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2 暴漢どもからエルフちゃんを助けていくう




「どもでーす」

「あん? んだテメーわっ!! いったいこんな所に何のようだ!!」


 人気の無い薄暗い路地裏——そこで、そいつらを見つけた。

 三人組の大男と一人の小柄な少年。その四人組が一人のいたいけな少女を取り囲んでいる。

 男たちの手には抜き身の剣。怯えた薄着の美少女。うん、これはやっぱ来てみて正解だったな。けしからんですわ。


「通りすがりで人助けに来ました」

「んだと!? 良い度胸じゃねえか! 俺たちのお楽しみを邪魔しようとはな!」

「つーか、おいてめえ、探知士! さっき周囲に人はいねえって言ってたよな!? なのになんでさっそく邪魔が入ってんだよ! しっかりしろよな!」


 一人が小柄な少年にクレームを付ける。どうやら彼も探知士らしい。


「おかしいな……。たしかについさっきまで半径百メートル内に人影は無かったんだけど」


 探知士の少年は困惑している。


「ボクの探知フィールドは半径百メートル毎五秒・十秒間照射型。だから彼は五秒のインターバル内に百メートル圏内に侵入し、且つここの喧嘩に気付き、駆け付けてきたことになるんだけど……、そんなこと……、不可能なはずだ」

「お前なにブツクサ言ってんだよ。それより女押さえとけよ」


 大男三人が剣を片手にこちらに戦闘態勢をとる。

 うーんこいつらメチャメチャ強そうだ。

 こわ……。


「覚悟出来てんだろうな!?」

「いや……むりです、出来てないです。ちょっと待ってもらって良いですか?」

「あん?」


 僕ではどうせ戦っても勝てない。

 だから、


「【世界分析(ワールド・リアライズ)】——」


 探知士の能力を発動する。


 能力というか、正確にはただの仕様。副次効果。

 探知士が周囲の空間情報を最高精度で分析する際、世界は僕に時間的先行を許諾する。


 つまり——

 実質的に、時が止まる。


 そして探知士だけはその分析時間中の止まった世界を自由に動き回ることが出来る。

 僕の連続分析可能時間はだいたい三分。


「やれやれ」


 世界が一時停止し、あたりが暗黒に包まれる。

 その中を青い分析光が僕より周囲に発射され、通り過ぎる全てのものに関する情報を僕に献上していく。


 大男の情報も僕の中に入ってくる。

========================名前:濡れ鷺(ぬれさぎ)のヘルイック

クラス:暗殺者

練度評価値(Lv):42

所属:攻略ギルド・オールドハンターズ

========================


 意外にもそれなりに名の知れた戦士っぽい。

 探知士も同様だ。

========================

名前:身を(やつ)すサルコ

クラス:探知士

Lv:67

所属:管理ギルド・リーダーアライアンス

========================


(……ん?)


 と、サルコの方の情報で良からぬものも目にしてしまった。

========================

秘匿:旧大陸心臓教会の使徒。二重スパイ。

========================


 うー……ん。

 まあ、見なかったことにしよう。君子危うきに近寄らず。


 僕は静止した男たちから少女を取り上げ、移動する。

 シモーヌの探知範囲は百メートルだから、ワールドリアライズを解除する前にそれ以上離れておこう。


※※※


「——っ! こ、ここは?」


 目を覚ました少女はベッドの上で驚いて、あたりをキョロキョロとする。


「僕の借りている宿だ。僕の名前はマール。さっきの男たちは撒いたから、もう大丈夫だよ」

「え……?」

「どうやら君は襲われた際に気絶していたらしいね。全然目を覚まさなかった。だからとりあえず僕の部屋で休ませたんだ」

「あ、ありがとうございます」

「いいよ、困った時はお互い様だよ」

「……はい」


 そう言って笑う彼女はとても可愛らしい。


 白磁の如き肌、透き通るような髪、少し尖った耳——。

 彼女は、エルフだ。


 エルフはこの新大陸で初めて存在を確認された種族だ。

 言うなればユーラシアの先住民である。

 彼らは森の奥地で慎ましく生活しており、自然との共存をモットーとしている。故に大陸を荒らす人間たちとの仲は険悪。


 故に人里でエルフと出会うことは滅多にない。その希少性と、なによりエルフがとても美しいから、ああやって暴漢に襲われることも珍しくはないのだろう。


「……人間に優しくされたのは、これが初めてです」


 彼女はそう言うと、名前だけ(、、)を告げる。


「私はエリアーデと言います」


 それ以上は何も。

 けれどマールは彼女についてある程度(完全に不可抗力であるが)のことを知っていた。

 彼女はハイエルフだ。

 エルフの中で最も森の深きに住んでおり、故に彼女たちを実際に見た者は未だ一人もいない。新大陸の”最神秘”の一つにも数えられている超絶希少種。

 しかも王の血を引いている。

 分析時に見た情報なので間違いない。


(……けど、面倒な臭いしかしないからとりあえず知らんぷりしといた方が良いだろうな)


 本人もあんまり訊かれたくなさそうだ。


「……なにも、訊かないんですね」

「訊いた方が良い?」

「いえ、その……助かります。他の人間の方たちは、何エルフなんだとか、ここで何をしているんだとか……皆、根掘り葉掘り尋問してくるので」

「ふうん。まあ、話すなら聞くけど、話さないなら訊かないよ」


 知らぬが仏。

 知ったら僕の性格上、放っておけないし。

 本人が相談してこない限りは、自分から訊くことはしない。

 そういうポリシー。否、処世術。

 クラスの性質上、そうでもしないとまともな生活を送れない。


「あの……、私、探し物をしているんです」


 彼女は結局、そうとだけ告げた。

 多くは語れないながらも、相談できる唯一のこと。


(つまりここ(人間街)での生活拠点を欲しているってことなのかな)


 僕はそう理解した。おーけー。ならば、


「実はこれから僕はこの街で商売でもはじめようと思っているんだ。……もし良ければなんだけど、手伝ってくれたりする?」

「ほんとですか!? 嬉しいです! あ、でも……良いんですか? その、私のような何処の馬の骨か分からないような怪しいエルフを……」

「いいよ。言ったろ? 困った時はお互い様。困ってんだろ?」


 エリアーデは表情を輝かせた。


「あ、ありがとう……」


 それから涙を流した。ボロボロと。


「何も泣かなくても」

「いえ、だって……あまりにも、あなたが……その優しさが、あたたかくて……私、ホッとして……」


 その後も彼女は泣き続けた。

 もの凄く、これまで苦労してたんだろうなと、察せられる涙だった。

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