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1 今後のご健勝をお祈り申し上げておく



「おい、マール」

「うん、なに? イーゴン?」

「おまえ今日限りでクビな。明日から来なくていーから」

「…………え」


 その日、僕——マール・アッピヌオンは、突然、攻略ギルド”フロントワークス”を解雇された。



 広大なる新大陸ユーラシアが発見され、あらゆる冒険者が成功を夢見て大陸に移り住み、その未開の地の攻略を開始して五年——。


 今や世は、大攻略時代である。


 新大陸には深き迷宮や恐るべきモンスター、未知の魔法に無慈悲なトラップ——あらゆる危険が潜んでいる。

 しかし世界中の王や資産家、そして冒険者達が、大陸中に転がる手つかずの資源を手に入れる為、我先にと未攻略領域へと挑んでいっている。


 そしてこのギルド”フロントワークスは、そんな攻略組の最前線を走るギルドの一つ。

 旧大陸古王家より出資を受けて活動しており、攻略組の中でもかなりの大手と言える。

 そして、ちなみに僕はここの創立メンバーでもある。


 まあ、今クビになっちゃったけど。


「なんだ? なにか文句あんのか? あ?」


 イーゴンは最近になって新たに着任したギルドマスターだ。

 彼がギルマスになって、ずいぶんとこのギルドも様変わりした。


「クビの理由はなんなの?」

「あ? 言わなくても分かれよ、それくらい。まーいーか、教えてやるよ。お前の【クラス】はなんだ? 言ってみろ」

「……【探知士】」


 探知士はいわゆるレーダーのように自身の周囲情報を探知索敵することが出来るクラスだ。

 イーゴンは深いため息を吐き、肩をすくめる。


「正解。以上だ」

「え? 理由になってないよ」

「うるせーな、だからお前が探知士だからだ。なんだよ探知士って。冒険に我が物顔でついてきて、することと言ったらパーティの最後尾で『もうすぐ会敵しまあーすぅ』とかたまに言ってくるだけじゃねえか! しゃらくせえんだよ!!」


 大声を上げるイーゴン。


「いいか、はっきり言うと、俺は支援・管理クラスの奴らが大嫌いなんだ! スーパー現場主義だ! 戦いは常に俺ら前衛クラスが担ってる! つまりギルドは俺らで成り立ってんだ! それなのにおまえらはいつだって安全なところで偉そうにしやがって!」

「別に偉そうになんかしてないけど」

「してる! なにが『もうすぐ敵がきます』だよ!! んなの言われなくてもだいたい分かるわ!! 前のギルマスは何故かお前らなんかをやたらと尊重していたが、俺がマスターになったからには、もうそんなバカは許さねえ、徹底的に圧がけしていく! 減俸、そして労働時間の倍プッシュだ! お前らにはそれこそが相応しい!!」


「なるほど」


 コイツはダメな上司だ。

 これ以上の会話は不毛であると判断した。さっさと切り上げよう。

 なにより五月蠅いし。

 この人いちいち大声で話すから耳が痛い。目の前で立って話してんだからそんな大声出さなくても聞こえるのに。


「わかりました、じゃ、辞めますね」

「あん? 辞めるじゃねえ! クビだ! お前はクビ! なに自ら辞めましたみたいな雰囲気出してんだ! ざけんな役立たず! 探知士の中でもとりわけゴミなお前は排除だ!」

「ハイハイ、了解です。ではでは、さよなら。貴ギルドの末永いご健勝を影ながらお祈り申し上げております」

「はあ? 言われなくても俺らはこれからも永遠にご健勝だっつーの! まあお前は次の職も見つからなくてのたれ死ぬのがオチだろうけどな! 言っとっけど、泣きついてきても助けてやらねーからな!」

「りょーかいでーす、おつしたー」


 と言うわけで僕は五年勤めたギルドをあっさり辞めた。ああ、違った、クビか。ははは。

 まあ、ギルマスが替わってからのここの雰囲気、あんまり好きじゃなかったし、良い機会だったと思う。


「でも困ったなー。どうしようかな、これから」


 旧大陸の実家では妹たちが仕送りを待ってる。

 いつも手元には必要最低限であとはまるごと家族に充てていたから貯金もないし。

 僕はともかく、アイツらに貧しい思いをさせるわけにはいかない。早く仕事を作らないと。


 新大陸ユーラシア最前線A地区・仮設街ヤーナム——その簡素ながらも活気に溢れる町並みを僕はぼんやりと進む。


「ん?」


 ——と、そこで僕の”探知”に反応があった。

 ここから五キロ進んだ先の路地裏。そこで四人組の男が一人の女の子に因縁を付けている。


「んー……」


 ぶっちゃけ、日常茶飯事。

 僕の探知範囲は若干人より広い。その上探知フィールドは常時展開型であるものだから、そりゃあ拾う。この手のゴタゴタを。ことごとく。


 そんなのいちいち助けていたらキリがないよと言う人もいる。


 でも——


「しゃーなし! 行くかあー」


 僕は全部助けることにしていた。

 情けは人のためならず。

 そして困った時はお互い様だ。

 それになにより、


「良いことした後に食う飯は美味いから」


 僕の母も言っていた。

 ご飯が美味しく食べれない奴は人生の大半を糞と一緒に流してしまっていると。

 遺言だけど。

 あんまり意味は分からないけど、とりあえず一日一善は心がけてる。

面白い、先が気になると少しでも感じてくれた貴方——是非ページ下より評価をお願いします!

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書き手にとっては反応が命なので、めちゃくちゃ励みになります。気が向いた時にでもどうぞよろしくお願いします。

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