19 裏を知った
「職人たちが話せないのならギルマスに聞くとしましょう」
クレアが受付に向かって行った。王女もあわててついて行く。
「ギルドマスターとお話がしたいのですが」
受付にクレアが話しかけた。
「お約束のない方とはお会いになりませんが」
「わたしはクレアです。判りませんか?」
素っ気ない返事にクレアが自分の名前を伝えると、それを聞いて、隣の受付があわてて返事をする。
「もうし訳ありません、クレア様。この子は新人なもので…」
「え、どういうこと?」
「こちらはクレア様、我が国の第二皇女様です」
新人だという受付の顔がさっと青くなり、机に額がぶつかる勢いで頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。どうぞお許しを」
「頭を下げる必要はありません。ここでは一人の冒険者ですから。こちらこそ無理なお願いで申し訳ないと思っています。しかし、必要なことなので、どうかお願いします」
新人は跳ぶような勢いで奥の部屋に消え、すぐに戻ってきた。
「ギルドマスターがお会いになるそうです」
王女を伴ってクレアがギルドマスターの部屋に入ると、ギルドマスターは立ち上がって頭を深々と下げた。
「どうぞそちらにおかけください、クレア様。この町のギルドを任されているオリバーと申します。どうぞお見知りおきを」
二人はギルマスの机の前の椅子に腰を下ろした。アマンダは王女の後ろで立ったまま控えている。
「エレン、そんな所に立ってないで、早くお茶をお持ちするんだ」
扉の前に立っていた新人が、あわてて部屋を出て行った。
「あの方はエレンというのですね」
「つい最近受付として雇った新人です。いたらぬ点があったとか、このオリバー、心よりお詫び申しあげます」
そう言って再度頭を深々と下げた。
「ところで、わたしに何かお話があるとか。いったい、どのようなお話しなのでしょうか」
「依頼の件なのです」
「依頼といいますと…」
「湖のドラゴンの件です」
「おお、別荘の件ですな。それでは、皇女様は別荘改築の進捗を確認のため、この地においでになられたのでしょうか」
「いえ、この町に来たのはたまたまです。道の途中でドラゴンの噂を聞き、依頼を引き受けようと思っていただけです。偶然にも、それが別荘の近くで目撃されたドラゴンの件だったのです」
別荘の件と思って不安にかられた表情を見せたギルマスだが、偶然と聞いて安堵の表情に戻った。
「紅茶をお持ちしました」
扉の外から声がした。ギルマスが入るよう答えると、さきほどの受付、エレンがお盆にポットとカップを3つ載せて入ってきた。メイド姿のアマンダは数の内に入っていないようだ。アマンダは王女の後ろで立ったまま控えている。ギルマスのテーブルに一旦それをおくと、部屋の隅から小さな丸いテーブルを移動させて、クレアと王女の前に置いた。カップに紅茶を注ぎ、クレアと王女、そしてギルマスの前に置いた。彼女が部屋を出て行こうとするとギルマスが呼び止めた。
「エレン、すまんがそこで待機していてくれ」
「工事が中止になってから職人たちと言えば酒場かギルドのロビーで飲んだくれているのが常でな、色々とくだを巻いている。受付に立っていると、嫌でも話が耳に入るって訳だ。個々の依頼内容の詳しい話はギルドマスターといえども把握している訳ではない。エレンなら何か聞いているかもしれん。どうだ、エレン」
「わたしは盗み聞きなどは…」
「盗み聞きとはいっておらん。その気はなくとも耳に入ってくるだろうといっておる」
「まぁ、そういうことも…」
「聞かない振りをするのがギルドの受付としての努めではあるが…こちらは何しろ皇女様だ。別荘の発注主の身内である。ここだけの話と言うことで、皇女様の質問に答えるんだ」
ギルマスの言葉を受けてクレアが質問をした。
「職人たちがドラゴンを見たというのは確かなのでしょうか?」
「それが…見たと言っているのは現場監督のランドさんだけのようなんです。他の人たちはランドさんが見たというなら…という感じで…」
「それで怖がって作業を拒否している?」
「工事の中断はランドさんの指示です。職人さんたちは、あのように…ええと、気性の荒い人たちで、作業がないと日当も入りませんし…仕事をしたいんじゃないでしょうか。もちろんドラゴンを自分自身の目で見れば話は変わると思いますが…」
「つまり、作業の中断は職人たちではなく、あのランドという人が決めたということですね。当然親方のダイソン氏の意向かと思いますが、どうなんでしょう」
「それは…」
エレンがギルマスの方を見ると、ギルマスが無言で頷いた。
「ダイソンさんは、ドラゴンの危険を理由に工事代金の上乗せを要求しているようなんです。ギルドの財務担当者が愚痴っているのを聞いた事があります」
「それは災難ですね。帝都の財務相が簡単に認めるとは思えませんから」
「財務相をご存じなんですか?」
「ええ、とても嫌な奴だということだけは知っていますよ。ただ、別荘の件は完成を急がしているはずです」
「ええ、ランドさんが、完成が遅れても俺たちは困らんが、帝国は困るだろうから必ず値上げを飲むって職人たちに吹聴していました。もっともランドさんがいないときには、値上げ分は俺たちには回ってこないと職員さんたちが愚痴っていましたけど…」
エレンの話を聞き終わると、クレアはギルマスに礼を言い、王女と共にギルドを出た。
「さて、次はどうするのかな、クレア。帝国がらみの案件なので、君に全部任せることにするよ」
「そうですね、次はダイソンという親方の所に行ってみましょうか」
「ランドが今日は留守だって言ってたよね」
「ええ、でも言ってみれば本当かどうか確認できます。本当であれば、明日出直せばいいだけ。損はありません」
「なるほど」
「でも、その前に食事にしましょう」
王女たち3人は宿の近くの店で食事を済ませると、職人組合に出向いた。
★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。
本篇は
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「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」




