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02 冒険者になった

「やっと帝都が見えてきたね」と王女。


やっとというのは、夜営を嫌う王女のせいで、途中の町ごとに宿を取って泊まっていたからで、ここまで普通の冒険者の倍以上の時間をかけていた。それも途中の行程の大部分を馬に乗ってきたにも関わらずだ。


皇女は、王女のやっとという言葉を、今日一日のことだと思って答えた。

「そうですね、もう日が暮れます」

「ミスターの転移魔法がどれほど便利だったのか、身にしみるね」

「もう音を上げるのですか」

後ろでメイドのアマンダが、背負っている箒を持ちだし、振りかぶった。

「わたくしが気合いを入れて差し上げましょうか」

王女は慌てて

「音はあげてないから!」

そう言って、帝都に向かって走り出した。


帝都の入り口は皇女のもつギルドカードで通過できた。帝都に入ると、宿も決めずに、三人はギルドに向かう。王女が待ちきれなかったようだ。


ギルドの扉を開けて中にると、夕方も遅いとあって、依頼の報告に来る冒険者も少なく閑散としている。女の三人連れが珍しいのか、その場の全員が王女たちに注目した。クレアはこのギルドに所属の冒険者で、その実力と名前を知らない冒険者はいないのだが、クレア自身の姿は滅多に見る機会がないので、今ここにいる美少女がトップクラスの冒険者であるクレアだと判るものはいなかった。


好奇の目にさらされながら、受付まで進んでクレアが言った。

「この二人の登録をお願いします」

さすがに受付はクレアを知っていて、すぐに対応する。

「ボクは魔術師で登録かな」

「わたくしはメイドでよろしいでしょうか」

受付がメイドというタイプはないと言いかけたが、クレアの方を見て、なんとメイドで登録を受け付けてしまった。冒険者のタイプにあたらしくメイドが設けられた歴史的な日になった。


続けて恒例の魔力量の測定であるが、王女もアマンダも微かに光っただけで、魔力はほぼゼロと判定された。メイドという謎タイプのアマンダはともかく、14歳の、それも見かけは12歳くらいにしか見えない少女は、魔術師だと本人が言っているのに魔力が無いことが判ると、受付はつぶやいた。

「魔術師なんですよね…」

「そうだよ、ボクは魔術師だ」

「でも、これでは魔法は…」

「君が気にすることではない。早く登録してくれたまえ」

受付が、困惑した表情でクレアの方を見るとクレアが言った。

「私が保証します。受け付けてください」

「クレア様がおっしゃるのなら…」

問題なく、いや、多少受付を戸惑わせたが、登録が完了した。



ギルドの隅のテーブル席に座って、王女とアマンダはクレアからギルドの仕組みについて説明を受けていた。端から見れば、王女は、アマンダとクレアに連れられて、初めての登録にやってきたお子様である。冒険者らしい風体のクレアにメイド服のアマンダ、それにかなり高級そうなローブを身につけた王女という組み合わせは、どう見ても、どこかのいいところの我が儘お嬢様が興味本位で冒険者の登録にやって来たという図式である。おまけに、なにやらあやしげな状況で登録をしたと思われていた。


これだけ条件が揃えば定番のイベントが起こらないはずがない。案の定、別の席に座って見ていた二人の冒険者が近寄ってきた。


「どこのお嬢様なのかな」

「冒険者に興味があるなら、俺たちが指導してやってもいいぜ」

「そっちのお姉さんたちじゃ、頼りにならねぇ。魔物にやられちまうぞ」


王女は怯む気配もなく、返答する。

「君たちはこの二人よりも頼りになるというのかい。そいつは凄いことだ。ぜひ、見せてくれたまえ」

「このガキは、大人への口の利き方が分かってねぇようだな」

「まったくだ、どうやら躾が必要だな」

「なんと、ボクを躾けてくれるそうだ。是非やってもらおうじゃないか。いいよね」

そう言って、クレアとアマンダの方に向かって笑うと、席を立ってひとりでギルドの表通りに出て行った。クレアとアマンダも、遅れることなく続く。


予想外の展開に、一瞬あっけにとられたのか、すこし遅れて二人の男が続いて外に出た。


外では、クレアとアマンダが王女を後ろにして待っていた。

「えぇ、ボクは見てるだけかい。魔道具の実地試験にちょうどいいと思ったんだけどな…」

「いきなり本番は危険すぎます。ここは私に任せてください。アマンダもエイダについていてくれませんか。私ひとりで十分ですから」

「わかりました。油断なさらずに願います」

そういうと、アマンダは箒を構えて王女の横に立った。


「何を訳のわからねぇことを言ってやがる。なんだ、それは。箒じゃねぇか。俺たちはゴミってか。痛い目をみねぇと分からねぇみたいだな」

そういうと、ひとりが拳をかまえてクレアに向かって行った。さすがに、剣を抜くことはなかったが、そのおかげで二人は命拾いしたのだ。


繰り出す拳を、顔をひねっただけで躱すと、身体が泳いで無防備になった相手の顎を、クレアの掌底が襲った。低いうめき声を上げて男がその場に崩れ落ちた。それを見たもう一人の男が弱いと見てアマンダを襲う。

「こっちはどうだ!」

しかし、殴りかかっていった男はみぞおちを箒の柄で突かれ、うずくまって胃の中のものを吐いた。事前に飲んでいたのだろう、酒臭いすえた臭いが周囲に広がった。


王女は周りを取り囲む人混みの中の一人が、慌てたように走り去って行くのに気がついたが、たいしたことはないだろうと、すぐに忘れてしまった。


倒れている男を残して、王女たちはその場を離れた。番兵がやってきたら面倒だと思ったのだ。


三人はギルドから少し離れた所にある宿に止まることにした。アマンダが受付に行って部屋を3つとろうとすると、王女が制止した。

「部屋はふたつでいいよ。ボクとクレアは一緒だ」

アマンダは部屋をふたつとると、鍵をひとつクレアに渡した。そして周りに聞こえないように小さな声でささやいた。

「この宿は悪くはないですが、貴族が泊まるような高級な宿ではありません。部屋の中で大きな声を上げると、部屋の外まで声が漏れます。ご注意ねがいます」

「何のことでしょうか」とクレア。

「注意するよ、ありがとう」と王女。


こうして帝都での最初の一日は終わった。

まだ人々は災厄を知らない…




★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は


https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

です。

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