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17 噂を知った

王女たちは旅を急ぎ、その日の夕方遅く、別の町にたどりついた。

「帝国の調査隊もここまでは来ないでしょう。宿を取ったらギルドに行って、何か情報があるか聞いてみましょう」


ノーブルの町は、帝国では良く知られた保養地である。頂上が湖になっている、比較的小さくて緩やかな山の裾野にある町だ。その湖の周囲の景色が良いのと、交通の便も良いことから、その山には多くの帝国貴族たちの別荘が建てられていた。当然、山賊などいるはずもなく、治安は非常に良い。町の周囲の農民も、別荘の貴族向けに高級な果物や野菜を育てている。街中の店には高級品が並び、町の住民の金回りは良さそうだ。


「そういえば、皇帝の別荘も湖の近くにありますね」

「町に近衛兵がいるってことかな」

「皇帝が滞在しているときはね。いまは滞在していないから近衛もいないので安心して」


何が安心なのか判らないが、追われる犯罪者になったような気分だった。


「どうして皇帝がいないって判るのかな」

「別荘は改築中なのよ。もう何年も前から。そろそろ完成も近いと思うけど、先の騒ぎの時にはまだ出来ていなかったはず」

王女が町の通りを見渡した。

「たしかに近衛兵は姿がないね。まぁ、日も落ちたところだし、出歩いていないだけかもしれないけれど」


「エイダ様、クレア様、こちらの宿にされては如何でしょうか」

話に割って入ったアマンダが、目の前の立派な造りの宿を見あげている。

「お、いいね。この造りなら風呂のある部屋もありそうだし、なにより、壁も厚いはずだ。アマンダ、すまないが部屋を取ってくれたまえ」

「あー…。わかりました。個室をひとつと、風呂付きで、壁が厚くて声が漏れない2人部屋をとってきます」

アマンダは宿の中に入っていった。

「なんだい、あの皮肉は。ボクたちは何も悪いことはしていないのに」

「仲間はずれが嫌なのでは」

「おお、そういうことか。それなら次からは3人部屋にしようか。そしてアマンダも一緒に…」

「アマンダに、そういう趣味はないと思いますよ」


宿の入り口でアマンダが手招きをしている。王女たちが行くと、

「部屋がとれました。わたくしの個室と、おふたりが泊まる、風呂付きで、壁が厚くて声が漏れない2人部屋です」

「いちいち説明をつけなくてもいいからね、アマンダ」

「お風呂が楽しみです」

「ボクとクレア、ふたり一緒に入れるかな…」

「さすがに狭いのではないかと思いますが…」

「なに、狭いくらいの方が楽しいと思うぞ、そうは思わないかい、クレア」


アマンダから部屋の鍵を受け取ると、2人は部屋に急いだ。その後を追うアマンダ。今日は隣室から漏れる声を気にせずにすみそうだと、安堵の表情を浮かべていた。



翌日、3人は町のギルドに顔を出した。奥のテーブルに席を確保して、依頼が張り出されている掲示板に向かった。何やら特設の掲示板が作られている。人混みをかき分け、前に出ると、そこに掲示されている依頼は全てドラゴン関係の依頼であった。依頼主は、町や村の長であったり、各町の商人ギルドであったり、地域の領主、はたまた地方の治安維持部隊とさまざまであり、なかには皇帝じきじきの依頼もあった。どれも調査依頼で、さすがに討伐の依頼はなかった。


曰く、

「ドラゴンの目撃情報が複数あるので、真偽を調査して欲しい」

曰く、

「奇っ怪な事件が起こった。ドラゴンの仕業ではないか、調査して欲しい」

曰く、

「牧場の羊の群れが一夜にして消えた。ドラゴンの仕業ではないか、調査して欲しい」

曰く、

「山が崩れて町が土砂に埋まった。ドラゴンの仕業ではないか、調査して欲しい」

曰く、

「夫が浮気をしている。ドラゴンが女に化けて夫を魅了しているのではないか、調査して欲しい」

等々。


世の中の事件や災害は全部ドラゴンのせいにされている。



「あ、見てくれたまえよ。帝都のスラムが消えた件、山がひとつ消えた事件の調査依頼もあるね」

「ありますね…」

「つい先日の、街道の町がゴロツキもろとも消えたという事件も、この町の治安部隊から依頼が出てますね」

「この町の近くだからね。心配なのでしょう」

「大騒ぎになる前に、真実を話した方がいいと思うかい、クレア…」

「駄目です。絶対に駄目です。いいですか、いいですね。絶対に駄目ですからね」

「この依頼で目撃されているドラゴンって、じつは本当のドラゴンだったりして…」

「なかにはそれもあるかもしれませんね…」

「おお、そういう可能性もあるね。よし、どれか依頼を受けてみようじゃないか。アマンダ、適当に選んで依頼を受けてきてくれたまえ」

「依頼をうけるんですかー。どうなっても知りませんよ」

しぶしぶながらアマンダが依頼が書かれている板をひとつはずして、受付に持って行った。

昨夜はぐっすり寝られたので、多少のことでは反対をしなかったのだ。


「町の治安部隊からの依頼です。クレア様が言っていた、改築中の皇帝の別荘についてです」

「周囲で空を飛ぶドラゴンでも目撃されたとでも言うのかな」

「エイダ様のおっしゃる通りです」

「湖でも夜に大きな水音を聞いたとか、閃光を見たという者もいるようです」


「この噂のせいで、人夫が拒否して別荘の工事が進まないそうです。そこで調査して、根も葉もない噂だと証明して欲しいという依頼ですね」

「ボクたちに覚えがないんだから、根も葉もない噂だと言うことは明らかだよね」

「あー、エイダは自分がドラゴンですって白状するつもりなのですか」

「あー、ボクにもそんなつもりはないよ」

「見たり聞いたりした者に会って、嘘つきましたと言わせればいいのでは」

「それだ、アマンダ。君もたまにはいいことを言うね。早速始めようじゃないか。まずは別荘建設の人夫からかな」


2人の後についていきながら、アマンダは少しだけ心配していた。

噂が嘘ではなかったりしたら…

世の中には嘘から出た誠ということもあるのだ。



★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は

https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

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