03・平原を行く
【ムービー:ナウロペア大陸・中央平原】
脛ほどに伸びた草が風に揺れ、サァサァと涼しげな音が平原に響く。
レナリリアは手を庇にして陽光をさえぎり、青い瞳を細めた。
排気ガスで濁った前世の地球とは違う、澄んだ空気の香り。
空の向こうへ、見たこともない極彩色の鳥が飛んでいく。
視界を巡らせた先に、村らしき影が見えた。
そこが安全かどうかは知る由もないが、身体を休める場所は確保しておきたい。
まずは行って確かめよう。危なければ逃げることも考えればいい。
銀髪を躍らせて、少女は駆け出した。
◇◇◇
「普段のカメラ視点は、主人公を背中から映してる状態ですよね?
こうやってレバーを手前に倒すと……ほらっ、見てください!
レズちゃんがこっちに走ってきてパイを揺らしてくれるんですよ!
ぽいんぽいーん♪」
『喋ったとたんに知能低下するじゃん?』
『自分の分身にセクハラする女』
『中身はおっさんだからね。しょうがないね』
『美少女演出してくれたムービーくんの仕事を台無しにするな』
『絵師に怒られたのに結局変えてないのか……』
緋色るみあ:『おこってないよ(^ω^#)』
「めっちゃビキビキしてる!
ごめんて……ママごめんて……」
『あんなに揺れると痛そう(実体験)』
『実体験!?(ガタッ)リスナーにリアル巨乳姉貴おるん!?』
『今度揉ませてください(土下座)』
「あっ、こぉーらっ♪ 女の子にぃ、そういうこと言っちゃダメだぞぅ? ぷんぷんっ☆」
『は?』『うわキッツ』
『その口調は生理的に受けつけない』
『自分、嘔吐いいすか?』
『レナリリアおじさんは普段の言動を見直して、どうぞ』
『初見です。「ぷんぷん☆」でドン引きしたので帰りますね』
「こういう時は息ピッタリですよねキミら!?
あ、初見さん? 『となりの山岡くん』さん、いらっしゃいませ!
ごめん帰らないで。私も自分で言ってて鳥肌立ったんで」
『自爆してて草』
『おもしれー女だな。チャンネル登録しました』
『帰るって言いつつ律儀に残る山岡ニキは聖人』
「登録ありがとうございます!
ほんま感謝やで……っと、来てますね、敵」
◇◇◇
【初戦闘】
剣呑な羽音が近づいてくる。
平原蝙蝠と称される獰猛な巨大コウモリの群れは、昼日中であるにも関わらず、平原を走るレナリリアに襲い掛かってきた。
血を吸うための牙ではなく、獲物を喰い千切るためのギザ歯がガチガチと音を鳴らす。
若い女旅人の肉は、さぞかし美味そうな匂いがしたのだろう。
敵の位置と距離を、斥候の感覚で把握。
囲まれないようジグザグにステップを踏み……
喰らいつこうとした飛獣共を、身を翻して回避しながら抜刀する。
「……ふっ! ハァッ! てぇえやぁっ!」
ザンッ! ズサッ! ザシュッ……!
少女の気声に合わせて、細身の刃が閃いた。
翼を切り裂かれ、あるいは心臓を貫かれたコウモリが落ちていく。
ヒュン、と風切り音をさせ、レナリリアは剣に纏わりついた体液を払った。
戦い方は転生した身体が教えてくれる。そう確信した。
◇◇◇
『お、一瞬で戦闘終わった』
『流れるみたいな気持ちいい動きやな』
「クソデカコウモリくんは練習用の魔物なので、攻撃が当たれば落ちます。
そうそう、このゲームは低予算ながら動きには結構こだわってるみたいですよ?
いま使ってる軽戦士型のキャラ素体は、モダンバレエのダンサーさんにお願いしてモーションキャプチャーしたとか。
SFアクション映画的なド派手さはないけど、美麗で花のある戦闘スタイルを目指したそうです」
『いい動きしてんねぇ! 道理でねぇ!』
「ちょっと作業プレイになっちゃうけど、コウモリの羽は『加速』の魔法触媒になるので、もうしばらく狩っていきますか。
次の村は無理だけど、魔術師ギルドがある町なら換金できますから多く持ってても損はないですし。
本来ならレズちゃんがプレイヤー知識を知ってるわけないんですが、まぁ気にするな」
『コウモリの皮膜ってナマモノっぽかった気が……くさそう』
『売る前に腐りそう』
「ナウロ系主人公御用達の亜空間アイテムボックス持ってますからね。
ニオイ問題は起こらないですし、長期保存も大量輸送もお手の物ですよ」
『出たわね、四次元ポ○ット』
『ナウロ系主人公さん、冒険者よりも運送業の方が向いてる説』
◇◇◇
ザンッ! ズサッ! ザシュッ! ザンッザンッ! ザシュッ……!
『大 規 模 乱 獲』
『お姉さん許して生態系こわれる』
『コウモリ絶滅しちゃーう! ホ、ホ、ホァ――――ッ!?』
「魔物は無限湧きするから大丈夫ですって安心してくださいよー!
ヘーキヘーキ! 平気ですから!」
ズシャッ! ザンッザンッ…………!