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5 動物好きは動物好きをつい囲いたくなる




「ふう、こんなものですかね!」


 エリアーデはそう言うと、額の汗をぬぐう。すると手のインクが顔に移った。

 僕はそれを拭き取ってやる。


「えへへ、ありがとうございます」


 別に、ええんやで。

 エリアーデは子供みたいに喜んだ。

 彼女は外見の割りに、少し子供っぽいところがある。そこが可愛いところでもあるのだけれど。


「なかなか良い出来だなあ」


 エリアーデは一日かけて、僕の作ったヤーナム街の地図を複製してくれていた。

 しめて十五枚。

 しかもなんだか可愛らしいマスコットとかも周りの空白に追加されていたり、建物がデフォルメされて描かれていたりして、僕のオリジナルより数段見やすくキャッチーに仕上げられている。


「絵が上手すぎる」

「本当ですか? ありがとうございます。昔から私、本当に何も出来ない子供で……、でも絵だけは少しだけ自信があったんです!」

「うん、本当に上手だ。エリアーデの絵が、商品の価値を高めてくれてる」

「ずっと役立たずの特技だったんですけど、マールさんの役に立てて嬉しいです」


 エリアーデは感動して少し涙ぐんでいた。

 それを見た僕もなぜか感動してしまって、二人して一緒に涙ぐんだ。

 ガシ! 同志よ!


「ちなみに僕、このモフネコ(綿のような体毛が全身をおおった丸い猫)好き。もっと増やそうぜ」

「ほんとですか! 私も気に入ってたんです! じゃあ、しこたま描いちゃいましょう! 図面をモフモフいっぱい幸せいっぱいにしちゃいましょう!」


 指示した場所にモフネコを描いていってもらう。すると数々の可愛らしいモフネコで彩られた素敵な一枚が完成した。

 すごい癒しの傑作だ。モフネコパラダイスエディションだ。


「あ、そういえばお店を開けそうな場所は見つかりましたか?」

「いや、それが……まだなんだよな」


 ヤーナムは新大陸最前線の街で商業激戦区だ。故に慢性的な土地不足で、新規オープンするスペースなどそうそう見つからない。

 今日も一日駆け回ったがダメだった。


 ——と、


 ドンドンドン。


 なにかけたたましく部屋をノックされる。


「はい?」


 扉を開くと、そこにはこの宿の看板娘たるキャロちゃんが大慌てでジタバタしていた。


「大変にゃんです! 大変にゃんです!! うきゃああ!! おっおっおっひぃ——!!」

「……おおおひ?」


 ちなみに彼女は猫科獣人であり、顎の下をコショコショしてあげるととっても喜ぶ。


「おおおひってなんだよ。それに何を慌ててんだ? 落ち着けよ、ほれほれ、きもちいいかー? ここがええのんかあー??」


 コショコショすると、猫耳と尻尾をフニャリと脱力させ「ハニャニャーん、そこそこおー」と和んだ。


「は、はっ! そ、そんなスキンシップをしている場合ではにゃいんですってば!」


 我に返り、もう一度大声を上げるキャロ。


「だからどうしたっていうんだ」

「だから大変にゃんですってば!!」

「もしかして潰れるのか? この宿」

「違います! にゃんてことを言うんですか! キャロたちではなく、大変にゃのはマールちゃんたちです! いや、キャロたちも大変にゃんですけど」


 なんだか要領を得ない。

 困っていると、彼女は「来れば分かります!」と僕の腕を掴み、一回の食堂の方へと引っ張っていく。


 すると、そこにはたくさんの衛兵を連れた、何やら偉そうなお嬢様が待っていた。

 ちなみにそいつら全員ケモ耳である。ケモ耳の一団なのである。

 なにこの癒しの集団……。


「アンタなの? あの図面を売っている人間は」


 お嬢様がそう訊ねる。

 彼女は犬科の獣人であるらしい。話す度に、白い三角耳がピクピクと可愛らしく揺れる。


「図面……?」

「ほら、この街の詳細を事細かに記した紙よ。今日の朝、旧大陸から来た司祭に売ったんでしょ?」

「ああ、なるほど。地図のことか」

「地図? へえ、地図っていうのね。街で見掛けて、どこで手に入れたかそいつに訊いたらアンタからだって」


 彼女は大袈裟に腕を組み、精一杯ふんぞり返ると言う。


「その地図とかいうモノ、とても気に入ったわ。このあたしにも寄こしなさい。この街の果実屋巡りをするのにスゴい便利そうなのよ。あの地図、隠れた名店からなにまで網羅されていたでしょ?」


 用途が可愛い。僕は快く渡す。


「いいですよ、はいどうぞ」

「——っっ!? こ、これは……!!」


 すると彼女は受け取った地図を見て驚愕した。プルプルと震えると、やがて叫んだ。


「もふううううううううううう!!!」


 もふ……?


「ああ、モフネコ……」


 どうやら彼女に渡したのは、先ほどモフネコで埋め尽くした例のアレだったらしい。モフパラエディション。


「何コレ素敵すぎるわ! この可愛らしい筆致のモフネコは勿論のこと、なにより抜きん出ているのはこの絶妙なモフネコたちの配置! 互いを引き立て相乗効果を最大限にする絶妙な散りばめ方からは図抜けたセンスを感じる!! この図面からは見るだけでモフネコ愛が伝わってくるの! デザイン監修は誰なの? もしやアンタなの!?」

「まあ、一応。描いたのは別の子だけど」

「やるじゃない! ちなみにあたしのお祖母様はモフネコ科の獣人なのよ! つまりあたしにもモフネコの血がいくらか流れてるの!」


 謎の自慢をする彼女。

 でも耳と尻尾が得意げにピクピク動くのはとても可愛い。

 そしてジーと見てると、彼女はその視線に少し頬を朱くする。


「アンタ、モフネコがすきなの?」

「もちろん」

「ふ、ふうん……そ、そう……ふうん。(てことはアンタ、あたしのことも好きってことなんじゃ……)」

「え、なんですか? 後半ゴニョゴニョ言っててよく聞こえなかったんですが」

「べっべつにい!? 何もないわ! それより!」


 彼女はビシッと指差し言う。


「あたしは旧大陸ケモ耳連合・東ゴート王国が第一王女、プリンタルト・モフモフートよ!! あんたは?」


「僕はマール、探知士です」


「マールね! あたし、アンタのこと気に入ったわ! ありがたく思いなさい」

「はい、ありがたいです、どうも」

「素直ね! それで、何か困ってることはない? 地図のお礼がしたいんだけど。例えば、自分の国が欲しいとか、観光名所になるような巨大な都市を築きたいとか!」


 例えばのスケールがデカい。


「強いていえば、この街での出店スペースが見つからないことです」

「お店ね! なるほど! 分かったわ!!」


 聞くや否や彼女は大きく頷き、四足歩行の全力ダッシュでいなくなった。


 そして翌朝。


「マール!!」


 宿に彼女が迎えに来る。

 大きくふんぞり返っており、得意げだ。


「アンタの店、用意したから! 案内するわ。ついてきなさい!!」

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