07・勝利
【中ボス戦】
[どうしたことだ。オレ達は喰らう側だったはずだ]
ゴブリン達のリーダーであったゴルバルは、歯を軋らせる。
彼は暗黒神の加護を受けた司祭であり、俗に混沌魔法と呼ばれる邪術を操る力を持っていた。
ゆえに、率いていた軍勢を一瞬のうちに壊滅せしめた光が、爆裂の魔法であったことも理解した。
[あの集落なら、数で攻めれば勝てる]
[人間も、奴らが囲っている動植物も喰い放題だ]
ノーソン村の西農場から奪ってきた作物を得意げに掲げ、ゲラゲラと笑っていた手下共の言葉を思い出す。
(……偵察も出来んのか、役立たずめ!)
怒りをぶつけるべき相手が、己が死んだことにも気づかぬまま無造作に転がっていることも、余計にゴルバルを苛立たせた。
来る。
もはや残党となった同族達を斬り捨て、華麗なる暴風が、銀髪の死神が来る。
彼女の左手が、前へと伸ばされる。
対するゴルバルは重戦棍を構え、邪なる言霊を発した。
薄闇色の結界が展開され、レナリリアが放った5発の光弾……魔力弾が、バスバスッと乾いた音を立てて防がれる。
[ふざけるな。ふざけるな!
オレ様が人間のメス一匹ごときにやられるか!
ズタズタにして食ってくれる!]
ゴルバルは吼え、高速で突き出されるレイピアを、メイスで薙ぎ弾いた。
しかし一見簡単にへし折れそうな細い刃は、キィン、と高い金属音を立てただけ。
レナリリアは巧みに衝撃を反らし、武器へのダメージを抑えていた。
[当たりさえすれば!]
ゴルバルが念じると、赤黒いオーラがメイスに纏わる。
暗黒神の力を武器に宿らせる付与魔術……
女冒険者の脳天をブチ撒けるべく、ヴォウッ、と轟風を伴ってメイスを振り下ろした。
だがレナリリアはそれも読んでいたように、後方宙返りで回避。
あとは一撃離脱を繰り返し、じわじわとゴルバルを傷つけていく。
パターンに入ってしまえば、後は体力を削り切るだけの作業だった。
[オレは、こんなところで……]
ゴルバルは蜂の巣となって前のめりに倒れる。
村に入り込んだゴブリンも村人達によって駆逐され、歓声が上がる。
完全勝利だ。
【RESULT】
RANK:S
DAMAGE:0%
PERFECT! CONGRATULATIONS!!
◇◇◇
『クリア乙!』『888888』
『お、凄ぇ! パーフェクトじゃん!』
「乙&拍手ありがとうございます!
……実際のところ、防御力と耐久力に振り分けていないので、クリアするには必然的に無傷しかなかったんですよね。
ゴルバルの攻撃は、一発でも喰らってたらアウトでした。
ていうかね、あなた達!
こっちが真剣にチャンバラしてる最中コメント欄を『キンキンキンキン!』で埋めるの止めーや!
あやうく手ェすべって死ぬとこだったでしょうが!」
『迫真の戦闘描写やぞ』
『ナウロ系名作リスペクトやぞ』
『レナおじさんがオワタ式やってたなんて知らんかったし……』
「まぁ最初の中ボスだったから、なんとかなりましたけどね……。
この先は難易度も上がっていくので紙装甲は今回で卒業です。
さてノーソン村に戻る前に戦利品を集めましょう。
倒したゴブリンの所を回って、アイテムボックスにありったけブチ込みます」
GET:[ヘヴィメイス+1]
GET:[ナイフ] [手斧] [棍棒] [ゴブリンの左耳] [ゴブリンの犬歯]
『お、ボスが持ってたメイスは魔法の武器か』
『なんかグロいアイテムがあるんですが……』
「ボスの戦利品はそれなりの値段で売れるので、金策には役立ちます。
ゴテゴテと悪趣味な装飾が凝らされてますが……そういうのを欲しがる好事家もいるんでしょうね。
耳は『討伐証明部位』ってヤツです。
ゴブリン駆除は社会貢献なので、冒険者ギルドから僅かながら報酬が出ます。
ザコが使ってた武器は安物・粗悪品ですが『質は問わない! 武器を納品してくれ!』みたいなサブクエストもチョイチョイありますからね。
塵も積もればなんとやら。バカにできません。
ゲーム画面だと戦利品を自動で回収してますけど……
この世界に生きてるレズちゃんは顔色ひとつ変えずにゴブリンの死体から耳を削ぎ、犬歯をえぐり取る作業を淡々とこなしてるんですよね。
ふふふっ……」
『そういうこと言うからド畜生サイコパス扱いされるんやぞ』
『急に猟奇系ホラーゲームになるのやめろ』
『ゴブリンの犬歯は何に使うん?』
「今回の経験値で魔素魔法『小鬼牙兵』を習得するんで、その触媒です。
インスタント・ゴブリンを作り出して、一定時間使役する魔法ですね。
元が弱い魔物なので、使い道は軽作業をさせるか敵の足止め程度ですが、個人的には面白い魔法だと思います。
飛び道具や攻撃魔法に狙われた時、複数体バラまいて標的を分散!
とか、ダミーM S射出みたいでロマンですよね」
『それガ○ダム知らないと絶対に伝わらない例えなんだよなぁ……』
◇◇◇
【祝宴。宿六亭ふたたび】
「ありがとうな、嬢ちゃん!
あんたのおかげで村が助かった。
村長からは『嬢ちゃんを丁重に持てなせ』って言われてるんだ。
約束通り、存分に食べて飲んでってくれよ!」
ノーソン村酒場『宿六亭』店内。
集った老若男女を前に、若い店主が音頭を取る。
テーブルには、所狭しと料理が並んでいた。
宴の主役は、もちろんレナリリアだ。
「みんな、ジョッキは持ったか!? エールは注いだか!?」
「ノーソン村の英雄に!」
「オラ達の勝利の女神に!」
「「「カンパ――――イ!!!」」」
木製のジョッキがぶつかり合い、エールの泡が跳ねた。
レナリリアへの歓待ぶりは相当なもので、村人達は次々と食べ物や飲み物を薦めてくる。
特に美味かったのは一角兎の肉と、村の野菜・芋・香草を炒め、岩塩で味を整えた一皿だ。
癖や青臭さもあるが、それすらも妙味に感じられる店主自慢の料理である。
「オラは魔法って奴を初めて見たでな!
光が流れ星みたいにシュバーッ! って伸びてってな!
ゴブリンがバッタバッタと倒れてったんじゃ!」
「すっげー! ねーちゃんかっけぇー!
流星の魔法戦士だ!
てやーっ! とあーっ!」
興奮気味にまくし立てる農夫と、大げさに飛び跳ねる幼い少年。
レナリリアの飲み物は酒精のない果汁だったが、彼女の頬には朱が差していた。
【ゲーム内実績:†流星の魔法戦士† 解放!】
◇◇◇
「はい、ご丁寧にダガーマーク付きの中学二年チックな実績が解放されました。
過去にネット上で使ってた痛々しい名前を成人後に暴露されて恥ずかしさで悶えるヤツですね。
黒歴史ニキー! 黒歴史ノートニキ、息してるかー!!」
『アッ(心停止)』『ぐわぁぁ――っ!(流れ弾)』
『し、しんでる……』『衛生兵――ッ!』『阿鼻叫喚で草』
『男の子が特撮ごっこしてる幼稚園児みたいで可愛いと思いました(小並感)』
『異世界の肉野菜炒めおいしそう』
『どうせならレズちゃんも厨房借りて料理披露しようぜ』
『よし、ここはナウロ系名物、地球文明が誇る最強調味料・マヨネーズ無双だ!』
「あ、みなさま、悲報です。
この世界、マヨネーズが既に存在します。
よって異世界料理お約束の『マヨネーズしゅごい』が使えません」
『なん……だと……』
『なに!? 異世界にマヨを齎すのは地球人ではないのか!?』
「ではないですねー。開発したのはドワーフさん達です。
彼らは呑兵衛であると同時にお酒作りの名手……
つまり『発酵』という現象のエキスパートな訳で、お酢の製法、および『酢卵ソース』であるマヨネーズの製法は心得ています。
チーズや魚醤など、濃い味系な酒の肴に関する研究には余念がありませんし、味噌に近い発酵豆ペーストまでも独自発明してますからね。
職人集団であるドワーフをナメちゃいけません。
生半可な転生者がドヤろうとすると大恥を掻きますよ」
『なんて種族だ!』
『ドワーフってお酒好きだしなぁ。そりゃ食には特にこだわるよね』
「ちなみにこのゲーム、前世と死因は何パターンかございまして……
原作では『普通の男子高校生』、私の場合は『30代社畜兄貴』でしたが、『不治の病に掛かった少女』『天寿をまっとうしたご老人』などもあるようです。
料理上手のおばあちゃんとかが転生すると、高級料理に慣れた食通貴族たちを優しい味で泣かせたりも出来るので、それも面白いですよ」
『おばあちゃん転生は草』
『なんちゅうもんを……食わせてくれたんや……(号泣)』
「さてキリもいいので、今回はこの辺で……
最後はジョッキ掲げたモブおじさんのナイス笑顔をバックに配信を終わりたいと思います。
おつかレナー! また次回!」
『おつかレナ!』
『見事なケツアゴですね……』
『このクッソ濃い顔で目が澄んでるのがまたwww』
『少年みたいな瞳で可愛い(錯乱)』
緋色るみあ:『レナちゃんお疲れ様ー(´∇`)』
「お疲れ様でーす!
皆様、よければチャンネル登録と高評価をお願いします!
あ、るみあママのお絵かき配信も見にいってね!
セルフ受肉の合法ロリ眼鏡っ娘Vtuberやぞ! 超可愛いぞ!」
『ママ孝行できてえらい』
『るみあママ登録してレナリリアおじさんのチャンネル抜けるわ』
『おつレナ』
「抜けるな! おつレナ!」