13 宿に泊まった
「ここしかないよね…」と王女。
「ここしかありませんね…」とクレア。
「しかたありませんね…」とアマンダ。
町で一泊しようと決めた3人であったが、この町に泊まれる宿は一軒しかない。そう、ガストン一家が経営する宿である。
隣接するギルドで泊めてもらえないか頼んでみたが、にべもなく断られてしまった。その結果が最初の台詞であった。
「野宿よりましです。ここにしましょう」
そう言って、クレアは宿の受付に向かう。王女とアマンダも続いた。
「3人部屋をひとつ、借りたいのですが」
クレアが受付の男に言うと、顔を向けることもなく答えた。
「個室しかない。ベッドはダブルだ」
アマンダが
「わたくしは床でかまいません。エイダ様とクレア様でベッドをお使い頂ければ…」
とクレアに言うと、それを聞いた男が言った。
「そりゃ、だめだ。ひとり一部屋借りて貰う。泊まりはひとり金貨3枚だ」
「ずいぶんと高いね」
王女の言葉に男は言う。
「指名料込みだ」
「指名料?」
「部屋に泊まるには、必ず女給をひとり指名して貰う」
「なんだい、その女給ってのは。ボクたちには必要ないよ」
「何しにこの宿に…って、女ばかりの3人組か…とにかく指名して貰う」
アマンダが王女たちの前に出て男と対応する。
「わかりました。指名しますが、女給は選べるのですか?」
「空いている女給は、そこの階段脇の部屋で客待ちをしているから、金を払ったら好きな女をひとり選んで部屋に連れて行け。あとはあんたたち次第だ。女給と話せ。残念だが男の給仕はいねぇぞ。そのかわり、ここじゃ女同士でも気にするやつはいねぇよ」
男に金貨9枚を渡し、王女たちは女給が控えている部屋に向かった。
扉を開けると、大勢の女たちが3人を見る。そして、女3人組と判ると、あからさまに嫌悪の表情を浮かべて顔をそらした。そんななかで、はじめから王女たちを見ることもなく下を向いている3人の少女がいた。いずれも10歳から13歳くらいにしか見えない。最も年長そうに見える少女が、他のふたりを守るように、自分の後ろに隠している。
「あの3人にしましょう」
アマンダが少女たちに近づく。足音で気づいた年長の少女が、アマンダを睨んでいる。アマンダが差し出した手を無視して動かない。
部屋の隅で椅子に座り、眠そうにしていた男が立ち上がってやってくると、いきなり年長の少女に蹴りをいれた。
「指名だ!さっさとついて行くんだ。また折檻されてぇのか。客のいうことは何でも聞くんだ。いいな」
「わたくしが指名した子です。乱暴はやめてくださいませ」
アマンダが男にいうと、年長の少女は他の2人の手を取って立ち上がった。
「では一緒に来てください」
アマンダが3人の少女を連れて部屋から出てくると、受付の男がそれを見て薄ら笑いを浮かべた。
「女ってだけじゃなく、ガキが趣味か…せいぜい楽しみな」
アマンダが少女たちを連れて2階に上がっていく。王女とクレアも続いた。アマンダが借りた部屋は2階の部屋のようだ。廊下を突き当たりまですすんだ。廊下には誰もいなかった。
「奥から3部屋が借りた部屋です」
アマンダが言うと、
「この子たちはどうするのですか」
とクレアが尋ねた。
「どの子がいいか、クレア様から選びますか?」
「そんなことを聞いているのではありません」
「もちろん存じています」
そう言うと、アマンダは少女たちに尋ねる。
「わたくしたちが初めてなのでしょう?」
年長の少女が黙って頷く。
「そうだと思いました。だから指名したのです。3人は知り合い?」
「…妹」
「どうしてここに」
「掠われて…」
「今すぐ助けようじゃないか、こんな所、ボクが吹き飛ばして…」
「駄目だと何度言ったら…」
アマンダが少女たちに言う。
「あなたたちは、この部屋で朝まで休んでいてくださいね」
そういって、一番奥の部屋に少女たちを入れた。
「わたしくしたちは、とりあえず隣の部屋で相談しましょう」
「あの子たちが掠われて来たってことからも、ここの連中が悪党だということは明らかだよね。やっつけても問題ないよね、クレア」
「そうですね…」
「それじゃぁ、どうやってやっつけるかだよね」
「女給たちが犠牲にならないようにしないといけませんね。悪投だけしかいなければ魔法も気兼ねなく撃てますから」
「女給たちは、朝には控え室に戻っているでしょうから、わたくしが行って町の外に連れて行きます。エイダ様たちには、陽動で暴れていただければ…」
「町の外って?」
「この町の1kmほど手前の街道脇に夜営所がありました。あそこに連れて行きます。朝から街道に山賊は出ないでしょうし。魔物の一匹や二匹、出たとしてもわたくしで対処できます」
「女給以外の町の人はどうするのですか?」
「町中にいるのは、店の店員くらいです。野営地に行く途中で拾っていきます」
「用心棒とかいるのじゃないかい」
「わたくしの、箒の錆びにして差し上げます」
「アマンダの箒って、錆びるのかい?」
「ものの例えでございます」
どう考えも穴だらけのプランであったが、納得してしまう王女と皇女であった。
「それでは、明日の朝に備えて早めにお休みくださいませ」
「ボクたちの部屋割りはどうするんだい。あの子たちに一部屋使わせてるからね」
「クレア様とエイダ様で残りの部屋をお使い頂きます。わたくしは、あの子たちと一緒の部屋で休みますので」
「それはいけませんね。私はエイダと一緒のお部屋でも差し支えありませんよ」
「そうだね、ボクもそのほうがいいかな…」
「ですから、アマンダが一部屋使ってくださいな」
アマンダは王女とクレアを交互に見ると、
「お望みのままに。ただひとつ、ここも安普請で壁が薄く、大きな声を上げると部屋の外に声が漏れます。その点だけ、ご注意を願います」
そう言って、隣の部屋に移った。
アマンダの注意にもかかわらず、夜遅くまで隣の部屋からたびたび声が漏れていたが、そもそもこの宿でそんなことを気にする客も従業員もいなかった…。
★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。
本篇は
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「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」




