第一話 新月に近い月
僕には記憶がない。
いや、正しくは中学1、2年の記憶がない。だから、全て記憶がない訳では無い。実際、小学校の友達や、小6にハマってたゲームは覚えてる。だけど中1、2の記憶だけが思い出さなくて、思い出そうとすると頭が痛くなる。まるで記憶と記憶に間に壁があるようだった。
僕は田舎町に住んでいる。名前は月光町。
父さんの仕事の都合で、この町に引っ越してきたらしい。どうやら、引っ越してきたのは中3の春だそうだ。
変わった名前の田舎町だがこの町は意外と広くまた、整備されている。整備されてると言ってもコンビニやファーストフードが数件立ち、道路が綺麗になったレベルのことで、東京みたいな町やビルは立ってない。実際、電車は1時間に3回のペースだ。でも、昔から住んでる住民にとっては嬉しいことで、このような町にした町長は住民にとても評判が良いらしい。
まあ、そんな田舎町に中3の頃、入って来た。
そして、学校にも行き始めた。
親が言うには東京者という理由で人気者になったらしく友達も多かったそうだ。
『あ〜くそが』
気付けば口癖になっていた。
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『高校生は、人生の中で一番青春するものだ』
こんな言葉を誰かが言ってた。僕もそう思う。
高校入って半年、現実はそう甘いものではなかった。
全ての原因は記憶喪失だ。僕はそう思うようにしていた。
全ての原因を記憶喪失のせいにしたかったんだ。
夏休みの生活は時間感覚を狂わせる。
確か、昼の3時から夕方の6時まで3時間ゲームをしようと思ってた。
夢中になっていたのか、空の色が変わらなかったからか。
今が6時ぐらいかなと時計を見てみたら短針は8を向けていた。
(もう8時か)
僕は、小さなバックを肩に掛ける。
『行ってきます』
小声で母さんに告げ、家の扉を開けた。
夏の夜は蒸し暑い。
『東京よりかはましか』
深くため息を付きながら、吐いた。
田舎町の夜は暗く怖い。電灯はあるものの、時々“ビリッ“と消えるため逆に怖さを倍増させている。
流石田舎町。
お化けが出て来てもおかしく無さそうだ。
僕は道路を歩き、田んぼを渡り、家から20~30分離れたところにある、白山川の土手に着いた。
結構な距離を歩いたため、少し疲れたと同時に足から痛みが感じてくる。
ピリピリと痛みを感じる足をほぐしながら、流れてくる川や、並んでいる家、そして、一つ一つが輝いて見える星を眺めていた。ここにくると何故か癒される。
自然と嫌なことが消えていくんだ。
だか、ここに来る本当の理由は、癒されるためでは無い。
悩み事に対してしっかりと向き合うためである。
1人お悩み相談所みたいなものだ。
『これからどうすればいいんだろう』
最近の悩み事はこればかりだ。昨日も一昨日も。そのくせ、この悩み事は解決しないから、とても厄介である。
中3の頃の自分はどんな性格だったのだろうか?
中3の自分は今の自分より笑えてるだろうか?
『月のうさぎが中3の頃の記憶を届けてくれないかな〜
なんつってw』
星空を見上げながら言ったけどうさぎは来なかった。
そらゃそうだ、うさぎが来たら驚きもんだ。
周りに誰も人が居なくて安心した。
そんな下らないこと考えてた時だった。
『ねぇ、君』
後ろから声が聞こえて来た。若い女の人の声だ。
どうせ自分ではないだろう。そう思って無視をした。
???『おーい!聞こえてる?!』
声がだんだん大きくなってくる。近くに友達でもいるのか。こんな田舎の夜に川にいる友達なんて不良しかいないだろう。ということは、後ろにいるのはその友達?
「...」
急に声が聞こえなくなった。今聞こえるのはセミの声と川の流れる音だけだ。...いなくなったのか?
不良だと思ったから少し安心した。
『わぁ!!!』
『うゎぁぁぁぁ』
ヤンキーの若い女のイタズラにものすごく驚き、体を崩し転倒した。土手だったため、坂から転がすボールみたいに転げ落ちた。体全体がじんじんする。
『はっはっっっはっ』
『アンタ誰?!失礼極まりないでしょ?!?!
体痛いし!どうしてくれるの!!』
その女の人はツボに入ったのか、僕の声を無視し、笑い続けていた。
1分後、若い女の人は深い深呼吸をした。やっと喋る気になったんだろう。
『え〜と。なんだっけ...?』
『いやだから・・』
『ああ、そうか!名前ね!』
女の人は僕の言葉を遮るように喋った。
『私の名前は水野ゆり!
これからはゆりって呼んで!!』
『え?』
ゆっくりと流れる雲から顔を出した新月に近い月。
その小さな月の光が彼女を輝かせていた。
閲覧して下さりありがとうございました。
全10話を予定に作ります。
もしかしたら不定期投稿になるかもですが、週一投稿目指して頑張りますのでよろしくお願いします