*3* 色違いの新入りさん。
ウルリックさんに許可をもらってベーコンを……今度はブロック状のやつを一つ差し上げたところ、すっかりその味が気に入ってしまったのか、硬いベーコンを前足で支えながらうっとりとした表情で味わう白い狼。
「ま、これも送り狼といえばそうだな。大方シュテンの真似をして仲間に入れてもらおうと思ったんじゃないか?」
そのあまりに幸せそうな表情にそういうウルリックさんの視線を感じたのか、白い狼ははたりと自信なさげに尻尾を振る。
その隣では同じベーコンを囓るシュテンが尻尾をこれでもかと振りつつ、初めての同族に興味津々といった視線を送っていた。突然異世界に転生した身だから分かるよ、同族がいると嬉しいよね。
「それはたぶんそうなんでしょうけど、教えてもいないのに採取ができるなんてなかなか見処のある子ですよ。仕事も丁寧なんですよ。ほら」
そこで私はちょっとした下心混みで、白い狼が採取してくれた木の実を掌に乗せてウルリックさんの隣に腰を下ろす。さっきまで採取していた黒い実と黄緑色の実を見せると、ウルリックさんも目を細めた。こちらの言いたいことに気付いてくれたらしい。
「これは……軸をひねって収穫してあるのか。牙で傷もつけないで器用なもんだ」
「ね、ね、凄いですよね! 私も驚いたんですけど、あの子はたぶん唇の部分で採取してるんですよ」
「犬の唇ってあるのか?」
「まぁまぁ、そういう細かいことは置いときましょう。ここは純粋に器用で賢いってところだけに着目してあげましょうよ」
口でウルリックさんに敵う気は一切していないから、何とか勢いで乗り切ろうとズイッと掌の木の実を見せつける。けれどウルリックさんは小さく鼻で笑ったかと思うと、いきなり私の手首を掴んで掌に乗っていた木の実を食べてしまった。
彼の唇が掌に少し触れてすぐに離れる。ウルリックさんには何の意図もないのだろうけれど、私はたったそれだけのことで一気に顔に血が上るのを感じた。
そうして木の実を咀嚼しながら、フッと笑って「下心ありありの表情したやつが“純粋”にとか言っても、説得力がなぁ?」と。こちらの企みまでも言い当てられてしまう。なのでもう開き直ることにした。
「では単刀直入にいきます。あの子を連れて帰っちゃ駄目でしょうか」
「あ? 別に駄目とは言ってないだろ」
「え? でも昨日は今回は諦めろって言ったじゃないですか」
「それはアイツが俺達を見て逃げたからだろ。逃げる野性動物は臆病で何をしでかすか分からんから魔獣でなくても危ない。けど今日見た感じだと意外に人懐っこそうだからな。あれならアカネが躾れば店で飼えるだろ」
ひょいっと肩をすくめてそう言うウルリックさんの言葉に安堵したら、今度は嬉しくて無性に抱きつきたくなってしまった。でもここで抱きついたりしたら現金なやつだと思われそうで悩む。
いや実際に現金なんだけど、それだけではないというか、とにかく抱きつきたくなったのだ。この発想はまるで変態さんではないだろうか――……と。
「急に黙りこんでどうした? もしかして二人と二匹分の食費の心配でもしてるなら、あんまり俺を舐めるなよ。オマエとアイツ等の生活費くらいなら稼いでこられる。だから……笑えよな」
ぶっきらぼうでバツの悪そうな彼の言葉に、考えるよりも早く身体が動いた。ほぼ脊髄反射で上半身をひねり、隣に座っていたウルリックさんに体当たりのように抱きつくけれど、その身体はびくともしない。
それどころか逆に抱きしめ返されて焦る。まるで壊れ物のように優しく抱きしめられているのに、忙しなく動く心臓のせいで内側から破裂しそうだ。
胸が痛いくらいにドキドキするのにちっとも嫌じゃない。ウルリックさんの肩口に額を預けてジッとしていたら、不意に耳許で「何だ、気が利くなオマエ」とどこか面白がる響きを含んだ声がして。
意味が分からないまま額を肩口から離して振り返ると、そこにはシュテンの前に立ちはだかる白い狼の姿がある。どうやら朝みたいに私達に飛びかかろうとしたシュテンを牽制しているみたいだ。天真爛漫なシュテンとは違って気遣い屋さんなんだろう。
いかにも不満げな様子のシュテンには可哀想だけれど、たまには……なんて思っていたら、ウルリックさんと視線が合った。無言のままどちらともなく重ねた唇の感触に思わず照れ笑いを浮かべた私に、ウルリックさんが「木苺味とは春めかしいな」と笑いかけてくれる。
でもそんな甘酸っぱい空気を打ち破ったのは結局のところシュテンではなく、私のお腹の虫達で。季節違いのコオロギみたいに“コロロロロロ”と腹時計が鳴いたので、それを期にシュテンがウルリックさんから奪取してきた鳥肉と、私と白い狼で採取した材料を並べて昼食の準備に取りかかることにした。
◆◇◆
★使用する材料★
黒い木の実 (完熟アボカド)
黄緑色の木の実 (白玉粉。むしろ市販の餃子の皮)
チーズ (スライスでもピザ用でも可)
バター (サラダ油でも可)
塩、胡椒
◆◇◆
まず最初に小鍋にお湯を沸かして、黒い木の実と黄緑色の木の実を茹でる。黒い木の実は茹でるとブドウみたいに皮が綺麗に剥けたので、温かいうちに潰してチーズと塩胡椒を加え、粘りが出るまで混ぜて冷ます。
お次は黄緑色の木の実を……と思ったら、黄緑色の木の実は茹でてしまうと白く濁った色になり、ナタデココっぽさを失ってしまった。ただその代わりにモチモチとした白玉っぽい食感になったから、ナタデココよりは使いやすいかもしれない。
けれど前世テレビで得た情報では、海外の人はお餅の食感が苦手な人が多いと言っていた。もう最新の情報ではないけれど、そのことを考慮して揚げ焼きにしてみようと思い付く。
私の隣では自分の採取したものがどうなるのか興味深そうに覗きこむ白い狼。シュテンはさっき通せんぼをされたせいですっかり拗ねて、今は弓の手入れをするウルリックさんの膝に頭を乗せて寝ている。
こちらからはふて寝するシュテンの背中しか見えないけれど、時々ウルリックさんが大きなその頭を撫でると尻尾をパタパタと振っているから、あんまり心配しなくても大丈夫そうかな?
シュテンの後ろ姿を眺めて手が止まっていたら、隣から遠慮がちに白い前足が伸びてきて、私の手の甲をポフッと叩いた。そんな可愛い催促に応えないわけにはいかない。早速白く濁った実を潰してお餅状にし、できるだけ丸く薄く伸ばしてから、中に餡となる黒い実をくるむ。
餃子の皮とかならもっとくるみやすいのだろうけど、白玉粉に近い弾力の皮だとちょっと不格好なおやきみたいになってしまった。単に私が不器用なだけなのではないかという疑問には蓋をする。
熱した小鍋に多めのバターを溶かして、油がはねないようにソッと滑り込ませた。しばらくするとおやき擬きが膨らみ始めたので、破裂される前に尖った枝先で空気を抜いてやる。カリッとは揚がらないまでも、それなりに美味しそうなきつね色に焼き上がった。
すると興味が食欲にすりかわったのだろう。隣にいた白い狼が「ヒューン」と小さく鳴いた。その声を聞きつけたシュテンが飛び起きてこちらに来てしまう。両側からフワモコに急かされるものの、昼食の量としてこれだけでは足りない。
「こら、そこの白黒。邪魔してるとその分飯が遅れるぞ。アカネも、何か手伝うことはあるか?」
「あ~流石ウルリックさん。助かります。それならこの子達お腹が空いてるみたいなので、これを先に食べさせてあげてくれませんか?」
「ん、了解。ほら、冷まして食わせてやるからこっちこい」
援護にやってきてくれたウルリックさんに大きめのおやき擬きを乗せた木皿を預けると、二匹は尻尾をふりふりついていく。微笑ましい気持ちでその姿を見送りながら、今のやり取りはちょっとだけ子供のいる若夫婦みたいだと思ってしまった自分の妄想に悶える。
結局もう一品のコチュの芽と鳥肉のガーリックバター炒めを作る間も、二人と二匹で賑やかすぎる昼食をとる間も、何となく気恥ずかしくてウルリックさんを直視できなかったけど――。
夜になって新しく一本増えた川の字を眺める頃には、しみじみと幸せだなぁ思えるほどには落ち着いていて。身体を丸めてスピスピと寝息を立てる白い狼と、そんな新入りを見つめて火の番をしてくれるちょっと頼もしいシュテン。
それから――。
「こういう風に家族が増えていくのも悪くないな」
「はい、そう……ですねぇ」
ゆったりと訪れる微睡みの中、隣で夜空を見上げてポツリとそう言うウルリックさんの横顔は穏やかで。見つめないのは勿体ない気がしたから、昼間に見つめられなかった分も眺めて脳裏に焼き付ける。
「――おやすみ、アカネ」
かつて目蓋が落ちることを怖れた私は、どの世界にも、もういない。
アボガドに少量のマヨネーズと砂糖を加えればより味に深みが出ます。
今回は片栗粉と間違えて白玉粉を買ってしまった時のオツマミなので、
もっと簡単に作るなら市販の餃子の皮か春巻の皮がベストです(*´ω`*)
スイートチリソースを添えて食べても美味。
アボガドブームに乗ってそのままサラダにした時に、
口の中に広がる匂いでやつを生で食べるのは諦めました。
揚げると匂いが飛んでしまうので大丈夫です(アボガド好きに謝れ)
感想欄にてNEWレシピ!
生食の方法を読者様から頂きましたので、
気になる読者様は今すぐチェック☆(*ゝω・*)




