偽月
僕に友達はいない。僕にとってそれは、恥ずかしいことであり、誰にも言いたくないことだ。だから、今まで『友達がいる』というウソをいろんな人にして来た。例えば、親や親戚、顔見知りの八百屋のおじいさん。全員合わせて20人くらい、嘘をついてた気がする。
最初に嘘をついたのは、母さんだった。晩飯を食べてる時、突然
『友達出来た?』
と言って来たから、
『出来たよ』
とすんなり答えた。表情が変わってないことに気づいたのは、そのすぐあとだった。
嘘がバレたと思った。
だが、母さんは嬉しそうな顔をした。
(え...)
唖然した。
嘘を通せた理由が母さんがちょろいかだけか、嘘を付くのが上手かっただけか、この2つのどちらかであるが、僕は自然と後者を選んでいた。
自然に選んでいたから、僕は嘘を通すのが得意だと心の底から思った。
人間、自身を持つと思い通りにいくらしい。
いろんな人に嘘をつけば付くほど嘘のつき方が成長していった。それと並行に嘘を付く事が確信に満ちていった。
20人目ぐらいまでいくともはや役者みたいだった。
そして今日も、水野ゆりという人物に嘘を付いた。
絶対的自信の元に、嘘を付いた。
絶対的なのに...
彼女はさらっと僕の嘘を見破った。
驚いた。
初めてだった。
手足の指の先端まで止まった。
1秒という時間長く感じた。
僕の絶対的自信は何処かへ行ってしまった...
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『まあさ、今までに友達がいなかったら私と友達になってよね!』
彼女は前を向いて、進みながら少し絶望している僕に彼女が言葉をかけた。
陽気な言葉に少しムカっとしたが、そこまで腹が立たなかった。
『君と友達にはなりたくないね
一緒にいるとめんどくさそうだ』
彼女は振り向いて怒った顔をし、僕を睨みつけたがすぐにははっと笑った。
『君は頑固だね
私と友達となってくれたって良いじゃん』
後ろ歩きする彼女に僕は疑問を持った。
『なんでそこまで僕と友達になりたいの?』
『ん〜?』
彼女は悩んでいた。悩むほどの事があるのかと思ったが口には出さなかった。
『えっとね』
『えっとね?』
リピートするように僕が言葉を発した後、彼女は土手上までを走っていった。気付いたらこの川の最後の方まで来ていたようだ。時差みたいにきた足の痛みが長距離を歩いたことを物語っている。
『私が友達になりたい理由は
君の最初の友達になりたいからだよ
じゃあまた明日、バイバイ!』
彼女は向こうの方へ走って行った。
『最初じゃないけどね...』
ぼそっと呟いた言葉は小さな風にかき消された。
新月はまた雲に隠れていく。