ウン・ポコ・ローコ編
兄貴… 耕一…
陽子…! 母さん…!! 生きてたのか!!
良かった…
おれは妹と母親に駆け寄り抱きしめようとした が、おれの手はふたりの身体をするりとすり抜ける
妹と母親は微笑みを浮かべている
陽子! 母さん!!
おれはガバっと起き上がった
『気が付いたかね?』
『夢…? そうだ! 陽子、妹と母親は…!!』
おれは目の前にいる見知らぬ男にそう大声で問いかけた
『亡くなったよ 生存者は君だけだ』
『そんな…』
『それより君に聞きたい事がある』
『聞きたい事…?』
『そうだ 住所、氏名、生年月日は?』
『東京都文京区〜 豊原耕一 平成11年7月7日生まれだ』
『やはりそうか…』
やはり? おれは混乱した頭の中を整理する為にまわりを見渡した
窓の無い部屋、ここは病室だろうか?
ベッドの上に身を起こしている自分を見ると真っ白なパジャマの様なものを着ている
天井には照明がひとつ、ベッドの横にはとても小さなテーブルがあり、その他には目の前の男が座る椅子しかない
全体的に酷く殺風景な部屋だった
壁も天井も、テーブルやベッド、椅子すらも真っ白でそれらは真新しく清潔そうに見えた
『ところで君は本を読まなかったかね? 奇妙な本を?』
『本?』
『そうだ ここ最近どんな本を読んだ事がある?』
おれはその問を聞いて慄然とした
そうだ 呪いの本 読むな! とタイトルに書かれていた本だ
あの本には書かれてた
おれに不老不死の呪いがかかったと
そしておれは全てを失い、いくら死にたくとも死ねない生き地獄を味わい続けると
『どうやら心当たりがある様だね 私はその本について詳しく知りたいのだよ どんな些細な事でもいい 話してくれないかね?』
おれは再びその男を見つめた
眼鏡をかけ、七三に髪を分けたほっそりとした男だ
色白で目は細く、しかしその眼光は鋭かった
『あんたこそあの本について何をしってるんだ? あの…呪いの本について…!』
男は身じろぎもせず俺を見つめ、しばらくしてからふうっと軽くため息をつくと話し始めた
『私の知っている事は少ない が知る限りに於いて話そう』
『君もニュースなどを観て最近、事故が多発している事はしっているな?』
『ああ、自動車事故や電車の脱線事故などだろう?』
『そうだ 事故の多発は今年の7月から急速に増え始めた いずれも原因不明だ そしてニュースでは報道されていないが増え始めたのは事故だけでは無い』
『事故だけでは無い?』
『うむ 通り魔、放火などの件数が7月がら急速に伸びている いずれも動機らしい動機は見当たら無い ただ、それらの容疑者が取り調べで口にする内容にひとつの共通点がある』
『共通点…?』
『それは本、呪いの本という言葉だ』