01・配信開始
――動画投稿・配信サイト『BouTube(通称:某つべ)』――
夜21時。
配信画面上部に『準備中』という大きな丸文字が表示されていた。
ピンクの壁紙を背に微笑む一人の少女。
オレンジ色のスカートに刺突剣が吊るされていて、白いブラウスの上には水色の肩当てと胸当てを着けている。
顔が左右に動くたびに肩までの銀髪がサラサラと揺れ、透明感のある青い瞳が時折瞬きした。
『来ちゃ!』『待機』『ゆらゆらかわいい』
『この娘可愛いなぁ、清楚だなぁ(棒読み)』
『顔は可愛い。声も多分可愛い。なお(以下略)』
画面右側に視聴者達のコメントが並ぶ。
21時01分30秒。
右下……コメント欄の下部に移動した少女は、柔らかな声を発した。
◇◇◇
「こんにちは、こんばんは、こんレナー!
外見は美少女、中身はおっさんの個人勢Vtuber!
TSメス堕ち転生冒険者レナリリアです!」
『こんレナー!』
『メ ス 堕 ち お じ さ ん』
『相変わらずひっでぇ名乗りだぁ……』
『親の声より聞いた自己紹介』
「みなさま待機&ご挨拶ありがとう!
あと親の声ニキはちゃんと親と話してください。
コメント頂いた方のお名前を読んでいきまーす。
魔獣先輩さん。ネクタイONLY紳士さん。過保護なパパ@彼氏の家に泊まるんじゃねぇぞさん。オラッ催眠おじさん……
常連の魑魅魍魎ぞろいじゃないですか!
酷い名乗りとか言った連中は鏡見て、どうぞ」
『ワイらは魑魅魍魎だった……?』
『ヤベえVtuberにヤベえリスナーが集まるんだゾ』
『もうコメ欄じゅうネタまみれや。あぁ^~たまらねぇぜ』
「まったく……このチャンネルらしいと言えばらしいですけどね。
さて、本日やるゲームはー? ででんっ!
ナウロ系3DアクションRPG『ナウロペア大陸冒険記』です!」
◇◇◇
【タイトル画面】
画面上部にタイトルロゴ。
中央に長剣を構えた黒髪黒目の青年。
彼の左側には青髪の無表情なローブ姿の少女が佇んでいる。
対照的に右側では白い犬耳娘が笑顔で飛び跳ねていた。
◇◇◇
『出たわね。男一人が美少女二人を侍らす構図』
『ライトノベルの表紙で5億回ぐらい見た構図やな』
『ところでナウロ系ってなんぞ?』
「ナウロ系、という言葉の発祥は『新世代作家・無限機関』こと『NEWAGE AUTHORS UN-LIMITED ORGANIZATION』……略称『N.A.U.L.O.』に投稿されたファンタジー小説群というのが有力説です(諸説あり)。
この『ナウロペア大陸冒険記』は、同名の原作小説をゲーム化したものですね。
かくいう私もおっさんの身体だった頃、通勤電車に揺られながらスマホでWEB小説版を読んでおりました」
『はぇ~スッゴイ組織名』
『かっこ諸説すこ』
『おっさんの身体だった頃とかいうパワーワード』
「ちなみに『機関』とか大仰な名称がついてますけど、別に物騒な組織とかそんなことはなく、ごく普通の小説投稿サイトです。
そもそも『無限ってなんだよ(哲学)』ってそれサイト開設当初から言われてるから」
『ぶっちゃけてて草ァ!!』
『かっことじって言え』
「かっこ哲学かっことじ!
『N.A.U.L.O.』内のランキング上位作品には、出版社から書籍化・漫画化などの打診が来ることもままあり、プロデビューされた作者さんも多数いらっしゃいます。
そうして世に出たファンタジー小説群は、いつしか『ナウロ系』と呼称されはじめました。
また舞台は中世・近世ヨーロッパ風が主であったことから『ナウロッパ』あるいは本作のように『ナウロペア』などと呼ばれるようになったと言われています」
『ほーん、なるほど』
『あれやろ、日本人がイメージしやすい「剣と魔法のRPG」的な世界観のヤツ』
『「勇者パーティを追放された俺が超有能だった件。今さら戻れと言われてももう遅い!」みたいなクッソ長いタイトルは見たことある』
『ジュゲムジュゲム(中略)ポンポコピーのポンポコナーの長救命の長助さん!?』
「寿限無は大げさですが、確かに長い作品名は多いですね。
『ナウロペア大陸冒険記』は割とシンプルな方じゃないでしょうか。
ストーリー自体も『現世で死を遂げた主人公がファンタジー世界へと生まれ変わり、冒険者として生きていく』というナウロ系の走りとも言えるオーソドックスな異世界転生モノです」
『ということは主人公最強チート系?』
『ハーレム作ろうぜハーレム』
「いえ、中級スタートで行きます。
最強設定もできますけど、ゲームバランス的にそっちの方が好きなので。
ザコ相手には無双できるけど、舐めプしてると中ボス相手に返り討ちにあって死ぬヤツですね。
百合ハーレム作りてぇなぁー私もなー」
『見た目が美少女レナちゃんでも、中身がレナおじさんなら百合とは言わないのでは?』
『あなたをジャンル詐欺で訴えます! 理由はもちろんお解りですね!?』
「よかろうジョ○ノくん、法廷で会おう。
二次元で見るぶんにはガワが綺麗ならいいじゃないですか。
それでは、プッシュスタート!」
ドスッ……!
キキィ――ッ! ズンッ!
ピシャァ――ン!!
「えー、主人公は横断歩道を渡ってる最中に通り魔に刺され、
横から暴走トラックが突っ込んできて通り魔もろとも撥ねられ、
空中に浮きあがったところを落雷が直撃して即死しました」
『いや、そうはならんやろ』
『なっとるやろがい!』
『異世界転生における死因よくばりセットやめろ』
『ピ○ゴラス○ッチみてぇな死に方してんなお前な』
『逝きすぎィ! 逝くゥ!』
『不謹慎ながら草』
『完ッッッ!! レナリリア先生の次回作にご期待ください』
「すみません。オープニングなんですよコレ」