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16 噂がたった

王女が手足をばたつかせながら呻く。

「お、重い…」

覆い被さっているクレアが言う。

「気のせいでしょうか。今、重いと聞こえましたが」

自分の上にクレアが覆い被さっているのに気がついた王女。

「あー、重…くない、重くないけど…どいてくれたまえ」

クレアが立ち上がると、王女も額を押さえながら立ち上がった。クレアの顔を見上げる。

「いたた…。いったい何がおこったのかな」

クレアが無言で王女の後ろを指さし、振り返った王女が町を見た。いや、見えるはずの町が見えなかった。

「なんと、町が消えている…」

「消えましたね」

「やりすぎだよ、クレア。いくら魔法であいつらを焼却するからといって、町ごとなんて…」

「誰がやったと言うんですか」

「え、クレアじゃないの…」

クレアは黙って足下に転がっている黒い球体を指し示した。

「あれ、こんなところに魔道具が…」

そういって落ちている魔道具を拾い、ポケットにしまいかけたところで何が起こったのか理解したのだろう。少し慌てた様子で話し出した。

「これは、ほら。よくある不可抗力という話であって、いわゆる…」


そこに、アマンダを先頭にして町の住民と女給たちが戻ってきた。皆、目の前の荒れ地を見て唖然としている。


「避難の途中で、町の方に大きな閃光が見えたので、野営地の寸前でしたが、様子を見に戻って参りました」

町の入り口に避難民を残して、アマンダが王女とクレアに近寄ってきた。

「これは、つまり、そういことのなのでしょうか」

「そうね、アマンダ、そういうことなのです」

避難民も我に返って近寄ってくる。王女は避難民から逃げ出すかのように、走り出した。


避難民のひとりが尋ねた。

「これは、いったい何がおこったのでしょうか」

「これは、つまり…」

話始めようとするアマンダを制して、クレアが答える。

「ドラゴンです。そう、ドラゴンなのです」

避難民がいっせいに驚く。

「ドラゴン!?」

「そうです、ドラゴンです」


「皆さんが町の入り口を出た後、私とエイダはガストン一家の連中と戦っていました。何とかひとりも通さないようにしていると、突然ドラゴンが現れたのです」

「このあたりでドラゴンなんて、見たことも聞いたこともありませんが…」

「でも出たのです。目の前の惨状が何よりの証拠です。そのドラゴンが私たちに向かって、いきなりブレスを吐いたのです。私とエイダは幸運でした。ブレスは私たちの頭上を通り、ガストン一家をまともに襲いました。思わず目をつむり、次に目を開けたときはガストン一家も町も消えていたのです」

「ド、ドラゴンは?」

「ドラゴンもいませんでした。どこかに飛び去ったのでしょう」


アマンダは、こんな与太話を誰が信じるものかと内心呆れていたが、3人の少女の一番上の子が言った。

「ドラゴンのおかげね」

この一言を口火に、何人かが言い出す。

「よくご無事で」

「いい気味だわ、ガストン一家のやつら…」

「そういえば、戻ってくる途中で、何か空を黒いものが跳んでいかなかったか」

「あたいも見たよ、なにか空を飛ぶのを」

「そうだ、ドラゴンだ。ドラゴンがやったんだ」

「ボスのガストンは?」

「あいつはいつも宿の自室でふんぞり返っていたぞ」

「きっと宿と一緒に消し飛んだのよ」

「いい気味だわ」

「天罰よ」


なんと、ごまかせてしまった。そうクレアとアマンダが思ったとき、走り去った王女が大きな声で叫んでいるのが聞こえた。

「おーい、ここまで来てくれたまえ」

あの宿屋があった辺りで王女が手を振っていた。


何事かと皆が近づいていくと、宿屋のあった辺りに水たまりが出来ていて、その中央で水がわき出ていた。その周辺には湯気が漂っていた。

「手をつけて見たまえ。これはお湯だ」


「お湯ですね…」とアマンダ。

「温泉ですか…」とクレア。

「温泉だよ!」と王女。


「これで皆さんの生活問題も解決です。ここを温泉の町にしましょう。街道沿いの温泉は聞いたことがありません。旅の途中で気軽に立ち寄れる温泉です。大繁盛まちがいなしです」

「しかし、宿を再建する元手が…」

「このボクが投資しようじゃないか。ギルドを通じて必要なだけの資金を届けるよ。返済する必要は無い、投資だ。見返りは、利益の1パーセントをギルドのボクの口座に入れてくれれば良い。これでどうだい」

「宿ができるまで、私たちは…」

クレアが話を引き継ぐ。入り口近くに店がいくつか難を逃れています。宿が建つまではここで暮らしてください。宿が出来て利益が出るようになれば、すぐに町そのものの再建もできるでしょう。それまでの辛抱です」


ごまかすどころか、儲け話にしてしまった王女であった。


「それよりも、近くの町から様子を見るために軍が派遣されてくるかも知れません。あの閃光は隣町からも見えたと思います。さっさと立ち去りましょう」


エイダが送金のことや温泉宿の経営について、住民たちに詳しい説明を済ませた。3人の子の長女は聡明な子だったようで。エイダの話に目を輝かせていた。その話を通じて、その少女が町のリーダーとして選ばれたらしい。


「なかなか出来る子だね。きっと良いリーダーになると思うよ。町の発展は確実だ」

「用がすんだら、すぐに出発しますよ」


住民たちが総出で見送るなか、王女たちは逃げるように町を出て行くのだった。


この町の話は帝都に伝わり、人々の間で噂が立った。

凶悪なドラゴンが帝国を跋扈していると。


皇帝はドラゴンの大々的な調査を命じ、ギルドはドラゴンの発見と討伐に賞金をかけた。



★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は

https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

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