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【完結】爆装特警クィンビー  作者: eXciter
本編
16/23

FILE5.[デッドリー・トラップ!]③



 「は~~~…助かりました…ありがとうございます」

 「富士見隊員、無事ですか? ひどいことされてませんか!?」


 全身から力が抜けたルナは、バイクのハンドルにもたれかかった。心配したヘイディが駆け寄ってルナの体の無事を確かめる。

その後に続き、ドルフとスタンツマンも歩み寄ってきた。

ピンポイントでこの場に、しかも強力な火器を持って訪れたことに、流石にルナは首をかしげてドルフたちに尋ねた。


 「お三方とも、パトロールか何かで…?」

 「いや、ヤンセンの嬢ちゃんがな。嫌な予感がするってんで、俺らを連れてきたわけさ」

 「ドルフ隊長達に信じてもらえて助かりました。私一人だけじゃ、出動許可も取れませんでしたし」


 まるで動物の勘である。納得していいのかルナには判りかねたが、助かったので良しとすることにした。

そして気になったのはもう一つ。襲撃者二人の正体だ。

三人が話している間に、スタンツマンはトランクに襲撃者二人の装備…ヘルメットとアームをしまい込んでいた。

トランクの表面にはバッテリーやメーカー名を表示するウィンドウがあるが、どれも『Unknown』だった。

これだけのパワーを発揮できる装備を、どことも知れぬ何者かから譲渡されたなど、考えにくい…

スコルピオ製であることは間違いなかった。


 「この二人の装備、僕が預かっても構いませんか? この件の証拠として使えると思うので」

 「あ、はい。お願いします」

 「で…こいつらの顔、富士見隊員は見覚えありますか?」


 スタンツマンが尋ねると、ルナはバイクから降り、倒れた襲撃者二人の顔を覗き込んだ。

ヘルメットを外したことで、二人の顔が露わになっている。

二人は第八分隊の隊員―――Aは頬のたるんだ中年男、Bはエセ二枚目顔の方だった。


 「……ポリス、第八分隊の隊員です」

 「…第八の隊員がスコルピオ製の装備を持っていた。確定ですね、これで」


 ため息を吐き、スタンツマンは苦い表情を浮かべた。

ルナは落ちていた自分のヘルメットを拾うと、Qスマートと連動したヘルメットのカメラで二人の顔を撮影し、スタンツマンのタブレットに送信した。

と、その時。住宅街側のシャッターが突然開き、二人の人間が走ってトンネルに入ってきた。


 「ルナちゃん!」


 事情聴取に向かっていたメル、そして聴取の相手の若葉(わかば) 育子(いくこ)教授であった。


 「ママ!」

 「無事? 大丈夫なのね? ドルフさん達に助けてもらったの!?」

 「はい、おかげさまで助かりました」


 返答を聞き、メルはルナを抱きしめて頭を撫でた。

よほど心配だったのだろう、両目が涙ぐんでいる。ルナもメルを抱きしめ、安心させてやった。

そしてメルは体を離し、ドルフたちに頭を下げた。


 「ドルフさん、皆さん、本当にありがとう。うちの子を助けていただいて…」

 「イイってことよ。あんたのとこの嬢ちゃんは、俺らのエースみたいなもんだからな。何かありゃ、助けるのは当然さ」


 鷹揚に答えるドルフ。メルとは第二分隊にいた頃からの顔見知りでもあり、当時からそれなりに世話になっていた…とは彼の談である。

ドルフは若葉教授の存在に気付き、軽く頭を下げた。教授も同様に会釈する。


 「それより、そちらのご婦人はどなたなんだ?」

 「若葉 育子教授よ。サナダ隊長の元奥様」

 「それが何でここに」

 「スコルピオと第八に監視されてたの。これがその証拠」


 そう言ってメルがエプロンのポケットから取り出したのは、傭兵部隊の事務所にあった物とおなじ盗聴器入りのビス。

そしてスコルピオの物であろう、メーカー不明のライフル弾と、教授宅を囲んでいた者達のタブレットだった。

スタンツマンはそれらを受け取り、トランクに格納する。やはり表示は『Unknown』だった。


 「解析、お願いしますね」

 「お任せください!」


 スタンツマンが自信を持って答える。

とりあえずの証拠はいくつか揃い、教授は一度九.五係のオフィスへと連れ帰ることになった。

ルナがその旨の連絡を入れようとする―――だが、オフィスからの返答は無かった。


 「ボス? ボス、聞こえてますか?」

 「…おかしいわね。私の方も何も反応が無いわ」


 ルナの反応を見てメルも通信してみたが、やはり返答は無かった。その間、ルナは状況を整理する。

サナダの情報を持つ人物の監視。メルが聴取に来たことが、恐らく第八の二人に知らされ、ルナを襲撃した。

何のために? サナダの、そしてそこからつながるスコルピオの情報流出を防ぐために。

ではその情報を得ようとする、九.五係本体は無事なのか?


 「…まずい。戻りましょうママ」

 「わかったわ。ドルフさん、悪いけど車に乗せてくださる?」

 「任せろ。嬢ちゃんはバイクで、他は全員俺のMC(ミニキャリア)に乗れ!」


 ルナはヘルメットをかぶり、バイクをスタートさせてトンネルを出た。

他の者達はビジネス街側のトンネル入り口に停められたミニキャリアに乗り、その後に続く。

既に日が沈みかかった街を、ストライクハートとミニキャリアはシティポリス署へと急ぐ。

ルナが推測した通り、最悪の事態はこの時すでに起きていたのである。




 それはメルとルナが出動してから十数分後の事だった。

ダイアンがシティに設置された監視カメラを見ていると、突如トラゾーが鳴き始めた。


 「フニ~」


 一見いつも通り泰然自若としているが、いつもと異なり警戒していることがレッシィには判ったらしい。

トラゾーを抱え、レッシィがモニタールームに駆け込んできた。


 「トラゾーがケーカイしてる。ボス、オフィス前のカメラ映して!」

 「わかった」


 ダイアンがカメラを切り替えると、プレハブ小屋…九.五係オフィス入り口が映った。

妙なのは周囲をバリアポールが囲んでいることで、更にSMSやプロテクターで武装した集団がプレハブの周囲にいる。

集団はシティポリスの制式SMSを着用していた。プレハブ前カメラのスキャナを使い、材質やメーカーを分析。


 「……他の武器もポリスの制式装備そのものだ、偽造品じゃない。第八分隊か」

 「ボス、どういうこと!?」

 「ウチのオフィスの所在が連中に露見したらしい。そして突入任務が出されたということだ。狙いは恐らくライ」


 トラゾーを抱きしめるレッシィの腕に力が入った。

ダイアンの発言が意味することは、すなわちオフィスを捨ててどこかに逃げるということだ。

これまでイーストシティのシティポリスの内部で、九.五係のオフィスの場所が公開されたことはなかった。

せいぜいルナの異動の際に、裏のプレハブへの案内が通達された程度だ。

普段はプレハブ内部に資材やカーボンボックスのホログラフィを映してカモフラージュし、スキャニング疎外用の電磁波も発生させている。

これは対キング・スコルピオ特務部隊ということで、スコルピオ側への情報漏洩を防ぐためである。


 それが漏洩した。メンバー内から外部に伝わったのではない…つまり、誰かがここを調べたということである。

ゴーグルとガスマスクの下の顔もスキャナで画像に映し、名簿と照らし合わせて第八分隊であることが判明した。

そして警告や九.五係への通達は何も無かった。犯罪者が立てこもった際の突入と同じような状況だ。


 「こう来たか…レッシィ、移動先は決めてあるな?」

 「う、うん…!」

 「よし、先にライを連れていけ。場所は到着してから私達に知らせるんだ」

 「わかった!」

 「フニ~」


 レッシィは電動式パワーハーネスを取り付け、ライを自身の背中側に、胸側にトラゾーを固定した。

必要な書籍や工具・パーツ類はコマンドバルクに詰んであるので、安全を確保しつつスカイグラップに乗り込めば良いだけだ。

念のために光線銃と閃光榴弾で武装し、レッシィは準備を終えた。

ほぼ同時に、地上で爆発が起きた。どうやら入り口を探すため、プレハブを爆破したらしい。


 「じゃあボス、あたい行くね! ちゃんと後できてね! みんなつれてきてね!」

 「判ってる。ライを頼むぞ!」

 「フニ~」


 レッシィはモニタールームから格納庫のアームを操作し、スカイグラップを下ろすと自身も格納庫へ向かった。

オフィスには集団の足音が迫る。ダイアンはすぐに基地内の照明を全てオフにした。

両手に指ぬきのグローブを嵌め、警棒と拳銃をホルスターに入れ、戦闘準備を整える。

人間の足で入れる入り口は地上のプレハブのみで、マシンが出撃するトンネルは通常の車両では通れないようにかなり大きな傾斜を付けている。

ストライクハート出撃用の通路も例外ではない。つまり、防衛だけなら入り口を固めれば充分である。


 「ホントにここにいるのかよ? すげえOS組める自閉のガキってのは?」

 「サナダ隊長が言ってたろ、証拠を掴んだって。この間のあのロボットのOSだよ」

 「なるほどぉ、じゃあ確実だな!」


 降りてくる隊員達の声が聞こえた。明らかにライの事を話している。推測が事実であると判明したわけだ。

階段の途中で防犯用のレーザー光線が壁から発射され、何人かが手足を撃ち抜かれ行動不能になったのが声で判った。


 「気を付けろ、レーザーがある!」


 負傷した隊員の声の後、壁のレーザー発射装置は銃撃で破壊され、無事な隊員達が突入してきた。

入り口までの通路は成人男性二人が横に並ぶのがやっとの幅で、必然的に隊列は直線的になる。

相当警戒しているのか、迂闊に煙幕や催涙弾は一切使われていない。

その隙を突き、暗い通路の中、ダイアンは突然隊員達の前に飛び出した。

列の先頭にいた隊員が銃を構えようとするが、いきなりの事に驚愕し、もたついて手元がおぼつかない。

ダイアンはしゃがみこみ、片方の拳を床に突いて構えると、通路全体を震わせて爆発的な勢いで飛び出す。


 「うっ…撃」

 「ドスコォイ!!」


 この場にそぐわない雅やかな掛け声とともに、ダイアンは張り手を突きだした。

音速を越えた一撃を受け、先頭の隊員が背後の隊列を巻き込んで吹っ飛び、壁に激突して気を失った。

これぞダイアンが最も得意とする格闘術、米国(オールアメリカン・)軍隊式(ミリタリー・)喧嘩相撲(スモウ・グラップル)

超人体質ナチュラルボーンスーパーヒューマンにも勝る彼女の身体能力をフルに活かした、一撃必殺の格闘技だ。

ましてダイアンの身長は二メートル、体格では平均的な成人男性を大きく上回る。

恐るべき剛力を前に、隊員達は一瞬で委縮してしまった。


 「そぉいやァ!!」


 続いて別の隊員のベルトを掴み、片手で振り回して勢いをつけ、アンダースローの要領で投げ飛ばす。

腕力一つで目の前の敵を投げて投擲武器と化す、大車輪ロケット(ロケット・シタテ・)下手投げ(ボウリング・スルー)である。

激突した他の隊員ともども骨の数本を粉々に砕き、たちまちのうちに戦闘能力を奪った。

広報に控えていた隊員達が正気を取り戻し、銃を構えて乱射した。が、暗い通路でもダイアンには弾道が正確に見えていた。


 「どっせいぇイッ!!」


 警棒を取り出し、すさまじい速さで振り回して全ての銃弾を叩き落す。通路に弾頭の小さな金属音が響いた。

隊員達が呆気に取られている間にダイアンは突撃し、目の前にいる隊員を前蹴りで吹き飛ばすと、更に後列の隊員の中に飛び込んだ。

相撲と名付けられてはいるが、実戦で用いられる格闘技のため、蹴りや武器も技の一環として取り込まれているのである。

警棒を振り下ろしてヘルメットを真っ二つに割る。隣の隊員の顔面を掴むと振り回して他の隊員にぶつける。

銃を構えようとした者の腕を警棒で銃ごとへし折る。パニックを起こして閃光榴弾を投げようとした隊員から榴弾を奪い、顔面に叩きつける。


 ダイアンは次々と第八分隊の隊員を叩きのめしていった。これでも手加減はしていた。本気だったら全員が死んでいる。

化物と罵る声が聞こえたが、ダイアンは一切意に介さなかった。無力な少女一人をさらおうとする連中の罵詈雑言など無価値である。

 遅れてやって来た隊員が、壁際でバズーカ砲を構えた。他の隊員を無視し、狭い通路で撃つ気だ。

ダイアンは突撃し、隊員が引き金を引く前に砲口を張り手でつぶした。


 「だわっ…ぶへぁ!!」


 バズーカは暴発し、隊員を吹き飛ばした。当然ダイアンの手は無傷だ。

突入してきた第八の隊員達全員を無力化し終え、ダイアンはQスマートでレッシィに連絡を入れようとした。

画面にはスカイグラップの座標が表示される。どうやらどこかで一時待機しているらしい。

だが、帰ってきたのは。


 『うにゃぁっ!?』

 「レッシィ―――レッシィ、どうした! 何があった!」


 レッシィとトラゾーの悲鳴であった。金属がきしむ音に続き、キャノピーの破砕音が聞こえた。


 『なんだこいつ、めちゃめちゃチカラが強い!』

 「レッシィ!」

 『この、はにゃせ、このっ! トラゾー!!』

 『フニ~』


 更に機関砲の連射、金属板にあたって弾頭が跳ね返る音。

予想外の何かが起こっている。ダイアンは第八の隊員をまとめて縛ると、すぐさま格納庫に向かった。

コマンドバルクのエンジンをスタートする間も、レッシィとトラゾーの叫びや金属音が聞こえる。

発進用のトンネルを抜けて飛び出した先で、ダイアンは異様なものを見た。


 「ヒト型のロボットか!?」


 目測で頭頂高は二十メートルほど。クィンビーより一回り大きい。

体形はこれまでのマシンに手足が生えたようなものではなく、クィンビーと同じヒト型だ。

夕日が沈みかけた暗い空を背に、両腕に装備した巨大な鋏で、スカイグラップをガッチリつかんでいる。

コマンドバルク搭載のスキャナで、外装と内部骨格に砂生理工製の合金が使われているのが判った。

スコルピオ製である。とうとうヒト型のロボットまで作り上げたのだ。




 レッシィはスカイグラップで出撃し、あらかじめ決めておいた逃亡先にルートを設定した。

全部の小型座席にトラゾー、操縦席にレッシィが座り、操縦席後ろのスペースにライを隠している。

出口をスコルピオに発見されることも無く、無事に脱出できたのは彼女達だけであった。


 「ボス、だいじょぶかな…」

 「フニ~」


 不安そうにつぶやいたレッシィを、トラゾーが慰める。

九.五係のオフィスだけでなく、事情聴取に行ったメルとその応援のルナも襲撃されたことを、レッシィ達は知らない。


 「フニ~」

 「…うん、そうだよね。心配してもはじまんないし。早くいかなきゃ。ごめんねライ、あとちょっとだからね」


 トラゾーのアドバイスを受け、レッシィはシート後ろのライに呼びかけ、スカイグラップを加速させた。

逃亡先はスコルピオやシティポリスにも知られていない場所にある。レーダーには追手の反応も無い。

目的地まではしばらくかかるが、油断せぬようにオートには切り替えず、操縦に集中する。

その視線がふとレーダーに向いた時、視界が翳った。何事かと空を見上げると、突然巨大な何かが降下してきたのである。


 「うにゃぁっ!?」


 目の前に降下したのは、目測で頭頂高は二十メートルほどの巨体…クィンビーと同様のヒト型のロボットであった。

バッテリー反応などは一切無く、突如空間に出現したかのごとく現れた。

レーダーやスキャナを妨害する、ニードルフィッシュの機能のフィードバックだろう。

そしてそのロボットにクィンビーのような分離・合体機構は無いようだが、その分極めて頑健な構造になっているのが一目でわかった。

レッシィはレバーを動かし、スカイグラップの軌道を変えてロボットを回避しようとする。

が、ロボットは巨体に似合わぬ素早いステップでスカイグラップに追いつき、両腕に装備した巨大な鋏で捕獲した。


 「うそ、おいつかれた!?」

 「フニ~」


 船体とキャノピーに鋭利な刃が食い込む。レッシィはボタンを押してAGMTの出力を上げ、脱出しようとする。

だが鋏のすさまじい握力がそれを許さず、それなりに頑丈なはずの船体に少しずつめり込んでいく。


 「なんだこいつ、めちゃめちゃチカラが強い!」


キャノピーがひび割れ、破片がコックピット内に散らばった。

ロボットの巨大な顔がコックピット内を覗き込む。中央に一対、その周囲に左右三対、合計八基のカメラアイが覗き込んだ。

機械でありながら生物的な不気味な目に、レッシィは怯む。


 「この、はにゃせ、このっ! トラゾー!!」

 「フニ~」


 どれだけレバーを動かしても脱出できず、レッシィはやむなく攻撃に出ることにした

指示を受けてトラゾーがパネルを操作し、機関砲を乱射する。

だが外装どころかカメラアイに直撃しても、ヒビ一つ入らない。

恐らく表面のレンズはプラスチック製だろうが、だとしたら恐ろしい程の強度だ。


 「こいつ、頑丈すぎ!」


 レッシィはパイルバンカーのレバーに手を掛ける。その瞬間、ロボットがスカイグラップを持ち上げた。

咄嗟の事に対応できず、レッシィの操縦の手が止まる。ロボットはそのまま、スカイグラップを地上に向けて放り投げた。


 「んにゃあああ!!」

 「フニ~」


 レッシィとトラゾーの悲鳴が響く。落下した先は第二十一区のグリーンプロットAセクションだった。

船体は地上に叩きつけられ、十数メートルを滑って停止する。

鋏で掴まれた以外の破損は無いが、搭乗しているレッシィとトラゾーは衝撃で大きく体を揺さぶられた。

スカイグラップは緑地公園の塀に激突していた。エンジンが停止したらしく、始動のスイッチを入れても動かない。

逃げるにはスカイグラップを置いていくしかない…やむなくレッシィとトラゾーが脱出しようとした、その時だった。

周囲からSMSやプロテクター、アサルトライフルで武装した集団が現れた。

集団は躊躇なくライフルを乱射した。


 「ぅにゃああああ!!」

 「フニ~」


 恐怖に体を硬直させ、レッシィとトラゾーが悲鳴を上げる。無数の弾丸はがキャノピーを砕き、コックピットをあらわにした。

乱射が収まると、レッシィは頭を振って正気を取り戻す。光線銃と閃光榴弾を手に取り、意を決して応戦しようと立ち上がった。

が、いつの間にか近づいていた武装集団の一人が、眼前に立っていた。振り下ろされた銃床がレッシィの額を打つ。


 「いぎゃっ!」

 「おい、いねえぞ! 自閉のガキはどこだ!!」


 ふらつく頭でその言葉を聞き、ライを誘拐しに来た犯人だと判った。

彼らが装着しているスーツも、シティポリスの正規の支給品である。更に、声には聞き覚えがあった。

新型バイクの試乗で、レッシィの試作品を無駄な仕事と罵った奴だった。

何とかコックピット横に落ちた光線銃を手に取るが、襟首を掴まれて船体の外に引きずり出され、トラゾーともども砂利の地面に放り投げられた。

レッシィは額を石に撃ち付けてしまい、血が流れた。


 「ふぎゅっ!」

 「フニ~」

 「…おい、シートが動く。この裏にいるな!」


 ポリスの男たちはスカイグラップの操縦シートを引きはがし、その裏に隠したライを引きずり出したのである。

レッシィは男たちにしがみつき、ヘルメット越しに頭部を殴りつけた。

無論、非力な少女の拳でダメージになる筈もなく、ポリスは平然としていた。


 「この、ライをはなせ!」

 「なんだこのクソガキ! 手間かけさせんじゃねえ!!」


 ポリスはレッシィの髪を掴んで引きはがし、頬を張ると小さな腹を蹴った。

加減したとはいえ、SMSを装着したポリスの脚力は、レッシィから行動力を奪うに過剰な程であった。


 「ぐふぇっ!」

 「おい行くぞ! でけえ車が近付いてきた!」


 レッシィが倒れ伏したところで、ポリスの男たちはライを抱え、すぐに逃げ出した。

先刻の巨大なドローンが彼らを腹部の格納庫に回収し、その場から飛び立つ。

そこにダイアンが運転するコマンドバルクが到着した。

コマンドバルクから降りたダイアンはレッシィ達に駆け寄り、小さな体を抱き起こした。


 「レッシィ、トラゾー!!」

 「フニ~」


 トラゾーの方は無事であったが、レッシィはすぐには立ち上がれないほどに痛めつけられていた。

SMSを来たポリスの蹴りを生身で受けたのだ。骨折や内臓の破裂があるかも知れぬと、ダイアンは注意しながらレッシィを膝に抱える。

痛みにうめきながらもレッシィはダイアンに気付き、しがみついた。


 「ぼ、ボス…」

 「レッシィ、大丈夫か? 傷は、痛いところはあるか?」

 「ごめ、ごめ…ごめんなさい…」


 レッシィの両目から大粒の涙がこぼれた。周辺には襲撃者とライがいない…すなわち。


 「ライ、つれてかれちゃったぁ…!」

 「うん…犯人は誰か判るか。声やスーツに覚えは?」

 「あいつ、第八のやつらの声だった。あたいのバイクをバカにしたやつら!」


 スコルピオ製のドローンと第八分隊が提携し、ライをさらった…この事実で、両者の結託は明らかになった。


 「ここまで思い切った手を使うとは…」

 『ボス! ボス、聞こえますか?』


 ダイアンが歯噛みした直後、Qスマートからルナの声が聞こえた。すぐさま応答する。


 「こちらダイアンだ。メルも聞いてるか?」

 『ええ。どうしたの、いきなり通信が切れたけど?』

 「最悪の状況だ。基地に突入されたうえ、ライがスコルピオの大型ドローンにさらわれた」

 『ライが!?』


 ルナが驚愕し、メルは黙り込む。


 『―――レッシィ、スカイグラップは動かせる?』

 「う、うん。こわれてないし、あたいも動ける」

 『ボス、そのでかいドローンはまだいますか?』


 見上げると、ドローンは背を向けて上空を飛行していた。AGMTを搭載し、飛行までできるようだ。


 「いや、逃げた。恐らくスコルピオの本部だ。―――ルナ、ライを取り戻しに行く気だろう。ダメだ」

 『何故ですか、ボス!』

 「レッシィがケガをしてるし、落ち着かせないといけない。グラップも修理が必要だ。これで出撃させる気か」

 「ボス、あたいならだいじょぶだから…」


 レッシィは自らの無事を訴えるが、小さな体に額の流血、そして冷静さを失った状態は、ダイアンにすぐ見抜かれた。


 「大丈夫じゃない。レッシィ、君が元気じゃないと私達のチームは成り立たないんだ」

 「う…」

 「奴らはライに迂闊に手を出せない。彼女のことを知っているなら、能力への影響も考えてはいるだろう。

  一度体勢を立て直そう。これは命令だ。私、メル、レッシィ、トラゾー、そしてルナ。

  全員、そして全マシンの無事を確認できなければ、出撃は許可できない。ルナ、メル、いいな」

 『………わかりました』

 『そうね…』


 ルナもメルも納得していないのは、その声色からも明らかだった。

だがボスとして、ダイアンは全員の無事を確認する義務がある。命令と厳しく言ったのはそのためだ。

ダイアンはレッシィを抱きしめ、頭を撫でてやった。


 「猶予は短い。すぐ出撃できるはずだ。レッシィ、それまでに治療を済ませるんだ。いいね」


 ぐすぐす泣きながらうつむいたレッシィが、こくりとうなずく。

と、そこでQスマートからドルフの声が聞こえた。


 『ゴールディ隊長。何なら隠れ場所、俺が提供するぜ』

 「ドルフ隊長? 聞いていたのか?」

 『ああ、ママさんをそっちに送る所だ。―――隠れ場所はスコルピオや第八にも知られてない工場だ。

  しばらくは使えるはずだからな、マシンの整備もそこでやってくれ』


 ダイアンはレッシィと視線を合わせ、提案を受けるかどうかを確認した。

デリケートな精神を持つレッシィが、住居を変えることでストレスをためてしまうかもと考慮しての事だった。

しかし場所を知られたオフィスは使えず、先に決めた潜伏先へのコースで待ち構えられていた。

この事実から、潜伏先の場所もバレているかもしれないという不安がレッシィにはあった。

結局ほかに心当たりはなく、彼女は小さくうなずき、返答を促した。


 「判った。ありがたく使わせてもらうよ」

 『よし、じゃ物資の運搬は第二と第三と第六でやる。あんた達はそこに先に行って待っててくれ』

 「了解。ありがとう、ドルフ隊長」

 『何、イイってことよ。場所は後で送るから、受信したら来てくれ』


 ドルフの返答の後、通信が切れた。ここでついにレッシィは意識を失い、ダイアンの肩にもたれかかった。

こうも思い切った手に出た敵の行動力に、ダイアンは苦い表情を浮かべる。

予測が甘かった―――隊員達、特にレッシィとトラゾーを危険な目に遭わせてしまい、深く悔やんだ。


 「フニ~」


 その脚にトラゾーが縋る。彼も彼なりに不安なようだ。ダイアンはトラゾーの頭を撫でてやった。


 「大丈夫だ。体勢を立て直して、すぐにライを取り戻しに行こう」

 「フニ~」


 ダイアンはトラゾーを抱え上げると、レッシィとともに胸に抱いてコマンドバルクに乗り込んだ。

同時にドルフから工場のアドレスが送られてきた。ナビに行先を設定し、コマンドバルクをエンジンスタートする。

スコルピオに第八、そしておそらく署長も敵だ。このような状況では、確かに署に留まることはできない。

ナビの案内に従い、ダイアンはドルフの言う隠れ場所の工場に向かった。




―――File5.完―――

登場人物紹介


▽ダニー・シラノ・サナダ

 所属:イーストシティポリス機動部隊第八分隊隊長


 かつてルナが在籍していた分隊の隊長。ルナの父と同期入隊で五十二歳。隊員ともどもルナを罵り、異動後もルナへのハラスメント行為を続けている。

 疎んでいたはずのルナの異動に不満を漏らす、ドルフの砂生理工調査書を盗み出そうとする、ライの発見後に何者かと通信するなど、不審な点が多くみられるが…?


 ・名前はダニ+シラミ+ノミ+サナダムシから。



▽フレデリック・ジェイソン

 所属:イーストシティポリス機動部隊第二分隊隊長→キング・スコルピオ


 過去にシティポリス第二分隊に在籍し、妻子が射殺されたことを機に退職。その後キング・スコルピオにゲストとして招かれる。

 ポリス在籍時は真面目な人物と思われていたが、第三話にて射殺魔という本性が明らかになった。

 ただし劇中ではあまり危険視されることが無く、退職後の怠慢もあってその腕は落ちてしまっている。劇中では四十歳前後。本作唯一の死者。


 ・名前はフレディ・クルーガー+ジェイソン・ボーヒーズから。


若葉わかば 育子いくこ

 所属:中央大学法学部教授


 サナダの元妻。五十三歳。ルナの父を出し抜こうと苛立つサナダの暴力に遭い離婚。

 その後もサナダの事を案じてはいるが、スコルピオと手を組んだことまでは知らなかった模様。


 ・名前は「後進(若葉=若者)の育成」から。



用語解説


◇地下収監所

 凶悪犯罪者を収監する施設。内側から牢を開けることはできず、一度収監されたら外部から開けなければ外に出ることはできない。

 作中では主に『キング・スコルピオ』に絡む犯罪者を牢に入れている。



ガジェット解説


〇エアロマイク

 第四話にも登場。飛行する拡声器、空中に使用者の全身立体映像を映す映像装置のセット。

 特に大多数の人間が屋外で集会を行う時に利用する。


〇米国軍隊式喧嘩相撲

 「オールアメリカン・ミリタリー・スモウ・グラップル」。

 二十一世紀後半、某国の軍隊が創設した格闘技。当時の軍人の体躯を活かした恐るべき破壊力を誇る。




・ネコミミ幼女を泣かせるゲス(主に私)

予想外に執筆が伸び、当初五話完結の予定だったのが六話完結となりました。

最終回が近いので解説の類は書くことが少な目です。

よろしければ評価、いいね、ブクマ、感想、レビューなどお願いいたします。

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