01 旅立った
大陸を二分する王国と帝国、その第三王女エイダと第二皇女クレアは退屈していた。
王女は皇女を深く愛していたが、この世界では同性どうしの愛は許されない禁断の愛であった。そこで王国一聡明な王女は計略をもって、皇女とともに一人の男に嫁ぎ、新たな国を建国して王国と帝国からの独立を勝ち取った。この国であれば二人は結ばれる。国と言っても名ばかりの、領民もいない小さな国だ。領主の屋敷と魔法の研究所以外は何もない。建国後、領主となった男は、国を二人にまかせて、仲間とともに冒険者として国を留守にしている。王女の思惑通りの結果であった。
そして今、王女と皇女は退屈していた、とても退屈していた。
「なんだか退屈でたまらないのだが」
王女が言うと、
「魔法の研究があるではありませんか」
と皇女が答える。
「それは面白いんだけど、それだけじゃ刺激がないよ」
「では何がしたいのですか、残念王女様」
「なんだい、その残念王女というのは」
「ミスターがひとりごとで、エイダをそのように呼んでいたのです」
「ボクのことをかい、それは噴飯ものだね。ボクのどこが残念だというのかな」
「それで、残念…エイダは何を企んでいるのでしょう」
「それなんだけどね、クレアは帝国の皇女と同時に冒険者じゃないか。そこでボクも冒険者になろうかと思うのだよ」
「登録するだけなら誰でもなれますが…魔法は使えない、剣も振れないで、どうやって冒険者の仕事をするのでしょう」
「そこでボクの天才が発揮されるのさ。実は帝国からせしめた魔道具を改良して、身につけていられるほど小型にしたんだ。おまけに防御だけでなく、使い方によっては攻撃にも使えるようにした。大抵の相手には負けないぞ」
「剣の腕も時には必要になりますよ」
「そればっかりはどうしようもないね。でも、実はミスターにねだって、彼が使っている見えない剣、なんだっけ、タンブンシなんとかの剣を作ってもらってあるんだ。それを使えば何とかなるんじゃないかな。クレアの分もあるぞ」
「私は愛用の剣がありますから」
「じゃ、ボクが二刀流にするか」
「まぁ、ドラゴンクラスでもなければ私ひとりで大丈夫ですから、エイダは自分の身さえ守れれば十分ですけどね」
「じゃぁ、一緒に冒険に出かけようじゃないか」
「この国はどうするのでしょう」
「テイラーとオルガに留守をまかせよう。ふたりも水入らずにできて、却って喜ぶんじゃないかな」
「それと荷物はどうするのですか?冒険者は自分で持ち運ぶのですよ」
「それは困ったね。か弱い美少女が荷物を持つのは無理だからね」
「どこにか弱い美少女がいるのですか」
「きょろきょろ見回さなくても、目の前にいるじゃないか。これでも王国一可憐と評判なのだぞ」
「確かに、帝国の普通レベルの可憐さですから、王国一というのもうなずけます」
クレアの皮肉を無視して、残念王女は話を続ける。鋼のメンタルの持ち主である。
「そこで、ボクに忠実なメイドをひとり供に連れて行こうと思う。身の回りの世話は何でも出来るし、力もなかなかだ。箒をもたせれば戦いもできるぞ」
「エイダをひっぱたけるくらいで戦いが出来るとはいいませんよ」
「そうか、近衛騎士の小隊長クラスなら箒一本であしらっていたぞ」
「ガーベラさんはどうするのですか」
「あー、ここの防備を任せると言って残って貰おう。魔術師のテイラーひとりでは心許ないからね」
「エイダのギルド登録は王国と帝国、どちらでしますか」
「まだボクがいったことのない帝国で登録しようじゃないか。そのほうが面白そうだ」
善は急げとばかりに、ふたりは身支度を調えると、王女のメイドであるアマンダを供として、帝国の都へと出発した。
王国第三王女14歳エイダ、王国一聡明な魔術師(理論のみ)
帝国第二皇女15歳クレア、帝国一の魔術師にして剣士。
二人の旅の始まりである。
そして、まだ帝国の人々は知らない。
ドラゴンに匹敵する災厄が帝国に向かって旅だったことを…
★★ 外伝は不定期に、しかしあまり間隔を開けずに投稿する予定です。
本篇は
https://ncode.syosetu.com/n6008hv/
「魔術師は魔法が使えない ~そんな魔法はおとぎ話だと本物の魔術師は言う~」
です。