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いじめられ役

教育実習初日。緊張でいつもよりスーツが硬く感じる。


自分の通っていた小学校に来るのは、

文字通り小学生の時以来だ。


別に教師になるつもりはない。

奨学金の免除があるので一応教員免許を持っておこうと思っただけだった。


とはいえ、久しぶりにみた母校の中で自分が「先生」と呼ばれていることを考えると悪い気はしなかった。


今回指導してもらう教師たちにも知った顔ぶれが何人かいた。

2年のときに担任だった小泉先生は、おばちゃんからおばあちゃんになりつつあった。すっかり白髪で、目も細い。


「あんたとまた会えるなんてね~」


「そんな言い方しないでよ。あ、しないでください」


当時は騒がしく落ち着きがない方だった記憶がある。

先生にそう言われると、嬉しくも恥ずかしくもあった。


他の先生方も含めてささやかな談笑をしつつ、僕は小泉先生のクラスをサポートする形で実習を行うことを説明された。


知った先生だと、やりやすい。

ありがたい配慮だった。


その後グラウンドで行われた全校集会で、校長先生から紹介を受け、生徒たちからの温かい拍手で迎えられた。


集会が終わったら、そのまま小泉先生の率いる1年2組の列のお尻にくっついて教室に向かう。


それぞれ落ち着きがなくそわそわとしているものの、行儀よく列をなして教室を目指している子どもたちは、お世辞無しで愛おしかった。


歩調を合わせながら歩いていると、一人の少年が、列から飛び出した。


転んだりした動きとは明らかに違い、誰かに押されたようで、外に飛び出ると膝を擦りむいたのか膝を抑えてうずくまっていた。


慌てて駆け寄る。


子供の肩に触れて「大丈夫か」と尋ねる。

掴んだ細い肩からは、やられてもやり返すほどの度胸があるとは思えなかった。


列の方を振り向くと、彼に構うことなく進んでいる、数人の少年が顔をのぞかせてクスクスと笑っている。


胸クソ悪いとはこのことだろう。


怒鳴ってやりたい気持ちだったが、とりあえず治療しないと、と思い子供の膝を見た。


「あれ」


傷がなかった。

むしろつるっとしていて、ころんだことすら感じさせなかった。


ふと、子供の顔を見た。

てっきり泣いていると思っていた。

あるいは泣くのを必死でこらえていると思っていた。


しかし、それは全くの間違いだった。


子供はケロッとしていて、むしろ無表情に僕の添えた手をどけてくれることを待っている様子だった。


そしてーー


「・・・水田?」


そこには今から10年以上も前、小泉先生がまだおばあちゃんじゃなくて、おばちゃんだった時代に毎日会っていた奴がいた。


全く理解できなかった。なんだこれ。


そして、その掴んだ肩のぬくもりが記憶の氷を溶かして、自分も過去に水田を突き飛ばして笑ったことを思い出させた。


「おーい」とのんびりとした呼びかけ。


「あんた、早く戻ってきて~。紹介するから~」

小泉先生は教室の前で手を降っている。


じっとりと嫌な汗が首筋にあふれた。


呆然としていると、水田はパッと僕の手を振り払い立ち上がり、走った。


そして、小泉先生の横を通り過ぎて教室に入っていった。


小泉先生はさっきまで突き飛ばされてころんでうずくまっていた少年に目もくれなかった。


僕はおもむろに立ち上がり、一呼吸ついて教室を目指した。

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