第二話 月の守護
「ゆりって呼んで!」
彼女は堂々とぼくの前で言った。
怪我させた事を謝ろうとしない感じだった。
今すぐにでもぶん殴りたい。でも、女だ。
殴りたい気持ちを押さえ込み、土手の上に立っている彼女までを登ろうとする。
全身の痛みはもう感じなくなっていた。
その時だ、
『ん〜これ君のバック?』
彼女は僕のバックを手に取った。
『そうだよ、君に僕の大切なバック触らないでほしいね
っておい!』
彼女はまた僕の言葉を遮り、今度はバックを開ける。
『何してるの?』
『お宝探しだよ!
ってえ〜なんか面白くない...』
エロ本が入ってると期待していたのか、ウキウキしながらバックの中を数分探っていたが、面白いものが入ってなく彼女はつまんなそうな顔をした。
そうだ僕のバックの中は普通だ。
スマホとイヤホンとお菓子、あとは・・
『あっ...』
『え?!うそ?!』
嘘だ、エロ本なんて買ってない。
そう思いながら彼女のもとに駆け上がった。
夏だからか、顔から汗が滴る。
『これって...』
彼女が僕のバックから取り出したのは、〈開運招福〉と書かれたお守りだった。
彼女に騙された。
こんな嘘に気付けなかった自分が恥ずかしい。
よし、ここはびしっとお守り如きに驚かせるなよと彼女に言ってやろう。
僕は言おうと思ったが言えなかった。
そんな雰囲気では無かった。
彼女はそのお守りをじっくり見つめていた。
見つめていたと言ってもなにか悲しそうで、
まるでゴミ捨て場に捨てられたボロボロの人形を見ているようなそんな感じだった。
『...どうしたの?』
『うん?いや〜なんか懐かしくて』
彼女は、ははっと僕に笑いかけた。
少し沈黙が続いた後、彼女は手に持っていたお守りをバックの中に入れ、バックのチャックを閉める。
ーもしやバックを返して貰るのだろうか?
そう思った瞬間、彼女は良いことを閃いたかのような顔をし、
『このバックを返してほしければ私に付いてて来なさい!』
と、火曜サスペンスでありがちな犯人を指すときの指を僕に向け、ここから数メートル先まで走っていた。
ーはっきりいってめんどくさい。
初対面の人にこんなことをする人間は生まれて初めて見たような気がする。
いや、[気がする]ではない。本当に初めてだ。
(通報してやろうか)とか、(礼儀を教えてやろうか)とか、バックを取り返すための一番良い方法を先を行く彼女を見ながら考えに考え、
そして結論を出した。
『ねぇ...』
『ん?』
僕は彼女のところまで走って行った。
考える事をやめたんだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
白山川。
僕たちの隣にいる川の名前だ。
この川は全長10kmぐらいあり、その先から
川が海に少しずつ変わっていく。
そんな川の両端にある道を今、歩いている。
時刻はとっくに9時を過ぎているのだろうか?
どれぐらい歩いたのだろうか?
ふと、浮かび上がる疑問が頭の中を巡らせていた。
変わらない風景に、蝉の鳴く音。
そして、川側からの小さな風。
僕の目に映る全ての背景が8月を感じさせていた。
夏を感じさせていた。
蒸し暑いからか風がすごく気持ちがよい。
彼女も気分が良いのかのか、1年前に流行ったJ-popの曲を口ずさんでいる。
時代遅れだと突っ込もうとしたが彼女は楽しそうにしていたから、やめた。
彼女は丸々一曲歌った後、後ろに振り返り、歩き出す。
僕が彼女の後ろ側にいたからだろう。
そして、
『高校生?』
彼女は、会話の話題でありがちなことを言ってきた。
『そうだよ』
『ここら辺に住んでるってことは...
白山高校?』
『残念、僕は隣町の赤崎高校に行っているんだ』
そう、僕はこの町の白山高校へ通っていない。
とある出来事があったんだ。
もし、白山高校に通ってたら、自分はもっとおかしくなっていると思う。
『君にはどんな友達が居るの?』
僕に友達がいるってことを前提に質問をしてきた。
いや、『友達』という存在は人にあって当然だろう。
実際、こんな僕にも東京に友達はいた。
『どんな友達って...
普通の友達だよ。
おもろい奴も居たり、頭がめっちゃくちゃ良い奴も居たり、後は・・・』
『ねぇ!!』
...
いきなりだった。
強い口調だった。
彼女は足を止め、手を握り締め、僕に近づいて来た。
なにか変な事を言ったのだろうか?
僕は彼女の目を見た。
とても真剣だった。
『私にうそついてるでしょ』
なんで?
どうして?
『どうしてそんな事思うの?』
『だって』
『...』
『目が...笑ってないんだもん...』
どうやら僕は彼女に嘘を付けなかったみたいだ。
見て下さりありがとうございました。
毎週日曜に投稿しようと思いますが、来週は少し遅れます。
すみません!(>人<;)