05・宿六亭
【酒場】
村酒場『宿六亭』。
ここ、ノーソン村では数少ない娯楽の場である。
だが店の名に反して、日も沈まぬうちから呑んでいる宿六はいなかった。
どこの家も嫁さんの怒声は怖いのだろう。
開店準備に勤しんでいた20代なかば程の店主は、来客に目を丸くした。
「おっ、珍しい。こんな早くからお客さんかい?
へぇ、嬢ちゃんみたいな子が剣士なんてな。
俺も一度は冒険者に憧れて村を飛び出したが……
ははっ、現実の厳しさを知って出戻りさ。
情けねぇ話だがね」
青年店主は自嘲気味に笑った。
ノーソン村の者にしては訛りが薄いのは、村の外へ出ていた経験からだろう。
西農場の話を元にレナリリアは「ゴブリンについて何か知らない?」と尋ねた。
「ふむ……最近は『畑がゴブリンにやられた』って愚痴るお客は多いし、村の近くに棲家でも作ってるのかねぇ。
まぁ出てきたって棒や鋤でも振り回しゃ追い払えるが、あいつら懲りるってことを知らねぇし、数が多い時にはやたら強気だ。
死んだ爺様からは、数十年に一度は禍やら大暴走やら言われるゴブリンの大量発生が起こる、なんて脅されたことはあるが、まさか……ん?」
カン、カン、カン、カンッ……!
乾いた金属音に顔を上げるレナリリア。
店主は小さく肩をすくめた。
「ありゃ物見櫓の鐘だ。
よく村の悪ガキ共が悪戯で鳴らして、母ちゃんに尻を引っ叩かれてるのさ。
どうせ今回も……」
『ゴブリンだぁ! 女子供は家さ入れ!』
『ありゃあ何匹いやがんだ!?』
『解んね! けど、あれじゃ村が飲まれちまう!』
扉越しに聞こえた村人達の声に、店主の顔が凍り付いた。
◇◇◇
「ほれぼれするような高速フラグ回収ですね……
『まさかな……』って言った直後にコレですよ?
この店主さん、B級ホラー映画に出たら真っ先に死にそうじゃないですか?」
『序盤15分で彼女とイチャついてて殺される役』
『「大丈夫さキャサリン。俺が守ってやるよ」ってドヤ顔した直後に頭カチ割られて、悲鳴上げた彼女も3秒後ぐらいにゾンビに喰われるやつ』
『B級洋画ニキ達が無駄に詳しくて草』
「たまに見ると面白いですよ、ああいう映画。
酒場を出ると戦闘開始ですが、その前に……
異世界転生の定番『ステータス・オープン』!
コントローラー上部のL1、L2、R1の各ボタンへ、戦闘中に使う魔法を振り分けていきましょう。
R2は仲間が加わった後、キャラを切り替えるボタンなので今は保留です。
5発のエネルギー弾を同時に撃てる魔力弾。
出が遅いけど高威力の範囲魔法、爆裂。
後は移動速度を上げる加速も入れておきます。
強化は地味だけど大事ですからね。
触媒のコウモリの羽もいっぱい集めたんで、使っていきますよー」
『バフはマジ重要。ソシャゲやってるとよく解る』
『小学生時代はRPGといえば攻撃と回復でゴリ押しだったわ……』
『ナウロ系小説だと強化能力者主人公は「直接戦わないお前はお荷物だ!」って追放されがち』
『で、追放した元パーティは弱体化して落ちぶれてく展開でしょ。ぼく知ってるよ』
「おっ、コメ欄にもナウロ系有識者ニキが増えてきましたね。
こっちも準備できたので……いざ、地獄を作りに行きましょう!」