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10 山賊の集落を襲った

クレアの魔力感知は範囲も広く全方位に効果があるので、守るときは優秀だ。しかし、こちらが攻めに回るときは、便利ではあるが、奇襲には向かない。こちらが魔力を感知すると、感知された相手が魔術師の場合、自分が感知されたことが判るからだ。たとえ相手の感知範囲より離れた所から感知した場合でもだ。こちらの位置はわからなくても、近づいていること自体は感づかれてしまうので奇襲にならない。


しばらく森の中を進んだところで立ち止まり、クレアはアマンダに言った。

「もう近いところまで来たのではないかとおもいます。アマンダ、すみませんが偵察をお願いします。ひとりだけなら感知されても、森の魔物か獣と思われるかもしれません。私とエイダはここで待っています」

「承りました」

アマンダがひとりで森の中に消えると、王女が言った。

「どうしてクレアには丁寧な受け答えをするのかな…」

「どういうこと?」

「主人のボクには結構きつくあたるのに」

「残念な性格だからでは?」

「ボクのどこが残念だと…」

不機嫌そうになってきた王女を見て、クレアが話題を変えた。

「ところで、山賊の根城を見つけたらどうしましょうか」

「どうするって、殲滅に決まっているじゃないかい。ボクの魔道具でドカンと」

「それは駄目です、絶対に。帝都のスラムを忘れたのですか」

「ボクが同じ失敗を繰り返すと思うのかい」

「いつも、いつも、繰り返していますよね」

「いや、まぁ、ごくたまには…」

「それに、山賊に捕まっている人がいたらどうするのですか」

「奴隷とか人質とかを捕まえたら、それを売るなり身代金を取るなりしてから次の獲物をねらうのではないかい。商隊を襲ったということは今現在捕まっている人はいないってことだと思うよ」

「絶対とは言えませんね。まずは、そこのところを確認しましょう」

「確認って、どう確認しようというのかな」

「それが問題ですね。こう、透明になるような魔道具はないんですか」

「さっきも聞いたよね、似たようなことを」

「やっぱり残念ですね」


そんな話をしながら待っていると、アマンダがもどってきた。

「この先1kmほどの所に小さな崖があって、その崖の下の開けた場所に山賊の集落があります。崖には洞窟もありましたが、中の様子は探れませんでした。ただ、ボスらしき男も含めて山賊は集落で生活しているようで、洞窟にこもっている山賊はいないようです。おそらく、それほど深い洞窟ではなく、捕まえた奴隷を閉じ込めておく所か、あるいは倉庫なのかと思われます」

「洞窟の入り口はどうなっているのかな」

「簡単な扉が付いていて、閉まっていました。扉ではなく、単に板のようなもので塞いでいるだけかも知れません」

「集落の方に捕まっている人がいる様子はありましたか」

「牢のような小屋や、見張りの立っている小屋はありませんでした」

「いるとしたら洞窟の中と言うことですね。それなら考えがあります」


クレアの考えはこうだ。この先を迂回して崖まで行き、崖にそって集落に近づく。そしてクレアの極大魔法で一気に殲滅するという単純明快な策だ。生き残りがいたら、クレアの剣とアマンダの箒で始末をする。もちろん、魔法は洞窟の中まで威力が及ばないような魔法を使う。

「具体的には何の魔法を使うのかな」

「氷の魔法を使うつもりです。これなら爆風は発生しませんから洞窟の中に捕らえられた人がいても巻き添えにはなりません」

王女も同意して、さっそく、崖を目指して集落の横に出るコースを進んだ。



集落から300メートルは離れた崖下に王女たちは潜んでいた。

「あまり近づくと、魔力を感知されます。3人固まってじっとしていると、魔物や獣とは思ってくれないでしょう。私がひとりで近づいて、集落を魔法で一気に殲滅します。私が魔法を放ったら合流してください。生き残りがいたら始末します」

「ボクの出番は?」

「凍り付いた敵にとどめですかね」

「それって、ボクは何の活躍もしていないよね」

「剣も魔法も使えないのですから、しかたがありません」

「ボクだって魔道具を使えば…」

「それは駄目です!じゃ、始めますよ」

そう言うと、クレアはひとりで崖に沿って集落に近づいていった。100メートルほどまで近づいたところでクレアが魔法を発動させ始めた。威力を極大にすると、わずかではあるが放つまでに時間がかかる。そのためか、放つ直前に、魔術師らしき山賊が魔法を感知して警告の叫びを上げた。次の瞬間、クレアの魔法が放たれ、崖に沿って200メートルほど先までの広い範囲が凍り付いた。小屋の外の山賊は一瞬で凍り付き絶命している。小屋の中にいた山賊は生きているかもしれないが、寒さで動けないであろう。

「アマンダ、小屋の中の賊を!」

そう言って、クレアは剣を抜いて小屋に向かった。


クレアは剣を持ち、アマンダは仕込みの箒を抜いて小屋を一軒一軒確かめている。王女が遅ればせながら見えない剣を仕込んだ双棍を抜いて追いついてきたときには、小屋の中の山賊もひとり残らず討伐されていた。3人は剣を納め、洞窟の前に立った。入り口の板は凍り付いて動かない。

「誰かいるのかなー」

王女の呼びかけに返事はない。

「倉庫なのかな。ため込んだ財宝があると申し分ないのだが。クレア、入り口を開けてくれたまえ」

王女の言葉に、クレアは炎の魔法で入り口の扉を溶かし、アマンダがそれを取り除いた。

「あれ、意外に深いね。奥が見えないよ」


そのとき、奥から叫び声とともに、剣や槍、斧を振りかざした大勢の山賊が入り口に殺到してきた。


3人の判断は間違いだった。倉庫や牢ではなかった。洞窟の中にも大勢の山賊がこもっていたのだ。クレアとアマンダだけならば、大勢の山賊を相手の白兵戦でもなんとかなったが、広い場所では王女を守りながらでは乱戦を戦えない。間髪を置かず、クレアが叫ぶ。

「逃げて、エイダ!退却です。森まで行きます」

3人は向きを変え、後ろも見ずに走り出した。集落を抜けて森までたどり着けば、王女を守りながらでも戦える。クレアはそう判断をした。その速い判断のおかげで、3人とも森までたどり着けそうだった。いざとなれば、王女も意外に脚が速いのだ。森に入ろうかというところで、クレアが振り返って王女の援護をしようとした。そのとき、


残念王女が、転けた。



★★ 外伝は不定期に、あまり間隔を開けずに投稿しています。


本篇は

https://ncode.syosetu.com/n6008hv/

「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」

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