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【完結】爆装特警クィンビー  作者: eXciter
本編
5/23

FILE2.[科学の子・レッシィ]③



 夕方のハイウェイを、一台の真っ赤なバイクが走り抜ける。

輝くパトランプ、唸るサイレンからシティポリスの車両とわかり、一般車は車線を空けて道路脇で待機した。

路上の電光サインボードにも車線を空けるように指示が出ている。

何しろ信じがたい速度で走りながら、車両の間を泳ぐようにすり抜けていくのだ。

安全とは判るが、生きた心地はしない。

 ルナの新たなマシン、ストライクハートである。

今度の現場はイーストシティ第三十二区、金融特区(バンクエリア)


 (銀行強盗でもする気か…)


 ハイウェイを降り、少し速度を押さえて一般道を走る。

区画同士を結ぶ十六車線の道路からバンクシティの中央通りに入ると、何台かのポリスバイク、そして大型車両が追走してきた。

車両には電動式のガトリング砲が搭載され、後部の荷台にはバズーカ砲が詰まれている。

何やら過剰な装備だが、隊員たちの表情はそれでも足りぬとばかりに険しい。


 『もしかして、富士見隊員! 富士見隊員ですよね! こちら第六分隊です!』

 「九.五係の富士見です! バイクとSMS新調しました! 小型ロケットはどの方向に?」

 『セントラルバンクに向かっています。富士見隊員はそちらをお願いします』

 「そちら?」


 例のロケット以外に何かがあるような言い方が気になった。

彼らの過剰な火力と関係があるのだろうか。


 『はい。ヨナグニ證券イーストシティ支店の裏に、正体不明の大規模バッテリー反応があります』

 「バッテリー反応…?」


 シティポリスの車両には、正体不明の大型機械の発見が容易になるよう、

機体内蔵バッテリーの電力を探知する機能がある。

それによってメーカー、製造時期、電力・電圧・管理する会社、延いては製品の特定が容易になっている。

これもレッシィが暇つぶしに作ったものだ、とこの後でルナは聞かされることになる。

そして、そのレッシィ特製の探知機が不明と判定した、ということは。


 「恐らくスコルピオです。全火力を以って、発見次第破壊してください! ロケットはアタシ一人で仕留めます!」

 『了解!』


 第六分隊と別れ、ルナはセントラルバンクへと向かう。

だが、その路上―――何台ものポリス用車両が並んでいた。

激突する寸前でバイクを停止させ、ルナは居並ぶポリスの面々を見た。

わざわざその進路を阻むように待機しているのは、思った通り第八分隊の面々だった。


 「ルナちゃんじゃねーのぉ」


 その中の一人、やたら馴れ馴れしかったエセ二枚目顔の男が近付いてきた。

ヘルメットで顔は見えず、かつバイクもSMSも新調しており、この男はそれを知らないはずだ。


 「悪いね、あのロケットの件は第八(ウチ)が対処することになったから。キミは引っ込んでてねぇ」

 「そーだよォ、どうせ逃がしちゃうんだからよォ。てめーは引っ込めっつってんのよ」

 「……」


 頬の肉のたるんだ中年男がそれに追従する。ネチネチした声だが、それよりも気になることがあった。

 相手はロケットだと通報があったはずだ。それを地上で待機するなど、明らかに止める意思が欠落している。

理由は判らないが、ルナの進路を阻むために道路を占拠したのだろう。

 加えてネチネチした声で、ルナは苛立った。思わず腰の銃へと手が伸びる。

それを止めたのはレッシィからの通信だった。


 『ルナ。そんなやつ、ムシしていい』

 「だよね。どうすればいい?」

 『ハンドルのスイッチ。三つあるから、一番ひだりっかわのやつ』

 「―――OK!」


 ルナはレッシィの指示に従い、三つ並ぶうちの左のスイッチを押した。

途端、両肩からワイヤーが飛び出し、付近のビルに先端のアンカーが接触。

続けて真ん中のスイッチを押すと、ワイヤーが収納され、ルナの体はバイクごと引き寄せられて外壁に着地した。

第八の面々は、驚愕に目を見開いてその光景を見ていた。


 『重力アンカー』。人工重力発生アンカーを先端に備えた、最大延長二百メートルのワイヤーだ。


 磁力や粘着剤ではなく、強力な引力を発生させて物体に接触、固定するアンカーだ。

凄まじい牽引力と強度を誇り、三百キロのバイク程度なら軽石の如く持ち上げられる。

加えて新しいSMS装着時の最大持ち上げ重量は、シティポリス支給品のそれを大きく上回る。

支給品では直立姿勢で五百キログラムまで、しかしルナの新品は二十トンまで持ち上げられる。

スーツとバイクを固定しなくとも、握ったハンドルだけで車体を持ち上げられ。

即ち、ルナとバイクをまとめて持ち上げるのは至って容易なのである。


 一方で固定する材質を選ばない分、射出方向を誤ればあらぬ場所に固定してしまう。

そのため射出速度は初速で時速二百五十キロ近く、かつルナの技量によるコントロールが必須である。

設置されているのは新SMSの肩、腰に左右一対の二本ずつ、右腕に一本。

バイクのハンドルのスイッチと連動している他、Qスマートやグローブ内のスイッチでも起動できる。


 バイクは外壁を走る。先日も行ったニンジャ式特殊歩法こと壁走りだが、先日以上に安定した走りであった。


 「こーいうのが欲しかったのよ! 地面から壁、壁からロケットみたいな奴!!」


 レッシィにも聞こえているだろうか。つい、彼女がエヘンと威張る姿を想像し、軽く噴き出してしまう。

 数秒走ると、件のロケットが見えてきた。ルナと同じくセントラルバンクに向かっている。

事を起こす前に追いついた。真横に並び、パイロットと目が合う。驚愕と苛立ちにパイロットの顔がゆがんだ。

 ロケットの機体側面の機銃がルナに向けられた。同時にルナは再度肩の重力アンカーを射出し、ロケット側面に固定。

直後に収納することで、牽引されて壁からロケットへとほぼ水平にジャンプする。

さらに空中で側転し、ロケットの真上で上下逆さの姿勢になった。キャノピー越しに、パイロットがわめくのが見えた。

口の動きからその言葉はすぐ判った。―――『ムチャクチャだ!』


 その間に、真下のロケットに向けてルナは銃を撃った。機体側面の機銃が粉々に砕け、破片が地上に落下した。

そのまま道路対面側のビルに向け、腰の重力アンカーを射出。壁に着地し、再び走行を開始する。


 「っしゃぁ! 計算通り!!」

 『―――計算通り、ムチャクチャだな! ルナ!』


 通信でダイアンからの賞賛が聞こえた。


 「当然です! この装備のおかげで、アタシのやりたいことができる!」


 答えた直後、ロケットがアームを振り回しながら接近してきた。

ルナは車体を傾け、バイクを下方に滑らせてアームのパンチを避ける。

底面に向けて銃を撃つが、AGMTポッドに当たる直前で弾丸は飛び散り、不発に終わった。

避けられたアームはビルの外壁にめり込み、破片をまき散らした。

 バイクのタイヤが地面のアスファルトに接し、傾いた車体を立て直してルナは走行を続ける。


 『ルナ、下からはAGMTで当たらない!』


 レッシィからのアドバイスで、ルナも思い出す。


 「そっか、あれは無重力発生装置も兼ねてたんだよね」

 『うん。やっぱり上か横から狙うしかない』

 「わかった!」


 ルナの目は瞬時に周囲を探す。ジャンプ台に使えそうな物を探す。

やや大きめの車両を発見すると、バイクの前輪を持ち上げて車体に乗り上げ、加速して大きくジャンプ。

ビルの壁で更に跳躍、ロケットの上に再び躍り出た。

そして再度引き金を引こうとした、まさにその瞬間。


 『富士見隊員、こちら第六! 例のマシンが動き出しました!』


 ヨナグニ證券裏のバッテリー反応に向かった、第六分隊からの通信だった。

驚きつつ、ルナは発砲を忘れない。散弾は機体後方のバーニアポッド一基を破壊した。

ロケットの飛行が途端に不安定になる。パイロットの焦る表情が見えた。

地上に着地し、ルナは通信の続きを聞く。


 「動いた!?」

 『全員でシールド張れ! 市民の避難急げ!!』

 『大型の戦闘用ドローンです! 製造元不明、間違いなくスコルピオ―――撃て、関節を潰せ!』


 どうやら背後にドローンが迫っているらしい。指示と通信が混在している。

通信の背後で、電動ガトリングガンやバズーカ砲などの発砲音が聞こえる。


 『食い止めていますが、火力が不足しています! 進行方向はセントラルバンク!』

 「移動してるってこと!?」

 『はい、脚部と底部のAGMTで―――わぁあああっ!?』


 悲鳴、そして崩壊する瓦礫の音で通信が途切れた。何度か呼びかけるも、返事はない。


 (……あのロケットと合流しようというの? ドローンが、自動操縦?)


 嫌な予感にかられ、ルナは頭上のロケットを見上げた。

ロケットはふらふらと不安定に飛行しつつ、セントラルバンク方向から進路を変えた。

そしてロケットが向かった方向から、破壊音が聞こえる。

ルナは通信のチャンネルをオフィスへと変えた。


 「ボス、区画内の避難は!?」

 『第六のおかげで滞りなく済んだ。各バンクの金庫も閉鎖したが…』

 「そんなんじゃダメです、あれは力づくでビルを破壊でき―――」


 突如、ルナの目の前に、金属の巨大な柱が現れた。バイクを急停止させ、アスファルトを粉砕したそれを見上げる。

第六分隊からの通信で聞いた、大型ドローンが目の前にいた。

目の前に落ちてきたのは巨大な脚部だ。動物の後ろ脚に似た関節構造をしている。

長方形の本体を支える二本の長大な脚部、底面には小型の機関砲とミサイルを格納したらしいハッチ、

本体の左右側面には大口径の機関砲が据え付けられている。

さらに脚部の各所と本体底面にAGMT、つまり無重力発生装置とバーニアが一体化した推進機関を設置。

これで跳躍してきたようだ。


 そしてロケットが機体の向きを反転させ、ドローン本体の上空でホバリングした。

ルナの位置からは見えないが、ちょうどそのホバリングした真下にロケットが収まる程度のスペースがある。

ゆっくり降下したロケットはスペースにはまり込んだ。金属のコネクタがロケット底面に接続する。

その音でルナは状況を理解した。


 「合体したんだ…!」


 巨大なドローンにコックピットを兼ねたロケットが合体した。

(エンタテインメント)ムービーかビデオゲームに出てくるような、有人式の戦闘用ドローンと化したのだ。

操作の判断や機体の運動でかかる荷重など、操縦の負担こそパイロットにかかるが、

自律型と違って極めて精密、あるいは大胆な動きが可能である。

 ルナはQスマートでスキャナを起動し、ドローンの外装や内部構造を走査した。

外装は高弾性アルミ合金、軽量且つ強固にして柔軟さも備え、シティポリスの装甲車や軍の戦車にも使われている。

内部骨格はネオダイカスト亜鉛合金。子供向け玩具の材料で有名な、通称超合金(スーパーメタル)だ。

この巨体を支えている時点で、その硬度は推して知るべしと言った所である。

いくらレッシィが作ってくれた散弾銃でも、破壊は困難だろう。


 『おぉぉィ! そこの赤いポリスぅ!』


 スピーカーからパイロットの男の声が聞こえた。


 『もうテメェなんざ怖かねぇからなァ! この《オストリッチ》があればなぁ!』

 「デカブツに乗った途端イキってんじゃないわよ、チンピラが!!」

 『うるせぇ、死ね!!』


 二足歩行の大型戦闘ドローン『オストリッチ』の本体底面のハッチが開き、十本近いミサイルが吐き出された。

人間に対して吐き出すには過剰な火力だ。ドローン同士の戦闘、あるいは敵部隊殲滅に用いられるものだろう。

ルナはバイクの向きを変えると急発進させ、ミサイルを避けながら広い道路に戻る。

ミサイルを撃ち終えると、ルナのバイクを追ってオストリッチが走り出した。

その速度は尋常ではなく、大きな歩幅とAGMTと合わせてバイクに追いつきそうなほどだ。


 「第六の火器でもほとんど無傷か…!」


 しかもルナが言う通り、外装にも関節にもほぼ傷が無い。

ただ一か所、右脚部のAGMTのうち一基が破壊されているだけだった。

つまり推進機関をフル稼働させれば、バランスを崩し転倒させられる…可能性がある。

だが、いかにストライクハートと新SMSが高性能であっても、ルナ一人とバイク一台では無理がある。

前回の自律型ドローンは動きが単純で、しかも閉鎖空間故にバイクの機動力が活かせたことで撃破できたのだが…


 (もう一台…何か大型メカがあれば…!)


 だが、コマンドバルクは地上を走る大型の車両だ。ビルが密集した都市での機動力は期待できない。

本体に直接攻撃するには、持続的に高高度を移動できる…つまり飛行可能なメカが必要だ。

ダイアンが言っていたAGMTジェットがあれば、本体への攻撃が容易になる筈だが―――。




 この光景を、モニタールームでダイアン達も見ていた。

ルナのヘルメットと市街地の監視カメラの映像を見て、レッシィが立ちあがる。

頭の猫耳もピンと立っていた。


 「レッシィ」

 「レッシィちゃん?」


 ダイアン、そしてメルがレッシィの顔を見る。その表情を見て、大人二人は少女の意志をすぐに理解した。


 「ボス、ママ、いってくる!」

 「わかった。頼むぞ、レッシィ」


 ダイアンに肩を叩かれ、レッシィはうなずくと、トラゾーを抱えて格納庫に向かった。

その間にモニタールームのメルが、格納庫のリフトをレバーで操作する。

ゆっくり降下してきたリフトには、楕円形のマシンが積載されていた。

 レッシィとアシスタントのトラゾーが操縦する、AGMTジェット『スカイグラップ』だ。

 格納庫に到着したレッシィは、リフトに下がった梯子を上り、キャノピー横の指紋センサに触れた。


 「フニ~」


 続けてトラゾーの声紋。合わせて二段階の認証で、キャノピーを開けてコックピットに乗り込んだ。

レッシィが自身の体格に合わせた小さなシートに座ってレバーを握り、

その前のさらに小さなシートにトラゾーが座ると、二人の体を自動でシートベルトが固定した。

 スカイグラップの機体がリフトからカタパルトに滑り降りる。

カタパルトの先のシャッターが開き、その先にかなりの長さの通路が見えた。

 パネルのボタンを順に押すと、底面のAGMTが作動して機体が浮き上がった。


 「スカイグラップ、いくぞ!」


 シート左右のレバーを前方に押し込む。

底面のAGMT、後部のバーニアスラスタが発光し、スカイグラップが発進した。




 市街地では、地上にばらまかれる機関砲の弾丸やミサイルを避けながら、ルナが広い道路を走っていた。

速度こそストライクハートの方が上だが、オストリッチはAGMTを使用して一歩で十数メートルを進み、

密集するビルも破壊しながら走って、ルナのすぐ後ろまで迫っている。


 「こいつ、アタシを殺してからバンクを壊す気か!」


 セントラルバンクに向かっていた筈が、オストリッチもパイロットもルナ自身を追跡していた。

力づくでバンクに押し入る手っ取り早さより、ルナを排除する安全性を選んだのだろう。

ビルは破壊されるが、引き付ければ金庫への被害は防げる点では、ルナにとってもありがたい。

オストリッチの破壊が可能であれば、だが。


 『下水道で殺虫剤まかれた便所虫みてぇに逃げやがってよォー! さっきの威勢はどうしたかなァー!?』


 てめえこそさっきまでビビりちらかしていやがったくせに、とルナは内心で毒づいた。

 ミサイルと機関砲をばら撒くオストリッチのコックピットで、パイロットが嘲笑う。


 (逃げ続ければ区画が破壊される、他の区画に出すわけにもいかない―――)

 「ボス、さすがにきついです! 援護を!」

 『レッシィがジェットそっちに向かってる。もう少しだけ待て!』

 「レッシィが!? 了解!」


 通信を一旦切る。恐らくこの状況を見て、レッシィも飛行メカが必要と判断したのだろう。

となれば、オストリッチをこの区画に閉じ込め、レッシィを待つしかない。


 「頼りにしてるからね、センパイ!」


 ミサイルの雨が三度ルナを襲う。どうやらマシンの熱を探知する追尾型ミサイルのようだ。

ルナは車体を大きく傾け、突いた膝を支点として減速することなくターンした。

標的を見失ったミサイルが次々着弾し、アスファルトを粉々にする。

ルナはオストリッチの脚の間をすり抜け、すれ違いざまに右脚のAGMTを一基撃った。

散弾モードの至近距離での一撃で、AGMTは粉々に破壊された。第六が破壊した分と合わせて二基。

これで走行速度を維持しようとすれば、片側の脚部にかかる負荷が増える。


 「セコいやりかただけど、後々ラクになる方がいいし!」


 真後ろに走っていくストライクハートを追うべく、オストリッチの本体が方向転換した。

本体側面の巨大な機関砲が火を噴く。背後で砕け散るアスファルトの音が聞こえた。

そう、先ほどから耐衝撃強化されているアスファルトが容易に砕け散っている。

銃弾程度では砕けないはずのアスファルトが。

先日の誘拐犯の時もそうだが、スコルピオには優秀な兵器開発担当者がいるらしい。


 『くっそ逃げやがって! とっとと撃たれて死ねやァ!!』


 オストリッチが高く跳躍し、ルナに襲い掛かろうとする。

ルナは背後を振り返る。予想通り、オストリッチ機体は右脚側にわずかに傾いていた。

だが、現時点ではまだ支障となるほどではなさそうだ。

 オストリッチは着地に合わせ、両足裏側の姿勢安定用スパイクを立たせる。

尖端が突き刺さり、アスファルトが大きく破壊された。

大きな破片がルナのヘルメットに直撃した。バイクが大きく姿勢を崩す。

 その隙をオストリッチは逃がさなかった。倒れ掛かったルナに向け、十数本のミサイルが一斉に吐き出される。

対大型ドローン用の兵器である。直撃すればSMSでも防御しきれないだろう。

バイクを立て直すも、その時間だけでミサイルが目の前に迫ってきた。


 (やばっ…!)


 ―――だが、危機感に青ざめたルナの眼前で、ミサイルが爆破した。

吹き飛ばされた物の、傷らしい傷は無い。何者かが機関砲でミサイルを撃ち落としたようだ。


 『ルナ!!』


 頭上からレッシィの声が聞こえた。真上を見ると、ボスが言っていた「ジェット」が浮いていた。

底面で輝くAGMTの無重力発生装置パネルとバーニア、楕円形の機体。

Qスマートに表示された機体の名称は『スカイグラップ』。

二十一世紀以前の航空機とはかけ離れたシルエットだった。

スカイグラップはルナのすぐそばに降下してきた。


 「レッシィ! 助かったわ、サンキュ!」

 『上に乗って! あいつの本体に、バイクをぶつけるんだ!』

 「了解!」


 ルナは立ち上がるとストライクハートも立て直し、前輪を持ち上げジェットの天面に乗った。

天面には簡易カタパルトとでもいうべきレールがある。そこにバイクを立たせてまたがった。

ふとキャノピーを覗き込むと、片目のみゴーグルのあるインカムを装備したレッシィ、

そして二世紀ほど前の航空機パイロットのようなヘルメットをかぶったトラゾーがいた。


 『フニ~』

 「トラゾーさんも来たの?」

 『うん。トラゾーには武器を任せてる』


 レッシィが操縦用らしきレバーを握り、トラゾーの前には複数のボタンを備えたパネルがある。

操縦と武装をそれぞれが分担しているようだ。相棒の二人なら、息もぴったりだろう。


 「よし、任せた! コックピット周りをガンガン撃って!」

 『りょーかい!』


 急速にスカイグラップが浮き上がり、オストリッチ本体の眼前で停止する。

レッシィとトラゾーの姿は、あちらのパイロットにも見えているようだ。


 『お子ちゃまがヒーローごっこでちゅかァ~~ン? そーいうのはおうちに帰ってから…』


 オストリッチの大型機関砲がスカイグラップに向けられた。

やはり子供と見てレッシィをあなどっている。

無論ルナもスカイグラップを見たのは初めてだが、それでもレッシィは天才だ。

スコルピオのメカになど負けるわけが無い。ルナには確信があった。


 『やれってんでちゅよォー!!』

 「レッシィ、回避!」

 『まかせて!』


 金属音を上げ、砲口から巨大な弾丸が無数に吐き出される。

 だがルナの合図に合わせて急激に加速し、瞬間移動かと思うほどの速度でスカイグラップが真横に移動した。

吐き出されたあ弾丸は全てあらぬ方向に飛んでいき、オストリッチのパイロットが驚愕に目を見開く。

その間、ルナはずっとストライクハートのスロットルを回していた。


 『トラゾー!』

 『フニ~』


 オストリッチの真横に位置取ったスカイグラップの機体の左右側面から、ミサイルが数発発射される。

コックピット側面に直撃するが、しかし爆発はせず、突き刺さるかめり込むだけだった。


 「不発!?」

 『んーん。あたいが作った質量弾ミサイル、《ワスプスティンガー》!』

 「なるほど、爆発しない奴か。その分安全ってことね!」


 スロットルを回したストライクハートが、甲高いエンジン音を上げる。

メーターが大きく上下する。未知の速度で走る予感。

ヘルメットの下で、ルナは叫んだ。


 「喰らえェェッ!!」


 直後、ストライクハートが時速千キロの巨大砲弾と化して飛び出した。

轟音と共にバイクの前輪が激突。オストリッチの機体が大きく傾く。


 『あぅわああああ!?』

 「フンッ!!」


 激突直後、ルナは散弾銃でキャノピーを撃った。

一般の銃弾を弾き返す高弾性積層プラスチックグラス製の窓に、蜘蛛の巣状のヒビが走る。

ストライクハートは激突の勢いのままに虚空に投げ出された。

一瞬パイロットは歓喜し、頬を緩ませた。

が、瞬にしてスカイグラップが対面に移動し、バイクがその天面に着地。


 『ひぃぃぃ!!』

 

 パイロットの悲鳴と同時に、再びワスプスティンガーが放たれ、またもコックピット周辺に突き刺さった。

その間にルナはバイクを減速無しでターンさせ、再び飛び出してオストリッチに激突した。

コックピット横から、金属が裂けるメキメキという音が聞こえた。

突き刺さったミサイル、そして時速千キロでのバイクの激突により、

オストリッチ本体が破損しかかっている、とパイロットは気づいた。


 『こ、こんなアブねえ奴の相手なんて、やってられるかぁ…!』


 安全だったはずの戦闘ドローンのコックピットが、今や滅茶苦茶な攻撃を受けている。

『キング・スコルピオ』からは絶対に安全との保障付きで貸与されたはずが、簡単にそれを覆されてしまっていた。


 『くっ、くそぉ~~~!』


 逃走すべく、両脚部のAGMTを最大出力で噴射させ、機体をジャンプさせる。

が、オストリッチの機体が右脚側に大きく傾き、不自然な姿勢で跳躍した。

右脚側の二基が既に破損しており、その状態での最大出力跳躍であったため、左脚側だけが大きく上がったのだ。

プロフェッショナルのパイロットなら冷静に対処できたのであろうが、

不幸にも彼はルナを相手にして完全にパニックになっていた。

傾いた姿勢のまま着地し、体勢を大きく崩して転倒しかけている。


 『あばばっばば…』

 「レッシィ、下から!」

 「りょうかい!!」


 空中に投げ出されたストライクハートを、オストリッチの真下に一瞬で移動したスカイグラップが天面でキャッチした。

同時にスカイグラップの先端が真上を向く。重力に逆らい、ストライクハートがターンして真上に飛び出した。

オストリッチの底面に激突し、速度にまかせて本体との結合部ごとコックピットを引きちぎり、ほぼ真上に打ち上げる。

AGMTの無重力発生装置をもってしても、時速千キロのバイクを止めることはできなかった。

 ルナは両肩の重力アンカーを射出し、空中に放り出されたコックピット…小型ロケットにアンカーを固定。

重力に任せて落下し、地面に着地すると、バイクをターンさせて振り回し、道路に叩きつけた。

横倒しで落下したロケットのパイロットが悲鳴を上げる。

一方でオストリッチ本体は大きく傾き、今にも倒れようとしていた。


 「レッシィ、本体の方任せる!」

 『まかせろ! こんなもの、あたいがぶっこわしてやる!!』

 『フニ~』


 本体をレッシィに任せると、ルナはバイクを加速させ、地上に叩き落したロケットに激突した。

アンカーは収納せず、ロケットに固定したままワイヤを引き込み、バイクの前輪部まで引き寄せる。


 「街の人たちがどれだけ恐れたか……その身をもって知れェッ!!」


 ルナはバイクを加速させ、時速七百キロでロケットを押していく。

金属の外装がアスファルトとの摩擦で火花を上げ、熱で変形し、剥がれ落ちていく。

外装がはげ落ちると、今度はひび割れたキャノピーが摩擦熱でゆがみ、砕け溶解する。

パイロットの眼前に硬いアスファルトが迫り、今にも顔面を削らんとしていた。


 『い゛や゛ああああああ、ああああああああ!!』


 パイロットの醜い悲鳴には耳を傾けず、ルナは眼前に迫ったビルの瓦礫にロケットを叩きつけた。

轟音と煙を上げてコンクリートの破片をまき散らし、ロケットは数十メートル滑ってやっと止まった。

どうにか生き延びたことに気付いたパイロットは、溶け落ちたキャノピーの隙間から這い出す。


 「ひっ、ひっ、ひ―――」

 「逃げるな」


 後頭部に押し付けられた金属の感触、そして冷たい声。

恐怖に振り向くと、銃を構えた真っ赤なライダースーツのシティポリス―――ルナがいた。


 「犯人確保。車両お願いします」


 冷酷な目でパイロットを捉えたまま、ルナは通信で護送用の車両を要請した。

その背後で、スカイグラップが真下からオストリッチに突っ込み、上空へと運んでいくのが見えた。

宇宙にでも持っていくのかと、パイロットが呆然と考えた時。オストリッチの本体を、巨大な杭が貫いた。

スカイグラップの先端から飛び出した鉄杭…いわゆるパイルバンカーであった。

超天才であるレッシィの操縦技術と観察眼により、パイルは正確に動力部を貫いていた。


 『こなごなになっちゃえー!!』


 幼い叫び声と共に、オストリッチ本体は空中で大爆発を起こした。

オレンジ色の火花が壊れた街を照らし、無数の金属片が瓦礫の上に降り注ぐ。

ロケットを本体からむしり取られ、オストリッチ本体は粉々に爆破され、

挙句の果てに自分は引きずり出されてシティポリスの目の前に晒されている。

オストリッチを貸してくれたキング・スコルピオは、ポリスなど腑抜けと言っていたが…


 「コックピットなら安全だと思ったんでしょう」

 「は……ひ………」

 「でもウチにはね、超天才がいんの。その時点で勝てるわけが無いのよ」


 その超天才の助力を以って時速千キロで空中衝突を行ったのは、彼女自身である。

時速千キロのバイクで巨大なドローンに衝突し、地面に叩き落したロケットをパイロットごと瓦礫に叩きつけるポリス…

そんな危険人物など、シティポリスには一人しかいない。噂に聞いていたその名を、彼はつぶやいた。


 「……マッドポリス・ルナ」


 そんな危険人物を相手にした時点で、勝てるわけが無かったのだ。

パイロットは最早完全に意気消沈し、へたりこんでしまった。

サイレンが聞こえると、護送用の車両が到着。パイロットは拘束され、後部座席に押し込まれた。

 事件は解決。ルナはオフィスに報告すると、ヘルメットを脱いで空を見上げた。

いつのまにか日が沈みかけ、空はダークブルーに染まっていた。

その夜空を、レッシィのスカイグラップが緩やかに飛んでいく。




 犯人を護送した後、九.五係のオフィスで、レッシィはトラゾーを抱えて楽しそうにモフモフしていた。

頭部の猫耳もゴキゲンにピコピコ動いている。

 理由は先ほどのルナの言葉にあった。犯人に向けた「超天才がいる」の言葉が通信で聞こえていたのだ。

剛速球の賞賛に、今のレッシィはすっかり気分が高揚していた。


 「にゅふふふ…んふふふ」


 トラゾーを抱きよせ、額にモフモフと頬ずりすると、抱き上げて自慢げに話しかける。


 「てんさいだって。チョーてんさいだって! にゅふ、んふふっ」

 「フニ~」


 いつにもましてモフモフされるトラゾーが、自分自身も嬉しそうにレッシィを撫でる。

レッシィがご機嫌なのは、ルナの賞賛もあるのだが、それだけではないことに、

この場では当のレッシィ自身とライだけが気づいていなかった。

 レッシィはトラゾーを抱えたまま、今度はソファで隣に座るライにしがみついた。


 「ライにもね、いつか何かつくってあげるからね! たのしみにしててね!」


 ライには聞こえていないのかもしれない。だが、レッシィとトラゾーは構わず彼女に頬ずりする。

ちなみにルナは調書を書く仕事で署に残っている。

ご機嫌なレッシィを見て、ダイアンとメルの頬が緩んだ。


 「良かったわ、レッシィちゃんが元気になってくれて」

 「うん。ルナのおかげだな」


 二人が夫婦のように談笑していると、オフィスにルナが戻ってきた。

書類仕事を終えた後らしく、少々くたびれている。


 「ただいま戻りましドゥフッ」

 「ルナ、おかえり!」


 飛びついたレッシィの頭部が腹に直撃し、ルナは重いうめき声を上げた。

間に挟まれたトラゾーが少々苦しげであった。


 「ねーねールナ、あたいすごい? あたい、てんさい?」

 「どしたのいきなり。そんな今更、超すごい超天才に決まってんじゃない!」


 ルナの手がレッシィの頭をわしわし撫でた。ネコミミが嬉しそうにピコピコ動く。


 「このスーツのおかげできちんとバイクを動かせたし、重力アンカーもめっちゃ便利だしね。

 それと、第六分隊も一般市民も、全員ちょっとのケガくらいで無事だそうよ。

 レッシィが作ってくれた(エレクトロ)(マグネティック)バリアシールドのおかげだってさ」

 「でしょ! でしょ! にゅふふふ~」


 第六分隊がオストリッチ本体と遭遇した時に用いた「シールド」がそれである。

複数人が並んで用いることで巨大なバリアを発生させ、市民と第六分隊を守ったのであった。

レッシィがシティポリスに来た頃の開発品だが、現在も有効に運用されているようだ。

 そんな仲良しの二人を微笑みながら眺めていたダイアンが、ふいに立ち上がった。


 「そうだ。レッシィ、ルナにも見せてやってくれないか。あれ(・・)を」

 「あれ…うん!」


 レッシィはルナの手を引き、ライも伴って三人並んでソファに座った。

後ろの背もたれ越しにダイアンとメルが覗き込むと、レッシィがQスマートを操作した。

空中に投影されたのは、九.五係が所有するマシンの3Dグラフィックの設計図だった。

 ストライクハート、コマンドバルク、スカイグラップ、まだ名前を知らない高速ボート。

四台のマシン、そしてその上に表示されたのは…


 「にゃはは。スゴイでしょ!」

 「フニ~」

 「うん…ていうか、カッコ良すぎない?」


 ルナをしてカッコ良すぎると言わしめたそれは、二十二世紀でも信じがたい代物であった。

しかし、レッシィの表情は自信に満ちている。心なしかトラゾーも自慢げだ。


 「まだちゃんと動かせるかはわかんないけど…ぜったいうまく行く。あたいは天才だもん!」


 そこには、いじけて引きこもっていた幼い少女はいなかった。

自分が作ったマシンが現場で真価を発揮し、その瞬間を自ら見届けた彼女は、明るさを取り戻していた。

そして、今まで止めていた開発を再び始めようとしている。

これなら今後は全て任せて大丈夫と、ダイアンは確信した。


 「よし、頼むぞレッシィ。助けが必要ならいつでも言ってくれ」

 「そうよ。ボスに私にルナちゃん、トラゾーさんにライちゃんだっているんだから」


 横からメルも口添えする。レッシィはふにゃっと笑って答えた。


 「うん。そのときはお願いね!」




 薄暗い部屋で、空間に投影された映像を一人の男性が見ていた。

画面にはオストリッチを相手に闘うルナ達が映っている。

市街地の監視カメラの映像であるが、それを見られる権限があるのは本来シティポリスだけだ。

しかしこの部屋はシティポリスの部署ではなく、彼自身もポリスの制服を着ていない。


 「なるほど。シティポリスにこんな逸材がね」


 モニターを見ながら、男は薄く笑っていた。

一部始終を流し終え、映像が終わると、画面にはよく見知った中年の男が映った。


 『以上が本日の九.五係の映像になります』

 「ありがとう。OK、どうやら方針を変える必要があるようだ」


 部屋の照明が点灯した。高級な調度品が並ぶ広い室内に、部屋の主は一人佇んでいる。

部屋の主は端末の上で指を滑らせ、中年の顔の横にルナの写真を表示する。


 「九.五係…彼女たちへの対策を優先的に行おう。イタチごっこになってはこちらも危険だ」

 『何か策があるのですか?』

 「今はまだだね。そちらは僕らに任せて、キミは彼女たちの情報を流してくれ。できるね?」


 男のねっとりした視線に、中年の表情が画面の中で変わる―――怒りの形相に。

しかし怒りの視線は、男ではなくルナの写真に向けられていた。


 『お任せください』

 「結構。よろしく頼むよ」


 そう言って男は通信を切る。空間の映像も同時に消えた。

男は低い声で笑っていた。


 「これは僕らに対する挑戦だな」


 彼の服の胸にあるバッヂが輝いた。

政治家が胸元に付けるような、小さくきらびやかなバッヂだ。

その中心でサソリのエンブレムが輝く。


 「いいだろう、受けて立つとしよう。『キング・スコルピオ』二代目首領としてね…」


 彼こそ、ルナ達シティポリスの宿敵―――その首魁であった。



―――File2.完―――

登場人物紹介


▽アレッシィ・ザ・キャット

 所属:イーストシティポリス機動部隊第九.五係


 九.五係のエンジニア。愛称「レッシィ」。人間年齢で十二歳に相当。

 複数の動物の遺伝子を交配させる実験で生まれた超天才児。

 チームのメカニックを一手に引き受け、自身も相棒のトラゾーと共に前線に出動する。


 ・名前は火星の軍神アレス→「火曜日」+フィリックス・ザ・キャットから。


▽トラゾー

 所属:イーストシティポリス機動部隊第九.五係


 九.五係の人事担当。犬か猫か判らない謎の動物で年齢不詳。鳴き声は「フニ~」。

 レッシィとは親友同士で、知能が高く人間の言葉を理解し、レッシィの助手を務める。

 特に腹の毛がモフモフ。


 ・前作「ジュエル・デュエル・ブライド」のトラ猫とよく似たモフモフ生物。幼女には毛玉を。




用語解説


◇シティポリス

 全世界の警察が結集・発足した「国際警察連合」が設立し、世界各国の都市に配備した警察組織。

それまでの警察が保持できなかった火器、大型車両などを所持している。

詳細な組織構成は各部署ごとに異なり、ルナが所属する署では機動部隊に複数の分隊がある。

九.五係はルナの父が設立した対キング・スコルピオ特務部隊であり、

少数精鋭で優れた能力を持つメンバーが所属している。



◇キング・スコルピオ

 世界を裏から支配していると噂される、超巨大犯罪組織。

主に世界各国の中小犯罪組織へ兵器や技術の斡旋・提供の他、

優秀な開発者を擁しているのか高性能に改造された車両や火器のみならず、常軌を逸した巨大兵器の開発も行っている。

キング・スコルピオ自体が表立って活動することはほぼ皆無で、

そのため組織の実態を把握する者は極めて少ない。




ガジェット解説


〇SMS

 『Sub muscle suit』の略称。一種のパワーアシストスーツ。

外観はレザー製のライダースーツそのままで、着用しても動きが大きく制限されないメリットがある。

関節可動型の医療用パワーアシストスーツの発想を発展させ、

可動関節とフレームおよびシリンダーを動力ケーブルと関節部に配置した超小型中継器に変更。

背部のバッテリーから動力を伝え、両手足の指先まで筋力を補助する。

極細のケーブルと極薄のプレート型バッテリーを用いたことで、衣服に内蔵できるようになった。

シティポリスの支給品装着時は一律で五百キログラムまで、

レッシィが開発したルナ専用スーツは二十トンまでの重量を持ち上げるパワーを発揮する。



〇メディックスキャナ

 生物の肉体を走査し、負傷や病状を診断して必要な処置を表示する医療用端末。

皮膚の擦過傷、骨折、臓器の損傷などの外科的な負傷から、臓器の疾患などの内科的な症状まで診断が可能。

あくまでも行うのは診断だけで、実際の治療には医者が必要である。

九.五係のオフィス、およびシティポリスの医療室に数台ずつ配備されている。



〇AGMT

 『Anti Gravity Maneuver Thruster』の略称。

正式名は「反重力航行推進スラスタシステム」。

 パネル型の人工無重力発生装置と可動式の小型バーニアを同時に用いる航空システム。

局所的に発生させた無重力状態で浮遊し、小型バーニアで推進する。

無重力状態によって機体の上下動が少なくなり、安定した航行が望めるため、

運送業や工事車両、航空バスなどの公共交通機関に搭載されている。

自動牽引システムを搭載し、複数台の航空バスを同時に運航させる構想もある。


 一方、民間ではまだ個人用の小型車両にしか搭載されていない。

これは事故を起こした際、速度の出る車両や大型車などでは被害が大きくなりすぎるという推測からである。

タイヤの摩擦力やブレーキによって減速が効くタイヤ式の車両と比べ、地上から浮き上がって速度を出した状態では、

車両がどれだけ吹き飛ぶか、ビルに激突した際の衝撃は…などの被害がまだ計測できておらず、

現在はまだ採用の目途が立っていない状態。道路交通法の改訂の検討にも当然入っていない。


また搭載された小型車両も、最高速度、最大荷重重量などが定められ、

かつ車道と歩道の間に設置された有料の専用レーン以外での通行はできないなど、法律が厳正に定められている。

タイヤを持たない車両が自由に空中を行き来するというレトロフューチャーの未来像は、

その危険性から二十二世紀でも完全には実現できていないのである。


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