*6* 春の夜の夢。
ひとまずここで完結とさせて頂きます。
長い期間の休みを挟んだのに
再開に気付いて下さった読者様達に沢山の感謝を(*´ω`*)
お弁当を食べたあとすぐに調理して食べるのも勿体ないということで、昼寝をしたり、探索をしたりと思い思いに過ごし、じゃあこの際今夜はここで星と夜桜を贅沢に楽しもう! となったのは至極当然の流れだったように思う。
野営の準備に取りかかったのは、雲に反射していた夕焼けの輪郭がぼやけてきた頃。そんな春の薄桃色の靄に包まれた幻想的な景色の中、目の前には持ってきたまな板の上から溢れ蠢く謎食材。驚きの生命力だ。
時間が経ったことで表面が程よく渇き、ややウツボ感のあるマットな肌になってしまっている。捌こうにも絶妙な弾力があってナイフで切ったら爆発しそうで怖いので、今日はその道のプロに頼むことにした。
「それではイワナガ女史、この生物の仕留め方をご教授下さい」
「フヒュン」
「成程、まずは暴れないように両側を押さえるんですね」
「キュー……グルルル!」
「おおっと、ここで野生を出してきましたか。いきなり腹に噛みついて……口をつけたまま溢れる体液が飛び散らないように啜る……と。ひえ、体液が紫色してる。あとで口の周り拭いてあげるね。ふむふむ、それで?」
「フシュー……フン、ガフ、ガフ」
「腸を引き出す……って、うわー……この魔物って腸がすでにウインナー状に分かれてるんだね。あ、しかも食べられるのはこの腸だけなんだ? でも……おお、砂肝みたいな触感なのかと思ってたら意外とハツっぽい感じ」
さっきからこの実況中継をしながらの解体ショーを見つめる男性陣の目は死んでいる。でも待って欲しい。最終的にはきっと美味しいものを作ってみせるから。それから下で殺生してごめんなさい、チェイニーの木。あとで肥料がわりに何か埋めて行くから許してね。
――と、いうことで、解体をしてくれたイワナガの口許を拭ったあとは、早速デートメニュー開発に取りかかった。
◆◇◆
★使用する材料★
謎の腸 (焼き鳥缶詰め。もしくは鶏モモ肉)
パイ生地 (春巻きの皮を二枚重ねたものでも可)
チーズ (スライスでもピザ用でも可)
パン粉 (ドライ)
☆バター
☆塩
☆砂糖
黒胡椒
☆赤ワイン (☆が付いてる調味料は缶詰めの場合不要)
☆茹で塩適量
◆◇◆
まず最初に謎の腸を小さく切って小鍋で塩茹でにする。私は何を隠そう、火を通せば食中毒の可能性は半減すると信じる教だ。ちなみにシュテン達の分は塩茹でしただけのものでストップ。火が通ったら湯を捨てて見分けがつくように別々のお皿に取りおく。
熱した小鍋にバターを落として片方の皿の腸を投下したら、赤ワイン、塩、砂糖を加えて煮詰める。飴化して腸に絡むくらいがこの後の工程的に良い。汁気はちょっとだけ残すつもりを心がけて最後に黒胡椒をパラパラッと。それが出来たらもう一度皿に取って、今度はしっかり冷ます。
冷めるのを待っている間に魔法紙に挟んで街から持ってきたパイ生地を解凍し、正方形に伸ばして四等分にする。真ん中にちょっとだけパン粉を敷き詰め、その上に冷ましておいた腸を乗せ、上からチーズをかけて四方の生地を中心に持ってきて包む。包み目は破れないようにしっかり閉じること。
再び小鍋を火にかけてバターを多めに投入したら、包み目を下にしてソッと入れ、しばらく触らないで下にした面がきつね色に色付いたら、そーっと裏返して同じくきつね色になるまで揚げ焼きに。綺麗に揚げ色がついたら取り出して、しっかり油を切る。
温かいうちに食べた方がパリッとしてるから慌ただしく全員分のお皿に取り分けて並べていたら、ウルリックさんがマグカップにワインと水を用意してくれて、シュテンとイワナガはデザート用になのか、果物っぽいものを幾つか採ってきてくれたらしい。
一個だけ包み方が甘かったところからチーズが漏れた分を自分の前に並べたら、自然と皆が車座になって、頭上から降ってくる花弁がお皿の上のパイ包みの上に彩りを添えてくれた。
恐る恐るパイ包みに牙を突き立てるシュテンと、用心深くフォークを使って一口大に切り分けるウルリックさん。私とイワナガも一人と一匹が口をつけた姿を見届けてから、自分のお皿の上に乗ったパイ包みに牙とフォークを突き立てる。
サクッと良い音を立ててフォークがパイ生地の層を突き破り、中からチーズと赤ワインをまとったお肉が溢れ出た。掬い上げれば糸を引いたチーズが滴って、食レポに使われる引きみたいな魅力的な画になる。香りが飛びにくいよう最後に加えた黒胡椒も良い感じだ。
大きめに切った一口を頬張って噛み締めてみると、鳥のモモ肉と牛の赤肉の間っぽい食感になっている。だとしたらお店で出すには値段の問題でモモ肉かな。でも赤ワインで煮込むなら牛も捨てがたい。
中に敷くパン粉を増やしてシチュー系のとろみがついたものはどうだろう? そんなことを考えながら一口分を飲み込み、マグカップの赤ワインに手を伸ばす。
「だから本当に何であの食材で美味くなるんだ……魔力も馴染む……」
「フューン……」
「ふふふ、だから食わず嫌いは駄目なんですよ。ね~イワナガ?」
「ウォフ、キュフン!」
ちょうど男性と女性で数がぴったり分かれたことで、ある種の平等性が生まれたのは良いことだ。ご機嫌で赤ワインを飲みつつ暗くなり始めた空を見上げると、暖を取るために燃やす焚火に照らされた花弁が白く浮き上がる。
ここには桜祭りの提灯もなければ、妹と何を買おうか財布の中を見せあって巡った出店もないし、すれ違うことに困るくらいの人も喧騒も、酒屋の店主なのにお祭り金額の缶ビールを買ってお母さんに怒られてるお父さんもいないけど。
他に欲しかった何もかもが、全部、全部、揃っている。
私の中で前世の記憶で見た風景とこの時間がゆっくりと撹拌されて、徐々に溶け合っていく。また込み上げてきた涙で滲む夜空とチェイニーの花を見上げていたら、いつの間にか隣にウルリックさんが座っていて。
「今日な、本当はデートに誘ったつもりだった」
「…………ウルリックさんの目から見て、デート、合格ですか?」
鼻をぐずらせてそう言えば、ウルリックさんが乱暴に私の頭を抱き寄せて自身の肩に押し付け、ギリギリ聞き取れるくらいの声量で「メニューとしてならな。オマエはどうなんだよ」と、聞いてくれる。
「へへ……大満足です。ありがとうございます、ウルリックさん。大好きです」
言葉はすぐに伝えないとこの花弁みたいに散ってしまうから、思ったままを口にして笑ったら、唇と唇が重なって。
「オマエの大切な記憶に上書きしろとは言わねぇが、ここにオマエがいることを間違えたとは思わせない」
囁いて。口付けて。抱きしめて。目蓋を閉ざした裏にちらついたのは、桜に良く似た薄桃色のチェイニーの花弁と、優しく甘い深緑の双眸だった。
パイ生地で作る場合はオーブン用の生地なら玉子を表面に塗って、
210℃くらい(余熱してね)で20~25分くらい焼くと見映えがします。
機種によって違うので、焼き色が綺麗についたら止めて良いと思います。
トースター用ならもっと簡単に出来るよ!
黒胡椒の代わりにラー油と山椒とマヨをかけても美味(*´ω`*)