04・農村にて
【開拓村】
村の周りには木製の簡易柵が設置され、外側に背の高い草が等間隔で植えられていた。
それはマヨケソウと呼ばれる植物であり、先程の草原蝙蝠や、森林狼、一角兎といった獣が嫌う匂いを放つため、作物の食害・人への獣害を減らしてくれているという。
「あんれー! ずいぶんと美人さんが来たもんだ!
ウチの息子んところに嫁に来んかね? ひゃっひゃっひゃ!」
鍬を振るっていた中年農婦は、顔を上げると恰幅の良い身体を揺らして豪快に笑った。
レナリリアは苦笑して首を横に振りながらも、農作業を小一時間ほど手伝うことにする。
「ありがとうね。ほい、手間賃代わりだぁ。そのままかじっても美味いよ!」
肥沃なナウロペア平原の栄養を取り込んで育った野菜は、驚くほど旨味が強く瑞々しい。
魔物の蔓延るこの世界においても人々はたくましく生きており、旅人を暖かく迎える優しさも持っていた。
◇◇◇
「はい。最初の村にやってまいりました。
おばちゃんのくれたお野菜うまうまー♪
回復アイテム『甘いネギ』5本GETだぜ!
なお、村の名前は『ノーソン』です」
『農村じゃねーか!』
『コンビニみたいな村名ともいう。NOWSON……』
『レナリリア殿。もう少し、ひねりというか……なんというか……』
「単純でなければ覚えませぬ、とは言いませんが。
いいんですよ、原作小説も日本語なんだからネーミングは解りやすくド直球で。
つーか、そもそも異世界なのに普通に言葉通じてますしね、ご都合的に」
『メタすぎるんだよなぁ……』
『おばちゃんを百合ハーレムメンバー第一号にしろ(圧力)』
「熟女はコアな需要があるかもですが、残念ながら攻略対象ではありません。モブやぞ。
あ、西の農場に(!)のアイコンが出てますね。
行ってみましょうか」
◇◇◇
【ノーソン村・西農場】
肩を落とす一人の農夫。
目の前の畑は踏み荒らされており、無数の歪な足跡が残っていた。
彼が丹誠を込めて耕し、肥料を試行錯誤して作り上げた土は、乱雑に掘り散らかされている。
「あぁっ、畜生! 旅人さん聞いてくれろ!
アイツら、オラが育てた野菜も芋も、みぃんな食い荒らしやがって!
ゴブリンだよ! あの憎たらしい小鬼どもが、またぞろ出やがっただ!」
農夫は訛りの強い悪態を吐き、顔を覆った。
斧のようなもので割られた木柵の破片や、へし折られたマヨケソウを見る限り、ナウロペア平原での農業は決して楽なものではないようだ。
◇◇◇
『ゴブリンか?』『ゴブリンだな』『ゴブリンだ』
「絶対そういうコメント来ると思いましたよ!
ゴブリン必ず殺すマンは座ってもろて……」
『実際この世界のゴブリンってどんな感じなん?』
「他のファンタジー作品でも見るタイプですね。
臆病だけど残忍な敵対種族。
人間の子供ぐらいの背丈で緑色の肌をしてます。
T R P G畑でのゴブリンは物量と狡猾さで人類を苦しめる恐怖の存在ですが……
当ゲームには疲労の数値がないですからね。
キャラは不眠不休で戦えるので、操作に慣れちゃえば一般ゴブリンは某最終ファンタジー並に単なるザコですザコ」
『もっとメスガキみたいに言って』
「ふふふっ、ざこざぁーこ♡
よわよわゴブリンお兄ちゃん♡
あたしみたいな子供に逝かされちゃうなんて恥ずかしいね♡
って何を言わせるんですか!
別料金とりますよ!」
『大人のお店のオプションみたいに言うな』
『逝かされる(物理)』『声だけはかわいい』
『メスガキは解らせなきゃ……(使命感)』
『文句いいつつリクエストに応えてくれるレナたんすこ[別料金:¥1000]』
「あぁっ、本当に投げ銭が来た!?
ネクタイONLY紳士さん、別料金ありがとうございます!
あと声だけはかわいいって言った奴。
後 で 屋 上 な ?」
『ヒエッ……』『すっげー低い声www』
『ナチュラルに威圧するやん?』
『恫喝ASMRたすかる』
『チンピラかな?』
『メスガキチンピラ元おじさんTS魔法戦士』
「私の肩書き、これもう解んないですね……」