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【完結】爆装特警クィンビー  作者: eXciter
本編
17/23

FILE6.[ラストファイト・フォー・ジャスティス]①

最終回。



 高級マンションの薄暗い一室。豪奢なベッドにライが寝かされていた。

その傍らには『キング・スコルピオ』首領の男が座っている。逮捕されたのは彼の偽物であった。

首領は粘っこい視線でライを見ていた。その口元が吊り上がり、満足げに笑う。


 「これで”パンディナス”は完璧になる」


 手元の端末から空中に映像が投影され、先刻スカイグラップを捕獲した巨大ロボのグラフィックが表示された。

つまりパンディナスは、フルスペックではない状態でスカイグラップを捕獲できるほどの機動力を発揮したということになる。


 「待っていたまえよ、九.五係…フフ……」


 首領は立ち上がり、ベッドに近づいた。そしてライに手を伸ばし―――触れる前にその手が止まり、震え出す。

彼は額に脂汗を浮かべ、口元を押さえた。吐き気をこらえている。嘔吐する前に首領は手を引っ込め、数歩後ずさった。


 「フ…フフ…くそ、まだあの頃のトラウマは抜けないか…」


 額を拭い、彼は再び椅子に座った。

彼はライの能力を知っている。かつてある違法ソフトが、先代首領の時代にスコルピオに渡っていたのだ。

その製造元企業から彼女を彼女を保護する名目で、スコルピオのフロント組織である児童養護施設に保護する任務を、署長を通じてポリスに課していた。

当時、任務に就いたのがサナダである。彼とはある時期から懇意にしており、現在も情報を融通し合う仲だ。

尤も彼の目的などどうでもよく、現在は組織の拡大を目的として、イーストシティの制覇のために互いを利用しているに過ぎない。

ついでに署長まで連れてしまったのは、大変な幸運であった。


 だが不幸なことに、シティポリスには九.五係が存在する。

桁外れの身体能力を持つ超人体質のメルセデス・水江・フォンテーヌ…彼女の能力はフレデリック・ジェイソンから聞いた。

サナダからは他に超天才児のアレッシィ・ザ・キャットの事も聞いている。超天才ではあるが、子供故にメンタルは弱いとも。

特に恐ろしいのは、マッドポリス・ルナこと富士見ルナだ。彼女は犯罪者を逮捕するためならいかなる暴力も厭わない。

今でこそ犯罪者を殺した経歴は無いが、実際のところは「まだ」殺した経歴が無い、というだけのことだろう。

 そしてボスのダイアン・ゴールディ。―――彼にとって、メルセデスとともに不倶戴天の敵である。

彼女達がいる限り、この街の制覇は不可能と思われていた。


 だが、その九.五係のうちの一人…切り札である樹 ライが、今は彼の手元にある。

長年の捜索の末、サナダは先日ついに彼女の所在に気付き、スコルピオに連絡したのであった。

 そして思いついた作戦が、替え玉の逮捕だった。これによってサナダに功績を上げさせ、署長とも懇意である彼の権限を強める。

そして同時に、スコルピオの首領を逮捕したというセンセーショナルなニュースを広める。

これによって社会は『キング・スコルピオ』が壊滅したと信じ、組織への干渉を弱める。

 必然的に功労者たるサナダの意見や申請は通りやすくなった。

その結果、彼の意見によって九.五係オフィスへの突入任務を発令した。罪状はライの誘拐。

かつてのライの保護の際に、同時に着任したポリスが独自にライを確保したことを根拠としている。ある意味、全くの嘘ではない。

現時点で全てが成功していた。


 「最後に…ダイアン・ゴールディ、メルセデス・水江・フォンテーヌ…お前達への制裁だよ…。

  この僕を貶めた罰、受けてもらうからなあ!」


 首領は一人窓際に立ち、高々と声を上げて笑った。

切り札たるライを手にした今の彼にとって、全ての作戦は成功したも同然であった。




 爆装特警クィンビー

 FILE6.[ラストファイト・フォー・ジャスティス]




 襲撃から二日後。ドルフが提供した隠れ場所…彼が贔屓にしている自動車工場「男山モータース」の社員寮に、九.五係は腰を落ち着けていた。

ここの入場にはセキュリティカードを兼ねた社員証、音声と網膜と指紋による認証、さらにアナログなウソ発見器を応用した心拍数の計測が必要になる。

また盗聴器やスパイカメラ等は特殊な電磁波によってショートを起こし、登録された端末でなければ工場内および寮で使うことはできない。

社内ネットワークは外部から一切が隔離され、社で使っていない端末からはアクセスができないようになっている。

犯罪組織相手の拠点とするには、現状最も適していると言えた。


 各マシンと資材は寮に到着してから、一日か二日程度で全て運び終え、地下の倉庫に格納されている。

また、レッシィとメルがマシンの整備を行いやすいよう、工場内も大改装されていた。

オフィスにあったロボットアームを工場に移設したのである。

これについては今後、工場での運用を検討する考えのようだった。試験的な導入も兼ねているわけだ。

改装された工場では、もう一台新しいマシンを作っている。クィンビーの強化用パーツである。

さらに、寮には若葉教授もしばらく住まうことになった。犯罪組織に自宅を監視されていたのだから当然である。

彼女の使用人たちは、一時実家に避難してもらうこととなった。

脱出前に見張っていた者は全てメルが逮捕したが、今後の事を考えれば引っ越した方が良いだろう、と教授にはドルフからアドバイスした。


 「…んでドルフのおっさん、何すか? あの美女軍団は」


 新米らしい従業員の青年が、九.五係と若葉教授を指してドルフに尋ねた。

殆どの従業員には事情を話していたが、青年はその説明の際に非番であり、彼女達とは初対面である。

大人の女性のみならず猫耳の幼女と猫がいるのだから、疑うのは当然であった。


 「同業者のポリスどもに追われてんのさ。だからここで匿ってるんだ」

 「(エンタテインメント)ムービーみたいスね…やっべ、チョーかっけえじゃねぇスか」

 「悪りィがしばらく置いてやってくれ。迂闊に元の仕事場にも戻れねえからよ」


 ドルフに懇願されると、従業員の青年は快く返事をした。


 「任せてください。おっさんの頼みなら安いもんス」

 「すまねぇ、後で礼は必ずするからよ。で…実は、あと一人いるんだ」

 「あと一人スか?」

 「オホン。…マッドポリスつって判るか?」


 その通称を聞き、青年はすぐ察したらしい。

シティポリスタカ派の最右翼にして、凶暴極まる正義感の塊、暴力警官の一人見本市ことマッドポリス・ルナ。

数々の犯罪者を恐怖のドン底に叩き落し、一般市民の間でも有名な人物だ。

その彼女が、本来は仲間達といる筈だとドルフは言うのだが。

そう、ここにルナはいなかった。彼女は一人だけ署に呼び戻されていたのだ。


 「…サナダの野郎、何考えてやがんだ?」


 彼女を呼んだという人物の事を思い浮かべ、ドルフは苦い顔で首をかしげた。




 シティポリス署の機動部隊第八分隊のオフィス。

多くの隊員達が負傷し、病院送りになったことで、オフィスにいるのはルナとサナダの二人だけであった。

久しぶりに訪れたオフィスだが、ルナはこの空間自体に嫌悪を感じている。


 「今日呼び出したのは、だな。一般市民への暴行容疑のことだ」


 サナダが切り出したのは、全く身に覚えのない罪の事であった。


 「一般市民…?」

 「そうだ、先日通報があった。二人の男性がお前に暴力を振るわれたそうだ」

 「何のことですか」

 「薄暗い中で男二人にいきなり出くわしたのだからな。ま、小娘にとっては恐ろしかろうよ」


 心当たりのないサナダの話を聞き、ルナは半ば混乱していた。

が、彼のタブレットで被害者の写真を見せられた瞬間に、記憶がよみがえった。

頬のたるんだ中年、エセ二枚目風。第八分隊に所属しているはずの二人だ。

薄暗い中で彼らに遭遇したと言えば、先日の襲撃の事だ。だが、一般市民とはどういうことか。


 「第八にいるでしょう。クビにしたんですか、この二人」

 「いや、先日自主的に退職(・・・・・・)した。だから今は一般市民なのだ。何か疑問があるのか?」


 なるほど、とルナは納得した。つまりルナの襲撃にあたり、彼らが倒されることもある程度織り込み済みだったのだ。

それを見越して彼らを退職させ…あるいは襲撃を申し出た彼らが自ら退職し…、シティポリスとは無関係の一般市民となった。

そして通報したというわけだ。


 「その二人がお前に殴られ、重傷を負わされた。警官による暴力だな。懲戒免職ものだぞ」

 「アタシはその二人にトンネルの中で襲われました。正当防衛です」

 「彼らは何も武器を持っていなかったのだぞ。丸腰の一般市民相手に、お前は暴力を振るったのだ。襲われたという勘違い(・・・)でな」


 この返答を聞き、ルナは理解した。サナダはルナを懲戒免職に追い込むためにここに呼んだのだ、と。

この二人がスコルピオから提供されたスーツやアームを装備し、明らかにルナを襲ったのは録画済みだった。

が、九.五係のサーバーは現在外部に持ち出している。記録映像もそちらに残されており、この場では提示できない。

何より、ヘルメットで顔が隠れているため、当人達であるという決定的な証拠にはならない。

サナダはそれを…つまり、この場におけるルナの圧倒的な不利を理解した上で呼んだのである。

彼は勝利を確信したか、下卑た笑いを浮かべた。


 「場所が場所だけに、強姦されるとでも思ったのだろうなあ。何だ、マッドポリスでも犯されるのは怖いか? ククッ…」


 その言葉を聞いた瞬間、ルナはホルスターの銃に手を掛けた。

サナダの目的はもう一つ、ルナをなじることだ…それを頭では理解したが、理性で押さえることはできなかった。

が、そこに聞き覚えのある声がかけられた。


 「富士見隊員! お昼、そろそろ行きませんか!」

 「お話し中お邪魔してすみません、富士見隊員」


 ヘイディとスタンツマンであった。締め切ったはずのドアを、ヘイディはSMSの補助筋力でこじ開けたらしい。

全く音が出なかったのだから、相当上品なこじ開け方だったようだ。サナダが苦々しく顔をゆがめる。

スタンツマンはオフィスに乗り込み、サナダのタブレットを覗き込んだ。


 「ああ、この二人。この間富士見隊員を襲った悪漢じゃないですか。おっそろしい武器を持っていたんですよねぇ。

  しかし我が署最強の隊員に手を出すとか、完全に襲う相手を間違えましたねぇ」

 「貴様。この二人は一般市民で、こいつに殴られ…」

 「彼らから映像を提供(・・)してもらいましたよ、大変快く。ほら、見てください」


 スタンツマンは自分のタブレットを取り出し、映像を映し出した。ルナを見る何者かの視点での映像だ。

映像の中では彼ら自身がルナを殴り蹴り、あるいはパワーアームで押さえ、SMSを引き裂いていた。

見せられるルナとしてはたまったものではないが、最終的には彼ら二人とも叩きのめされて倒れた。

その瞬間にヘルメットの電源が落ち、フェイスシールド内側に装着した彼ら自身の顔が映りこんだのである。

回収した装備、彼らがかぶっていたヘルメットの録画映像だった。


 「貴様…」

  

 彼らは二人とも、ルナを穢す様を録画しようとしていたのだ。

彼らの汚らしい欲は、自らの所業をこれ以上ない程に立証することとなるのであった。本末転倒である。


 「どうやら元部下の潔白は証明されたようですね、おめでとうございますサナダ隊長。

  ああ、もちろんこの映像は他の分隊長や署長も確認済みですので。では失礼します」


 スタンツマンは厭味ったらしく敬礼し、ルナとヘイディを伴ってオフィスから出た。

その背後で、サナダが悔し気に机を叩く音だけがオフィスに響いた。

 三人は署を出て、スタンツマンのミニキャリアに乗る。運転手のスタンツマンはすぐに車を出した。


 「証拠品を集めておいてよかったです。あれが無ければ、暴行容疑の捏造による懲戒免職待ったなしでしたよ」

 「助かりました、二人とも有難うございます。でもどうして、アタシ達があそこにいるってわかったんですか?」


 後部座席に座り、サナダと第八のオフィスから解放されたことで、ルナはやっと安堵の息を吐き出した。

スタンツマンとヘイディは苦笑しながら答える。


 「ヤンセン隊員の勘のおかげです」

 「ここ何日かすごいんです、私の勘。富士見隊員に何かあったらすぐ気づくみたいで」

 「何ですかそれ、超能力? アタシなんかよりすごいじゃないですか」


 先日のトンネルの時といい、ルナの事が絡むと彼女の勘は動物並になるらしい。三人は楽し気に笑った。

その最中に、ふとルナはある疑問を抱いた。サナダが異様に自分に執着する理由が、どうもよく判らないのだ。

面倒だから放逐してしまえと、異動を喜ぶならまだ判る。だが彼は、ルナを第八から出すまいとしていた。

そして異動してからも、何かとルナにネチネチ絡んでくる。


 「…ストーキングされてるのかな、アタシ」

 「サナダ隊長にですか。まあ嫌いな相手、なんでしょうね」


 ルナの疑問に対し、ヘイディは曖昧に同意した。


 「後でサナダ隊長の元奥様に訊いてみましょう。何か知ってるかも知れません」

 「ですね…」


 ヘイディの進言に答えるも、疑問のモヤモヤは晴れない。

嫌いな相手というだけでは片づけられない、執念のようなものがサナダからは感じられる。

とにかくルナの行動を封じ、押さえつけ、功績は一切認めず、理由を見つけては叱責する…第八にいた頃からそうだった。

否、ルナが入隊した直後からだ。いきなり彼に目を付けられ、勤務を始めた頃から彼のハラスメントは始まっていた。

ふと閃いたのは、ダイアンに聞いていた言葉だった。―――隊長にも大なり小なり考えがある―――


 (…まさか、あの野郎の目的(・・)に関係がある?)


 執念の籠ったハラスメント。冷静に考えれば、そこまでする理由があるのか判らない行為だ。

特にルナがサナダに危害を加えたわけではない…自称十年もののマシンはひたすら潰したが、それ以外では特に無い。

そして彼の叱責の内、マシンの乗りつぶしの件が占めるのは、何割かに過ぎない程度のことだった。

不可抗力でシティの建造物や公共施設に被害を及んだ時さえ、彼からは犯人逮捕よりも建物の損害のことをねちっこく叱責された。

とにかく理由を見つけては、彼女を他のポリスの前で罵ったのである。


 (……それ(・・)自体が目的? それとも、アタシの心を折ること?)


 あり得なくもない、とルナは考え始めた。これまでの行いで、彼がストレスの解消というだけでも得をしたことは、ついぞ無かった。

そして継続する目的…ルナを押さえつけ心身を摩耗させるのが目的であるからこそ、彼は今なおルナに執着しているのではないか。

否、それは恐らく手段だ。そうすることで、サナダは何かを成し遂げようとしている。

執着を続け、果たされることの無い何かを。

彼の過去をしる人物―――若葉教授こそ、そのカギを握る存在であった。


 三人は男山モーター社員寮に到着した。

食堂には九.五係、そしてドルフと若葉教授が既に集まっていた。三人をメルが出迎える。


 「おかえりなさい。ルナちゃん、何の用事だったの?」

 「サナダ隊長がアタシを懲戒免職にしようって。この間襲われた件で」


ルナが先日襲われた相手が、元第八分隊所属シティポリスであったことは、既にこの場の全員に話している。

監視されていたことに加えて自身の元夫がそこまでの行動に出たことに、若葉教授は特にショックを受けていた。

何故そんなことを、と彼女はその日一日ふさぎ込んだほどだ。

 ルナはメルに事の顛末を説明すると、隣の二人の顔を見た。


 「で、お二人に助けていただきました」

 「あらあら。お二人とも、ありがとうございます。うちのルナちゃんがお世話になりまして…」

 「いえ、どういたしまして。富士見隊員を失うのは、僕達シティポリスにとっても痛手ですから」

 「それに、富士見隊員にはずいぶんお世話になってますし。少しでも恩をお返しできれば幸いです」


 メルの感謝に、スタンツマンとヘイディも鷹揚に答えた。

三人は空いた席に座り、社員食堂から届けられた昼食を採る。

その横では先日ショックに打ちのめされた若葉教授が、レッシィを隣に、トラゾーを膝に座らせてご満悦だった。

余りの立ち直りの速さにルナは驚愕したが、アニマルセラピーによるものと考えれば納得だ。


 「優しい子ねえ、トラゾーちゃんは。おばちゃん、もうすっかり元気になっちゃったわ」

 「そうだよ、トラゾーはナイスガイなんだよ! ねートラゾー!」

 「フニ~」


 そして、ライを守り切れなかったことで落ち込んでいた当のレッシィも、若葉教授との触れ合いでだいぶ立ち直っていた。

ある意味ではメル以上に母の如く…あるいは祖母の如く接してくれる彼女に、すっかり甘えているようだ。

レッシィのストレスに関しては、若葉教授のおかげで立ちどころに解決してしまっていた。

 なおレッシィのファンであったスタンツマンはと言えば、あこがれの「教授(プロフェッサー)」が子供であることに愕然とし、知らされた日には一日中呆然としていた。

ちなみに彼がレッシィを教授と呼んでいた理由は、ダイアンがメディックスキャナと電磁バリアシールドを署に置くときの紹介によるものらしい。

勝手に教授にされたことにレッシィは抗議したものの、最終的には悪い気はしないと怒りを収めた。


 「まあ、プロフェッサーが立ち直ってくれて良かったです」


 スタンツマンもそう言って状況を受け入れ、レッシィの復帰に安心した一人である。

結局敬意をそのままに、プロフェッサーと呼び続けることにしたらしい。

 そしてルナ、ヘイディ、スタンツマンが昼食を採り終えたところで、ダイアンが全員に呼びかける。

その場にいる全員が、ダイアンに注目した。ダイアンは指を三本立て、順に説明を始めた。


 「全員いるな。―――これから私達がやらなければならない事を伝える。しっかり聞いてくれ。

  一つ、ライを助けること。私達の仲間であり、元九.五係隊長の富士見英雄氏、副隊長の愛依氏が救助した子だ」


 ライのことは全員に説明してあった。彼女が署に存在したこと、そしてその能力にドルフ達は驚いていた。

しかしクィンビーのOSの作成者と聞き、彼らはすぐに納得した。

何より、無力な少女を道具のように利用しようとするスコルピオ、そしてサナダに対し、彼らは怒りを隠さなかった。


 「彼女の能力を把握しているなら、そうそう手を出すことは無いと思う。が、それも時間の問題だ。まずはこれを最優先事項とする。

  次、スコルピオ首領の確保。これも早い方が良い」


 パンディナスが出現した翌日のニュースでは、どの報道も『キング・スコルピオ残党(・・)』とだけ書かれていた。

巨大ロボによる破壊活動は、今のシティには残党によるものだと思われている。完全な油断である。組織はまだ壊滅していない。

最低でも首領を確保し、組織のトップを押さえなければ、いずれシティは掌握されてしまうだろう。


 「最後に―――これが一番難しいかもしれない。第八分隊の完全な解体、および隊員の除籍だ」


 その難しさがどれほどのものか、シティポリスに所属している九.五係、そしてドルフ達にもよく判っていた。

単純に、第八分隊はシティポリスの組織の一部である。一部の分隊や隊員達の申請のみで解体するのはほぼ不可能。

犯罪組織との癒着、隊員や隊長の不祥事など、決定的な物的証拠が必要になる。


 第八分隊による襲撃の後での取り調べによると、彼らの誰もがスコルピオとの癒着を知らないと答えていた。

彼らの装備も砂生理工という一般企業の部品を使ったものだ。犯罪組織との関係は、表面上は全く存在しない、優良企業である。

また、ルナを襲った二人は既にポリスを退職している。

スコルピオ製の武器を持っていたという事実は、あくまでも彼らの個人的な購入によるものと片づけられた。

現状では、第八とスコルピオの癒着を示す証拠は一切無い。


 またそれらの証拠を提出したとして、彼らとつながる署長の存在がある。

署長の自己判断で申請を却下されてしまえば、どれだけ証拠を集めたとしても無駄になる。

署長自身が第八およびスコルピオと結託している証拠も必要だ。


 更に、第八分隊にはキング・スコルピオ首領逮捕という功績がある。無論偽物であるが。

その分隊が実は逮捕したスコルピオ首領と癒着しているとなれば、一般市民からの信頼を失いかねない、一大不祥事である。

あらゆるメディアからのバッシングを受けるだろう。こうなればシティポリス自体の存続も危うくなる

なおこれに関して、ドルフ曰く「マスゴミどもはテメェらも騙されたくせに、簡単に掌返しやがるんだよ」。


 「でも、きちんと信頼は取り戻せるはずですよ。あなた達は正義の味方ですもの」


 そう言うのは若葉教授である。メルによる救助に加え、それ以前からルナの活躍を知っていたことで、彼女は全面的に九.五係を信頼していた。

元夫が犯罪組織と手を結ぶ一方で、九.五係やドルフ達のように正義の心を忘れないポリスがいることを、彼女はよく理解している。

だからこそ、その正義を忘れなければ大丈夫だと、保証するのである。


 「ありがとうございます、若葉教授」

 「どういたしまして。…それで、サナダの目的なのだけど」


 今度は若葉教授の方に視線が集まった。彼女の膝に座ったトラゾーが、自分が見られている物と勘違いし、慌ててレッシィの膝に跳び移る。

注目を集めた若葉教授自身は、ルナの方を見ていた。


 「あくまで推測ですけれどね、富士見さん。あなたに関係あることだと思うの」

 「アタシに、ですか?」

 「ええ」


 サナダが野心的で自己顕示欲が強く、一方で自らの能力を把握しきれていない人物であることを、教授は説明した。

その上での推測であると前置きし、彼女が挙げたサナダの目的は、意外と言えば意外な―――しかし、どこか納得できるものであった。


 「恐らく、富士見さんのご両親…当時同期入隊したご夫妻の、『完全な否定』よ」



―――〔続く〕―――

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