6 好きよ、そういういとこ。
ケモ耳王国のお姫様が、僕の為に用意してくれたというその場所に案内してくれた。
「プリンタルト・モフモフートさん」
「プリンタルトでいいわ」
「プリンタルトさん」
「いえ、むしろプリンちゃんと呼ばせてあげても良い」
「じゃあプリンちゃん」
「素直ね! 好きよ、そういうとこ。あ、い、いえ、違うの、今のそういう意味じゃないの。か、勘違いしない——」
「あのさ、プリンちゃん」
彼女は僕の口調から何かを察したようだ。言いかけていた言葉をのみ込み、耳を貸す。
「な、なに……? もしかしてここ、気に入らなかった……?」
ちょっと涙ぐんでいる。耳がシュンと萎れている。
可愛い。
「いや、気に入らないって言うか……」
デカい……。
そう、彼女の用意したその建物はあまりにも巨大で、頑強で、そしてなにより立派だった。
これじゃあお店って言うより、要塞だ。
……ん?
「プリンちゃん、あそこの壁に『ゴート王国新大陸支部基地』て書かれてあるんだけど」
「…………き、気にしないで」
「もしかして……ここあなた達の前線基地予定地だったとか……いや、まさか……ねえ?」
「……………………ぐ」
「……まじ?」
「そうよ! だって仕方ないでしょ!? 見つからなかったんだもん! みんないくら札束を積もうとも、翌朝までにお店を明け渡すのはイヤだって言って聞かないんだもん!」
ほぼやってること地上げ屋だぞ、それ……。
「だからあたしたちがこれから使う予定で用意していたこの場所をあんたにあげることにしたの」
「いや、でも……さすがに……」
改めてよく観察してみると、基地だった名残が見え隠れしている。
行き場の失った多数のモフ馬たちが路肩に追いやられて肩身狭そうにしていたり、追い出された基地設備たちが違法投棄寸前な感じで建物外に悲しげに積み上げられたりしている。
そして沈んだ表情のモフモフの部下たち……。
こんなのもらえないよ……。気まずいことこの上ないよ……。
「だって! プレゼントしたかったんだもん! 絶対、絶対、良い場所をあなたに貰って欲しかったの!! あたしの良いとこ見せたかったの! あなたの喜ぶところを見たかったのーっ!!」
力一杯そう叫ぶと、プリンちゃんは大泣きをはじめた。よく見ると、その手は泥だらけだ。
そういえば昨晩、彼女は全力の四足歩行モードで宿を飛びだしていった。そのまま一晩中、街を駆け回ってくれたのだろうか。
(ずいぶんと、僕の為に頑張ってくれたんだな……)
彼女の想いで心が動く。
「ありがとう、嬉しいよ」
言うと、彼女はぱああと表情を輝かせて、くしゃりと破顔させる。
「いいのよ! ありがたく使いなさいよね!!」
そんな彼女を、部下たちはいっせいに「良かったですね」と祝福した。モフ馬たちも「ひひーん」と心なし喜んでいる。
あったか国家やん……。
でもこれからこの部下たちが、また新たな前線基地を用意することになるのを考えると、いたたまれない。
「そういえば僕、朝食まだだったな。お腹が空いて死にそうだ。プリン、何か食べる物あるか?」
「え、うん、そうね……えーと、」
彼女は部下に言って、食事を用意させる。
僕はそれをありがたく頂いた。食べ終えて、それからニコリと告げる。
「ごちそうさま。危うく空腹で死ぬとこだった。キミたちは命の恩人だな。何か礼をしたい。困ってることはないか?」
「え……、困ってること……べ、別に……」
面食らって言葉に詰まるプリン。
僕は代わりに横の——モフモフのやや年老いた執事風の部下の人に訊ねる。
「ならキミの大切な部下の困りごとを解決しようか。なにか……困っていることはありませんか?」
「え……?」
執事モフ部下は窺う様にまずプリンを見る。
「いいのよ」
プリンの了解を貰い、彼は告げた。
「実は、前線基地がこれか——」
「OK! なら良い手がある! ここを一緒にシェアしよう! 実はあまりにも立派で、広い故に持て余しそうでね。お礼に、是非、ここを使ってくれ! 僕の店は一室で結構だから」
僕が言うと、彼は全てを察して「い、良いんですか?」と喜ぶ。
「良いよな? プリン」
「……ふん、アンタがそう言うなら、仕方ないわね。使ってあげるわよ。命を救ったお返しでってことなら、断れないわ」
一件落着。
「ありがとうございますうううううう」
その後、モフ部下たちから心からの謝辞と全力のハグをされた。
まあ、と言うわけで僕は、無事、開店するお店を手に入れた。
入り口に
『マール・アッピヌオン地図店(&ゴート王国新大陸支部基地)』
という看板が立てられた。




