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7 そのころイーゴンさんは……②




「なに? また失敗?」


 フロントワークスの定例集会——その内容は所属パーティの冒険成果報告である。


 それまでイーゴンはこの集会が大好きだった。

 なぜなら”成果”をたくさん聞けるから。

 飛び交う”攻略成功”の数々は、彼をこの上なく気持ちよくさせる。


 ——が。

 どういうわけか、ここ最近の定例集会は違う様相を呈してきている。


「攻略失敗」

「やむなく撤退」

「メンバーが重傷を」

「何の成果も得られませんでした」

 etc.


「どーなってんだ!!」


 イーゴンはとうとう皆の前で大声を上げる。


「お前らさっきから舐めてんのか!? まだ一個も良い報告がねえんだぞ!? 全然気持ちよくなれねえ!! たるんでんじゃねえのか!?」


 青筋を立てて怒鳴るイーゴン。

 それにボソリと、誰かが不満を囁いた。


「(おまえが悪いんだろうが)」


「あん? なんだ、今喋った奴誰だ出てこい!」


 イーゴンは耳ざとくその声を拾い、その者に詰め寄る。


「俺が何したってんだあーん? お前が弱いからいけねえんだろう? 責任転嫁してんじゃねえぞコラ」


 しかしまた別の所から声があがる。


「でも、事実その通りじゃん」

「今このギルドの状況、はっきり言ってやべえよな?」

「わかる。破綻寸前って感じだ」

「前のギルマスが好きでここ入ったけど、次の奴がまさかこんな無能とはな」

「今のうち移籍先探しといた方がよくね?」

「は、むしろお前まだ始めてないの?」


 次々——。

 溢れ出す囁き。

 止まらない——破裂しそうなほどの鬱憤が、四方八方から囁かれ続けた。


「な、なにが……おまえらいったい何言ってんだ……」


 目が回る。

 不満を浴びせられるあまり、目まいがしてくる。


「俺がいったいなにしたってんだああ!! あぁッ!? 言ってみやがれよクソがあ!!」


 一同が沈黙する。

 そこで誰かが告げた。


「マールさんを辞めさせただろうが」


「あ?」


「そうだよ、うちのギルドがうまく言ってたのはマールさんのおかげだったのに」

「クビにしちゃったのお前だろ?」

「なんでそんなことしちゃったんだろうね」

「さあ? バカなんじゃないの」


 コイツらはいったい、なにを言っているんだろう……?

 イーゴンは心の底から混乱した。

 わけがわからない。

 あのクズを辞めさせたからなんだと言うんだ。


「アニキ」


 そこでパッチが申し訳なさそうに助言してくる。


「いま、うちのギルドはどうも探知士が足りてないみたいなんでさあ」

「足りてない?」


 そもそも探知士なんていう空気職に足りないなんて事象が成立するのか?


「それに探知士ならこの前雇っただろう?」


 元王宮探知士とかいう、大層な肩書きを持ったヤツを。


「それが……、ソイツの仕事がどうも追いついてないみたいなんでさあ」

「んだと?」


 じゃあそいつのせいじゃねえか!

 イーゴンはとうとう元凶を見つけた。


「おい! 元宮廷探知士ッッッ!! 出てこい!!」


 呼びつける。

 すると、リッチな装飾のマントを身にまとう精悍な顔つきの——しかしとても疲れ切っている男が、皆に見守られながらフラフラと前に進み出てきた。


「なんだ……。俺になにか用か?」

「何か用かじゃねえ! てめえ、全然仕事回せてないんだってな! おまえのせいで皆が迷惑してんだ!」

「……なにを言っているんだ……? おまえ」


 元宮廷探知士はワナワナと震える。


「俺にこれ以上、何をさせようというんだ。俺はもう十分過ぎるほどに働いている。むしろ文句もいわず、ここまで続けている事を感謝して貰いたいくらいだ!」


 彼は鬼気迫る表情で訴える。


「通常ならば二十人は必要とされる仕事を、俺はたった一人で回している!! いいか、二十人だ! それも精鋭の探知士二十人分だ! 並以下なら倍以上を必要とするだろう仕事だ! 分かるか!? 俺は文句一つ言わず、それだけの仕事をこの一週間フラフラになりながらもこなした! 仕事していないだと? 巫山戯るな、誰にも文句をいわれる筋合いはない!!!」


 元宮廷探知士は、そこまで叫ぶと、はあはあと肩で息をする。

 そしてイーゴンはまた混乱する。


(なに言ってんだ……こいつ……?)


 この男に与えた業務は、マールが行っていた約半分の量だ。新入りへの配慮で、これでも加減していたのだ。


「……お前には、最終的に、このギルドに所属する全てのパーティの探知業務をやってもらうつもりだった」

「へあぅッ!? つまり今の倍!? お前なに言ってるんだ? そんなの無理に決まってるだろっ!」

「……いや、出来る。だってお前は元宮廷探知士だ。優秀なんだろう?」

「ああ、俺は優秀だよ! 現在、旧大陸全体で五本の指には入るであろう探知士と評価を受けている男だ!!」

「なら出来るはずだ。なぜなら前任のゴミは、一人で今のお前の倍の仕事をこなしていたんだからな!」

「はあ!? 出来るわけがない! そんなこと……このギルドを一人で支えるなんて、絶対に不可能だッ!! どんな探知士にだって、不可能な芸当だっっ!!!」


(けれどマールはあんなにも涼しい顔で難なくこなしていたぞ……?)


 だからこそ、アイツは楽な仕事で大金をせしめているんだと、イーゴンは苛立ちを覚えたのだ。


(なぜ大陸で五本の指に入る探知士が出来ないことが、あいつにできるといんだ……?)


「お前はバカだ! 無知だ! さもなくば悪魔だ!」


 それを叫ぶその探知士は、とても嘘をついているようには見えない。

 真実……?


「もうこんなブラックギルドはウンザリだ! クソが!! 俺はもう辞めるッ!!!!」


 それを言われてハッとする。

 大いに焦る。


「ま、まて! 辞められると思っているのか!? お前にはまだ契約期間が——」

「クソが! 人を人とも思わない悪魔め! あんな量の仕事をたった一人に押しつけておいて、そんな戯言が通ると思ってるのか!? ギルド連盟に報告するからな!? 指導を受けさせてやる!!」

「や、やめ、……ま、待ってくれ!!」


 必死に引き留めるイーゴン。それを振り払う元宮廷。


「(こりゃあ思ったより終わりは近いかもねえ)」

「(移籍先探しを急がないとな)」


 他のギルドメンバーたちはそうやって囁き、冷笑を浮かべていた。

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