えてはいられません」

「下呂って…しっかり憶えてるじゃねぇか!」

「それで御用は?」

「きまってるじゃねぇか、昨日の落とし前を付けて貰おうってことよ。治安部隊の詰め所に引っ張られて、こちとらえれぇ目に遭ってんだ」

王女も話しに加わる。

「すると何かい、昨夜詰め所から逃亡したゴミのひとりが君だと言うのかな」

「ゴ、ゴミとはなんてぇ言いぐさだ。しょんべんくせぇ小娘が」

「頭だけじゃなく鼻も悪いのかな。ところで、ボクたちはその詰め所からの逃亡犯を捕まえにきたんだけれど、おとなしく捕まってくれないかな。死体を運ぶのは重くて大変なんだよ。ついでにもうひとりの逃亡犯と襲撃した連中の居場所も教えてもらえると有り難いのだが」

「誰が話すか!今日は昨日のようにはいかねぇぞ。腕の立つ助っ人がいるからな。飛んで火に入る夏の虫たぁ、おめぇたちのこった」


男が槍を構えると、一緒にいたふたりの男も抜刀し、三人揃って王女たちに向かって走り出した。

「今日はボクもやらせてもらうよ、いいだろクレア」

そういって、腰にぶら下げている二本の鞘から武器を抜いた。二刀流かと思いきや、両手に持っているのは短い棍棒である。王女に双棍術なんて出来たのだろうかと、クレアは訝った。

「ほんとうに大丈夫なんでしょうね。まぁ、やってごらんなさい。アマンダさん、右の男をお願いします。私は左の男の相手をします」

アマンダは無言で、箒を手にとって構えると、自ら男の方に向かって行く。クレアは剣を抜き、相手の男が近づくのを待っていた。そして下呂男は王女に向かって突進する。いかにも素人と言った動きに、クレアは安心していたのだが、クレアは王女を過大評価しすぎていた。


下呂男には後がなかった。父親といえどもスラムのボスだ。息子の不始末を見過ごしてはしめしがつかない。もう一度ヘマをすれば、無事では済まない。そう思った下呂男は必死だった。


歴史上、格下の素人に何人の達人が命を奪われただろう。後先も考えず、自分の身の危険も考えず、ただ必死の形相でせまる下呂男に、実戦経験のほとんどない王女は怯んでしまった。そもそも、王女は達人ではないのだ。双棍を構えるどころか、男が迫ってくる方向に向かってメチャクチャに振り回し始めた。基本も何もあったものではない。棍棒が重くないのか、腕力だけは鍛えたのか、そこそこの速さで振り回せているのがただ一つの救いだった。しかし…なんと、王女は目をつむってしまっている。アマンダが叫んだ。

「エイダ様、目を開けて相手を見て!」


王女が怯む様を見て、男は口角を上げ、槍を突き出した。王女の棍棒は、速さこそあれど、見るからに力のこもっていない振りだ。棍棒を弾いて槍が王女を貫く。男がそう思った次の瞬間、棍棒に触れてもいないのに、槍が先端から細切れにされていく。異常事態に慌てて突進を止めるも、細切れにされて短くなっていく槍が、ついに手元の持っている部分を残すのみになった。しかし、男は踏みとどまって槍を引き戻すことができず、槍は持っている手ごと細切れにされてしまった。手首から先がなくなった右手を見て呆然とする下呂男が、次の瞬間悲鳴を上げて後ずさる。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


アマンダは王女を気に掛けながら戦っていた。さっさと終わらせて助けに行かないと何が起こるか判らない。しかし、今回の相手は剣を抜いていて、しかも前の相手よりも強かった。箒を逆手に持ち、縦にして構える。箒本来の持ち方だな…。

「落ち葉でも掃こうってのかな」

そう言うと、相手は剣を振り上げ襲いかかってきた。命のやりとりに卑怯もクソもない。アマンダは地面に着けた箒を下から相手に向けて振り上げる。箒によって地面が掃かれると同時に、砂や小石が相手の顔に向かって飛んで行った。思わず目をつむり、砂粒をやり過ごして目を開けると、視界が逆さまになっている。おまけに、首を失い、血を噴き出している身体が崩れ落ちるのが見えた。それが自分の身体であることに気づく前に視界が暗転して意識が途絶えた。アマンダの足下に男の首が落ちてきた。アマンダは右手で箒の柄の先端部分を持ち、仕込みの剣を抜いて横に払ったのだ。仕込み杖ならぬ、仕込み箒だった。おまけにそれは見えない剣だった。

「ミスター様にお願いして、見えない剣を仕込んで貰った甲斐がありました」

そうつぶやいて、王女に助太刀をしようと、王女の方を見ると、手首を失った男が悲鳴を上げていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


クレアの相手は一流の剣士であった。さすがのクレアも剣を構えたまま、うかつには動けない。それは相手も同じで、帝国一の剣士であるクレアを前にして、動けないでいた。お互いに隙を見つけて仕掛けようとしていたときに、人が倒れる音に加えて、悲鳴が緊張感を破った。一合のみの切り結びで、二人とも後ろに跳んで間合いをとった。


その剣士は、アマンダの相手をした仲間が既にやられて、おまけに守るべき男が手首を細切れにされて悲鳴を上げているのを見ると、すばやく男の元に駆け寄り、手首のない男を担ぎ上げると、スラムの入り口に向かって逃げ出した。追いかけようとしたクレアを数本の矢が襲った。いつの間にかスラム街の入り口に数人の男が弓を構えて三人を狙っていた。仲間を迎え入れると、弓を構えた男たちもスラム街の奥に消えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


戦いが終わったが、残念王女は目をつむったまま両手の棍棒を振り回し続けている。

メイドが呼びかけた。

「エイダ様、戦いは終わりです。目を開けて棍棒を振り回すのは止めてください」

まだ振り回し続けている…

「目を開けて!止めろってば!」

メイドの叱りつけるような大声で、ようやく王女の興奮状態がおわり、目を開け、棍棒を振り回すことを止めた。

「大丈夫?」

駆け寄ろうとするクレアを、メイドが制止する。

「エイダ様、まずはその棍棒に見せかけた見えない剣を鞘に戻してください。危なくて近寄れませんから」

やっと冷静になった王女が見えない剣を鞘にもどした。

「棍棒だと思ったら、ミスター様から頂いた見えない剣だったのですね」

そう言ってクレアは王女を抱きしめた。

「無事で良かった…」

「ボクのアイデアだよ、褒めてくれたまえ。これなら相手も間合いを間違えるだろう」

「王女様の悪賢さは天下一品ですね」

そう言いながらもメイドの顔は安堵の標標で一杯だった。

「知謀と言ってくれたまえ、天才的知謀と」


「スラムに逃げ込まれてしまいましたね。どうしましょう」

「待ち構えているに決まってるね、そんな計略にボクが掛かると思ったら大間違いだ。ここはボクに任せてよ。これを使って、まずは相手の度肝を抜いてやろうじゃないか」

そういうと、王女はポケットから黒い球を取り出した。魔道具である。


王女の目論見は外れることになる。帝都の人々の度肝が抜けたことは間違いないが、スラムに潜む連中が度肝をぬかれることは無かったに違いない。


★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は

https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

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