06・ゴブリン討伐
【ノーソン村・防衛戦】
「嬢ちゃん、行く気か!? 無茶だぜ!」
出口へ向かおうとする少女を、慌てて静止しようとする店主。
レナリリアは一度振り返り、微笑んでみせた。
「戻ったら、この村の料理をごちそうして」
と軽口を返し、酒場を後にする。
太陽は、いつの間にか西に傾いていた。
空は血の如き夕焼け。地平線には砂埃……
大地に広がる、殺戮に飢えたゴブリン共の進軍!
その数たるや『村が飲まれる』という警告が、何の誇張でもないのが解った。
壮年農夫が悲壮な顔で鐘を鳴らし続ける。
女達は子供とともに扉に閂をかけて家に閉じこもっており、男衆は武器代わりの農具を手に、決死の覚悟を決めていた。
レナリリアは冷静に、視界の隅に浮かんだ緑に光るパネル……
ステータス・ウインドウを確認した。
身体に満ちる魔力の存在、魔法の名前、使い方……あぁ、すべて解る。
迫りくる軍勢を視界に収め、指を額に当てて精神を集中……。
発動までに少々時間は掛かるが、この距離なら間に合う。
ヴォハゥッッッ!!!!
爆発音……というよりは、暴風が一瞬で吹き抜けたような音。
魔力の白光が半球状に広がり、小鬼集団の7割方が吹っ飛んだ。
無属性の爆発を起こす爆裂の魔法だ。
己から何かが抜けていく感覚……
すなわち魔力を使った感覚を味わいながらも、レナリリアは魔法が成功したのを知った。
「なんだぁ!? ゴブリン共が……」
「あ、おい、あんた!」
農民達の声を背に受けつつレナリリアは駆け、自らを囮として群れを引きつける。
獲物を囲い込み、数で押し潰そうとするゴブリンを前に、レナリリアは虚空……アイテムボックスから、コウモリの羽を左手に現出させた。
ボウッ、と熱のない炎と共に皮膜が燃え、加速の魔法が発動する。
スローモーションのように見える棍棒や手斧、ナイフを回避するレナリリア。
レイピアの先端は、その流れで擦るようにゴブリン達の頸動脈を斬り捌いていく。
少女は己の脇を抜け、村へ向かおうとした集団に、空いた左手を伸ばした。
指先から放たれる光の球……魔力弾。
薄夕闇を裂き、5筋の流星が弓なりの軌跡を描いてゴブリンを次々と撃ちすえていく光景に、農民達から快哉が上がる。
「おおっ、凄ぇぞお嬢ちゃん!」
「オラ達もこうしちゃいられねぇ! こっち来たゴブリンは、囲んで仕留めんぞ!」
「おうさ! 家族も、畑も……奴らの好きにはさせねぇだ!」
先程の絶望的な軍勢に比べれば、村へ抜けてくるゴブリンなど微々たるもの。
何より、戦場を舞うように立ち回る戦乙女が如きレナリリアの勇姿。
村人達は奮い立ち、『俺が村』を守ろうとゴブリン共めがけて農具を振るった。
◇◇◇
『村人と魔物が大乱戦とかラ○フコッドかな?』
『あれは別格だから……(震え声)』
『ラストダンジョン級の魔物と互角に殴り合えるMURABITOと一緒にしてはいけない(戒め)』
「……っふ、ふふふふ……」
『どうした?』
『なに笑てんねん』
「Fooo気持ちいィ――ッ! これですよこれぇ!
初手のMAP兵器で敵戦力を大幅に刈り取った後、擦れ違いざまに斬り抜けつつ、攻撃魔法をバカスカとブッ放す!
無双ゲームはこうじゃなくっちゃあいけません!
たまんねぇなぁ!!」
『こっわ』『やべー奴がいる件』
『ゴブリンよりもこっちの方が危険なのでは?』
『レナリリア君、人としてのモラルというものをだね……』
「言うて、ここ異世界ですよ?
レズちゃんだって恐怖で竦むよりは、やべー奴だろうが動けた方が生き抜けるってもんです。
モラルなんぞ知ったことかクソボケェ!」
『あっ、クソボケの人だ!』
『やっぱりチンピラなんだよなぁ』
『命を奪う葛藤とか……なさらないんですか?』
「葛藤? そんなものは死んだ後、あの世で存分にすればよろしい。
一応精神力の数値が一定以下だと、それ系のイベント起きますけどね。
主人公がゴブリンの血で汚れた自分の手を見つめて震えながら、
『これは現実……! ゲームじゃないんだ……!』
みたいなことを言うムービーが流れます。
大抵の実況者は『ゲームなんだよなぁ……』ってツッコみますけど」
『草』『まぁ、そうなるな』
『アニメじゃない(アニメ主題歌)』
『そんなん言ってる間もゴブリンをズバズバ切り捨て御免してるあたりド畜生サイコパスの所業』
「いかにも。拙者、ド畜生サイコパス侍。
義によりてゴブリンをブッ殺ヒャッハーに候」
『サムライがヒャッハー言うのか(困惑)』
『髪型チョンマゲじゃなくてモヒカンにしてそう』
『義とは(哲学)』
『義を失ったな……』
『勇を失ったな……』
『冨岡○勇を失ったな……』
『俺は失われていない!(涙)』
「○勇さん完全にとばっちりで草生えますよ」